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労働組合の今後の役割を考える

3月8日の日経新聞で「三井物産、労組が人材戦略 キャリア開発の要に 120職場のニーズ分析、副業など実現」というタイトルの記事が掲載されました。三井物産の労働組合を例に、賃上げ交渉ではない別のことを活動の主体にしようとしている組合について取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

三井物産の労働組合が働き手のキャリア開発の要になっている。約4千人の全組合員を対象とした調査で、働きやすさのデータをスコア化し、約120の職場ごとに課題を分析する。経営側に人材戦略を提言し、大手総合商社として初の幅広い副業制度などにつながった。

2023年11月から今年3月にかけ、三井物産の約15の事業本部それぞれで、本部長と組合員の「ミニ労使交渉」が開かれている。夏に人事制度改革を予定し、一般社員は事業開発など3つの職務領域から希望のキャリアを選べるようになる。

どんな資質が求められて育成はどうなるか、働きがい向上への課題は何か。組合側が働き手の期待や不安をデータや肉声で集め、経営側と運用の改善点の議論を重ねる。

「本部長対談」は2010年代前半に始まった。ここ数年で労使がボトムアップで人事施策を共創する場に変わり、社員の働きやすさの向上に不可欠の仕組みとなった。

伝統的に日本の労使交渉は賃上げが軸だ。働き方改革などの議論も増えているが、労務担当役員と労組代表のトップ交渉が多い。職場ごとに労使で人事施策を密に議論し、実際に新たな制度を実現させるのは珍しい。

スタートアップに大学講師、画家――。三井物産は23年1月、原則禁止だった副業について、会社の許可を条件に解禁した。大手の総合商社では先行モデルで、きっかけは労組の提言だ。21年から組合員の要望の強さなどをデータで示し、報酬だけが目的の場合などを除きつつ、柔軟なキャリア形成や会社の成長力につなげる制度として誕生した。

20年以降、労組の提案を機に若手の海外経営学修士号(MBA)プログラムへの若手派遣拡大なども実現した。約15人の組合員がキャリアコンサルタントの国家資格を持ち、課題の解決に動く。

強みは労組独自の「ボトムアップアンケート」だ。毎年、全組合員に「キャリアの選択肢が拡大しているか」「希望への適切なフィードバックがあるか」など約30の質問を投げかける。通常の人事面談もあるが、労組アンケートは若手らから「評価への影響を心配せず、本音を話しやすい」と回答率は8割にのぼる。

結果を人工知能(AI)も駆使して分析。約120の職場ごとに「働きがい」や「人事評価の満足度」など5項目でまとめる。「業務と希望の合致」などの要因が、仕事の意欲にどう影響しているかの相関も調べ、組合員や経営側に共有する。

1962年設立と長い歴史を持つ三井物産労組。90年代までは他と同様、賃上げ交渉が最大の役割だった。その後、業績連動報酬の導入などで賃金交渉の意義が下がった。加入者も減り、2012年には解散危機に。そこで、組合員から要望の多かったキャリア支援に軸を転換してきた。

19年には組織名を親しみやすい「ミツイ・ピープル・ユニオン」に変えた。人材育成の仕組みづくりなどに関わり、松井公行委員長は「働き手が戦略に納得感を持つことが、会社の発展を通じた組合員利益の最大化につながる」と語る。経営側も「ボトムアップで社員の声を集め、会社側が気づきにくい若手のニーズなどを見つけ出してくれる存在だ」(人事担当の平林義規専務執行役員)と評価する。

上記からは、3つのことを考えました。ひとつは、データ分析と結果を活用するデータマネジメントの重要性です。

AIを含め、データを収集、分析するツールはしばらく前から勢いをもって発展し続けていますが、それを使いこなせている個人や組織はまだ限られた範囲です。データを適切に活用すれば、商品・サービスの開発・見直しや、業務プロセスの見直し・再設計につながります。

一部の大きな声や表面的な事象に左右されずに、事実ベースで自組織の問題発見や課題形成を行ううえで、適切なデータマネジメントが有効であることを、同記事の例からは改めて感じます。

2つ目は、組織の目的を更新することの大切さです。

同記事の言うように、労働組合と言えば、労使双方の代表が賃金交渉を行うのが活動内容の主戦場、組合の最大の目的は賃金合意にある、というイメージが強くあります。ウィキペディアでは、労働組合の目的について次のように説明されていて、やはり賃金合意を主軸とした雇用条件の維持改善を主目的としていることが見てとれます。(一部抜粋)

労働組合とは、労働者の連帯組織であり、労働市場における賃労働の売手の自主的組織である。その目的は組合員の雇用条件を維持し改善することであり、誠実な契約交渉の維持・賃上げ・雇用人数の増加・労働環境の向上などの共通目標達成を目的とする。

しかしながら、昨今「交渉前に賃上げの満額回答」「従業員の想定を上回る賃上げの発表」の会社も増えています。同日付の別記事では、「2023年の日本の労組組織率は過去最低の16.3%。国内約5千人に実施した調査では、労組について「参加・利用したことがある」は全体の10%で、「労組の役割が分からない」が47%に達した」とあり、労働組合による上記目的の必要性が薄れている環境も指摘できます。

事例の労働組合は、人材開発やキャリア開発、働きがいを生みやすい職場環境づくりといった、上記とは異なることに目的・存在意義を見出し始めていると言えそうです。

どのような組織や会議体でも、環境変化に伴い、初期の設立・設置目的が適切ではなくなってくる可能性があります。目的・存在意義を見直して別の付加価値を発揮するか、あるいは組織を解体するか、状況によりさまざまだと思いますが、環境変化も踏まえながら自組織にふさわしい主目的は何であるべきかを問いかけてみる視点は大切です。

3つ目は、労使の協調関係の重要性です。

日本企業は、労使の一体化・協調関係が強みだとされてきました。このこと自体は依然として有効ですし、今後の社会環境を考えるとますます重要性が高まることだと言えます。そのうえで、何をもって協調関係を高めていくのか、そのやり方や主要テーマも変わりうるのだと思います。

同記事は、自社を取り巻く環境も踏まえた課題テーマを設定し、それを基軸にしての協調関係をつくっていく事例のひとつのように感じます。

これらの視点は、あらゆる企業で同様に当てはまるのではないでしょうか。

労働組合という枠にとどまらず、労使関係やメンバー間の関係、組織体や会議体の今後のあり方について考えるうえで、参考になる視点だと思います。

<まとめ>
組織の目的を更新し、使える手段を有効活用して目的達成を目指す。

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