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従業員の個人事業主化を考える

先日、ある経営者様から、自社で行っている独立支援の仕組みについてお聞きする機会がありました。従業員としてやっている仕事を、個人事業主となって業務委託を受けて取り組む形にするというものです。

従業員を個人事業主化する取り組みとしては、計測器メーカーのタニタの例が話題になりました。BIZHINT記事「タニタや電通でも進む「従業員の個人事業主化」弁護士が語る導入の注意点」では、次のように紹介されています。

<手順>
1.制度の利用を希望する従業員とタニタが、収入の見通しなどについて協議する。
2.協議で合意に至れば、それまでの雇用契約を解消し、従業員が退職する。
3.元従業員は個人事業主となり、あらためて業務委託契約を締結し、タニタの業務に従事する。

<元従業員への配慮>
・制度の適用には年齢制限がなく、従業員の選択に委ねられており、タニタから強制されることはない。
・元従業員は、タニタの仕事だけでなく、他社の仕事も請け負える。
・従業員時代の社会保障費の会社負担分は、独立後の業務委託報酬などに組み入れている。

<従業員との違い>
・就業規則が適用されない。
・雇用保険などの対象にならない。
・働く時間や場所などの拘束が少ない。
・いわゆるフリーランスと同じ社会保障制度が適用される。

冒頭の企業様の例も、そのお話の内容から、上記タニタの例と類似している制度だと感じました。基本的に、従業員が選んでもよい選択肢として提示されていて、選ぶ義務はありません。「個人事業主化した場合、収益はこうなる」というモデル提示して、収入がどのようになっていくかのシミュレーションも会社側から丁寧に提示します。そして、同社様の仕事以外の他社の仕事をするのも自由となります。

両社の事例で共通していると思われる前提を、3点挙げてみます。

・人員削減のための制度ではない

基本的に、選ぶか選ばないかは自由ですので、従業員削減という結果になるかどうかは分からない前提の施策です。当然ながら、こうした施策が人員削減を主目的としたもので始まると、従業員の側の認識は「体のよいことを言っているが、要は首切りだ」のようになり、歪んだ制度になってしまうでしょう。

・各人と組織のパフォーマンス最大化を目指した制度である

では、何のために行うかというと、大きくは各人と組織のパフォーマンス最大化ということに尽きるでしょう。実質的には、社内で従業員として雇用されながら担っている仕事や役割と同じ(少なくとも当面は)。しかし、個人事業主化して担ったほうが、成果と、結果としての本人の満足度、会社の風土が高まるから行うのだということです。

なぜパフォーマンスが上がるのかというと、上記のような働き方を主体的に選んだほうが張り切って仕事ができる人であるからということになります。向き不向きがあり、向いている人が選んだ時にパフォーマンスが上がり、周囲にも良い影響をもたらすということです。

・エース級社員であっても手を挙げたら認める

「会社に残ってほしい人が選ぶと困る」というような制度だと、うまくいかないのだと思います。どのような人が選んでも、その人が個人事業主化した働き方のほうが向いているのであれば、従業員として仕事をしている状態よりも、個人も会社もWin-Winになるはずだという前提が、有効なのだと考えます。

同制度によって、個人の側としては仕事の裁量や働き方の自由度が高まることが挙げられる一方、会社側にとっての副次的な効果としては、労務管理リスクを下げることができる点が挙げられます。

加えて経営者様は、予想以上の効果として「元従業員との関係が、従業員として在籍していた頃よりも良好になった」ということを挙げていました。

個人として独立すると、たいへんさが身に染みるようです。例えば以前は「面倒な書類手続きだ」と思っていたような経理の仕事なども、自分でやらなければなりません。経営者のたいへんさもわかり、自分の手が届かない仕事を自分の代わりにやってくれている社員への感謝の気持ちも高まって、自社に対して協力的になってくれる人もいるそうです。(全員かどうかは分かりませんが)

会社やその他の社員の側も、これまでは自立して去っていく人に対して、排除のような扱いや見方だったのが、一定の関係性を維持する前提の見方に変わったと言います。

今後は、定年後のことも見据えたシニア層が、長期間社会的な活躍を続けられる下地作りの働き方の選択肢として、同制度の活用をより発展的に考えていくのも有効だと思います。

会社から離れることを選択肢として提示する制度というのは、妙な感じもするかもしれませんが、独立志向が高い人材はいずれ離職する可能性も低くないかもしれません。そのように考えると、長期にわたる関係性を築いておくひとつの方法として、個人事業主化はやり方によっては有効かもしれないと考えます。

<まとめ>
当事者双方にとってパフォーマンスが高まることが大切。

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