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家事代行サービス利用の広がりを考える(2)

5月14日の日経新聞で「家事代行ベアーズ、外国人「プロ」5割増 狙う出社回帰」というタイトルの記事が掲載されました。以前の投稿「家事代行サービス利用の広がりを考える」でも家事代行についてテーマにしましたが、市場が拡大しそうであることを改めて感じます。

同記事の一部を抜粋してみます。

ベアーズやCaSy(カジー)といった家事代行大手が人材や質の確保に動く。共働き世帯は30年間でおよそ4割増え、足元では「出社回帰」も進み、国は5月にも利用支援の実証事業を始める。ベアーズは外国人材を5割増やし、約400時間の研修でスキルを磨く。業界全体で品質のバラツキや人手不足を解消し、身近なサービスに育つかの転機を迎える。

「ガラスや鏡は一方向に拭いてムラをなくしましょう」。5月上旬、フィリピンから今年来日したリゼルデシ・ムンダクルズさん(31)は真剣な表情で、ベアーズ本社内のリビングのような空間で講師の指導を受けていた。日本語はまだ不慣れだが、「日本人の求める高い質のサービスを提供したい」と意気込む。

ベアーズには約300人の外国人材が在籍してきたが、同社は2024年中に新たに約150人を雇う。足元で需要が増え、フィリピンで家事代行の国家資格を持つ人材などの即戦力の獲得を急ぐ。

帝国データバンクの最新調査によると、家事代行の市場規模は21年度に約807億円と5年間で2倍超に成長した。それでも同社が23年に20〜40代の消費者約2200人から回答を得た調査で、家事代行サービスを「利用している」と答えたのはわずか1.8%だった。「知っているが使ったことがない」との回答が75.7%を占めている。

一方で家事について、ほぼ半数の世帯が「負担に感じている」とし、潜在需要は大きい。料金の負担、品質や安全性の担保が課題となる。野村総合研究所は過去、家事代行の市場が25年に少なくとも2千億円になると推計した。担い手が足りない中で、市場は現状の2倍超になりそうだ。

「洗濯やアイロンがけを2週間に1度依頼している。残業も多くて生活に余裕がなかったが、週末に出かける時間ができた」と話すのは都内の大手金融機関に勤める女性(35)だ。新型コロナウイルス下では在宅勤務が多かった。だが次第に出社が増えて、23年11月からカジーが手がける家事代行のマッチングサービスを使い始めた。

普及に向け、金銭的負担が大きな障壁の一つとなる。家事代行の利用率が10%以上のフランスやドイツでは、利用する世帯に税制優遇を設けるなど国の支援がある。日本政府は5月にも中小企業が福利厚生に家事支援サービスを導入する場合、費用の一部を補助する実証事業を始める。

料金を抑えてターゲットを広げる老舗企業もある。家事代行の"パイオニア"のミニメイド・サービス(東京・渋谷)は1983年に富裕層向けに創業した。近年は短時間で割安なコースを始め、サービスの利用回数が5年間で3倍になった。2〜3年で人員を5割ほど増やす方針だ。19〜21年にかけて関西、中部、九州に直営店を開いた。今後、直営店でサービスを展開していない北海道や東北への進出を検討する。

同記事から、3点考えてみました。ひとつは、社会・経済を取り巻く環境変化に伴って、いろいろなところに新たな市場、あるいは市場拡大の機会があるということです。

家事代行について、市場規模が21年度までの5年間で2倍以上に成長し、これからの2年間でさらに現在の2倍以上に拡大する見込みとあります。家事代行サービスの認知率が80%近くありながら利用率はまだ1.8%とありますし、この1.8%という利用率も、利用頻度でいうとまだ低調であることも予想されます。

フランスやドイツでは利用率10%以上とあります。文化的な要因も絡みますので、日本での家事代行が簡単にフランスやドイツ並みに普及するとは思えませんが、上記の市場拡大は十分に見込めそうだと想定されます。

かつて家事代行というサービスは、一般的な生活者にとっては遠い存在のものでした。しかし今では、核家族化や単身世帯の増加、夫婦共働きの増加、タイパ重視の価値観の広がりなどもあり、身近なものになりつつあります。人口減少の影響もあって沈む市場もあれば、成長する市場もあるということです。

事業を「お客さまのために困りごとを解決するお手伝いをすること」と認識すれば、需要はいろいろなところにあり、有望な市場を見出せば事業機会になるということを改めて感じます。

ただし、有望な市場は参入者が多いということでもあります。自社ならではの強みでどんな解決のしかたをするのかを研ぎ澄ませる必要もあります。

2つ目は、私たちは一度味わった便益を手放そうとはしない、ということです。

コロナ禍で一気に普及したテレワークという働き方から全面的な出社に戻そうとして、従業員側の反対にあうという記事を、時々見かけます。このことは、日本に限らず他国も含めて共通しています。

以前は、いつ何時でも現地・現物で対応する出社勤務が当然で、ほぼ唯一の働き方の選択肢でしたが、コロナ禍で多くの人が強制的に在宅勤務する必要があったことで、この概念が大きく変わりました。そして、すべてではないものの、テレワークでも仕事ができる、そのほうが快適だ、ということを一度味わうと、簡単に元に戻そうとはならないというわけです。

それでも出社に戻すとなると、同記事の例のように、以前は負担に感じていなかった家事に充てる時間に対して、今度は新たに負担に感じてしまうというわけです。このこともあって、家事代行市場が成長するのだろうと思います。

家事代行が便利で快適、割に合う、ということを味わうと、「すべての家事を家族内で」という元の状態には戻らないかもしれません。そうなると、さらに家事代行市場が広まりそうです。

多くの人が「一度味わった便益」として挙げられるものが何かを見出せば、拡大する需要が見えてくるかもしれません

3つ目は、強みを持つ人材の活用です。

家事代行という仕事は、プロとしての知識と技能を習得し、慣れてしまえば、多くの人にとって可能な仕事かもしれません。そのうえで、(私はフィリピン事情を詳しく存じませんので、同記事からの想像ですが)既に家事代行大国であり、家事代行という概念やサービス、大家族の中で相互扶助の生活が一般的なフィリピンからの来日者は、家事代行という仕事に対して一日の長があるのではないかと思います。このことは、介護士という領域で来日し活躍する人が多いことからも想像できます。

比較優位の考え方で、お互いの強み領域を融通し合いWin-Winの関係をつくるのが、お互いが発展、満足するための基本原則です。そのことに適した人材が就業を希望するのであれば歓迎し、売り手買い手の双方がそれに適応することは望ましい動きだと言えると思います。

<まとめ>
お客さまの新たな困りごとを発見する。

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