見出し画像

自身や自社を取り巻く外部環境変化

5月22日の日経新聞で、「外食、4年ぶり出店増 店舗数コロナ前超え」という記事が掲載されました。企業を取り巻く環境変化について示唆している内容になります。

同記事を一部抜粋してみます。

外食主要各社が2022年度に店舗数を大幅に増やす。日本経済新聞が5月までに外食主要100社に聞き取りなどを実施した。各企業の決算期は異なるが、22年を6カ月以上含む決算期を22年度として集計し、日本マクドナルドやサイゼリヤなど45社の出店計画を集計した。45社の22年度の新規出店数の合計は1220店。新規出店は直近では18年度(1396店)をピークに21年度まで前年割れを続けていた。

22年度の閉店数は486店の計画。コロナ禍中の閉店は20年度が1762店、21年度は875店と高水準だったが、不採算店の閉店が一巡する。出店から閉店を差し引いた店舗増加数は734店とコロナ前の19年度実績の増加数386店を大きく上回る。計画通りになれば、年度末の店舗数は2万2134店となり、19年度末(2万1616店)も上回る。

22年度に出店数が大きく増える企業は立地や業態を見直している。ドトール・日レスホールディングスは22年度に100店の新規出店を計画する。都心部のビルへの出店を控える一方、テーブル席の多い郊外向け喫茶店などの業態を増やす。

「大阪王将」などを展開するイートアンドホールディングスの住宅街立地の店舗(直営店)は20年3月末に3割だったが22年2月末に6割に急増。約30店の店舗増を見込む22年度も住宅街立地を増やす。

ニッセイ基礎研究所と位置情報分析サービスのクロスロケーションズ(東京・渋谷)が携帯電話の位置情報を基にした人流データから東京都心部16地区のオフィス出社率を算出したところ、まん延防止等重点措置解除後の4月末時点でもコロナ前と比べ6割台にとどまる。在宅勤務が増え平日も自宅周辺の店に立ち寄る消費者が増えている。

コロナ禍では持ち帰り弁当や総菜などの中食の人気も高まった。こうした消費の変化を受けて持ち帰り業態を強化する動きもある。

出店数から閉店数を差し引いた店舗増加数がコロナ禍前を上回ったとのことですが、注目すべきは、年度末の店舗数が19年度末を上回りそうだということです。(これが全外食店の動きとなるかはわかりませんが、少なくとも主要各社の)店舗総数がコロナ禍前を上回るということは、外食ビジネスの総供給量がコロナ禍前以上になるかもしれないということです。日本が諸外国よりコロナ禍からの回復に後れをとっていると言われてきましたが、ここにきて遅れを取り戻しつつあるサインと見ることもできるかもしれません。

そのうえで、内容が以前とは異なると言えます。都心から郊外へ、店内飲食から店外飲食へという、トレンドをとらえてそれに適応した上でのコロナ禍前回復だと言えます。このトレンドをつくったきっかけはコロナ禍です。コロナ禍の社会制約と企業等の判断を受けて居住地選択の多様化が進み、さらに出社頻度が減ったため自宅やその周辺で飲食する機会が増えたことです。このトレンドは今後中長期的にも逆流しないと言われています。飲食店各社としては、この流れにさらに適応できるよう、戦略・計画をまとめて実行する必要があり、記事中の事例はその動きと見受けられます。

他方で、以前からこのトレンドがはまる業態を実現していた企業にとっては、脅威と捉える必要があるかもしれません。例えば、「ゆったりと落ち着いた空間」などをウリにしてきた郊外型カフェの代表格のコメダ珈琲店は、営業利益率が20%を超える高収益企業です。業界では注目されてきた企業です。

上記記事の動きは、「郊外型は、有望な市場ながら自社ではなかなか本格展開できない状態だった。しかし、コロナ禍の環境変化で参入障壁も下がり、いよいよ打って出ることになった」という流れだと表現できます。郊外出店や新たな業態の開発意欲の高まりは、例えば以前から郊外出店で成功していた企業にもとるべきアクションを迫ることにつながります。既存事業で自社の強みを研ぎ澄ませて不動の地位を守る、新たな事業機会を模索する、などです。

「Business Journal」のサイトを参照すると、次のような紹介があります。コロナ禍の最中に上記のような環境変化も想定したうえで、新たな事業開発に打って出ていたと言えるのかもしれません。他業界にとっても、参考になる視点だと思います。

喫茶店チェーンのコメダ珈琲店を展開するコメダHDは2020年7月15日、東京・銀座の歌舞伎座近くに「植物食」をうたったカフェをオープンした。店名は「KOMEDA is □」。□の中に「おいしい」や「健康」といった単語を客が自由に入れて楽しめるようにした。店名の正式な読み方は「コメダイズ(米・大豆)」。米や大豆など植物だけを食材に使うビーガン・カフェである。

同日の新聞紙面では、「東南ア、影薄まる日本 貿易額は中国の3分の1 投資蓄積なお優位」という記事も掲載されました。こちらも、一部抜粋してみます。

世界の成長センターとされる東南アジアで、日本の存在感が低下している。東南アジア諸国連合(ASEAN)との貿易額では中国が追い越し差を広げ、韓国も追い上げる。新型コロナウイルス対策の「鎖国政策」も響き、傾向に拍車がかかる。

ASEAN事務局によると、2003~21年の対ASEAN貿易額で、日本は08年まで米国と首位を争ったが09年に中国に抜かれ、21年は3倍近い差をつけられた。03年に3倍だった韓国との差も1.3倍まで縮まった。

日本からASEANへの単年の直接投資は、12年に148億5200万ドル(約1.9兆円)で、ASEAN域内、米国に次ぐ3位だったが、20年は85億2000万ドルで6位に沈んだ。

シンガポールのシンクタンク、ISEASユソフ・イシャク研究所が19年に始めたASEAN加盟国の識者への意識調査。最も経済的影響力がある国について日本と答えた人の割合は22年に2.6%と、19年の6.2%から減少。トップの中国の77%に遠く及ばない。

一方、過去の実績は違った一面を見せる。フローでみればシェア低下が目立つ日本の対ASEAN直接投資も、累積投資(ストック)シェアでみれば19%で断トツだ。日本は戦後、経済協力を通じ東南アジアの国づくりに貢献した。

アジア経済研究所名誉研究員の佐藤百合氏は「日本は『半世紀を超える深い絆を持ちASEANにとって別格』と思いがちだ」と指摘する。「現地社会は日々上書きされ、日本も東南アジアへの認識をリセットした方がよい」と話す。

「信頼」は日本が頼みにできる強みだ。ISEASの22年の調査で「世界の平和、安全、繁栄のために正しいことをする」国として54%の人が日本を挙げトップだった。「日本のブランドやアニメに囲まれて育った東南アジアの40~50代が日本への信頼を持っている今のうちに手を打つべきだ」。佐藤氏はこう指摘し教育界や若者の双方向の交流に期待を寄せる。

上記からは、以前圧倒的な地位にあった日本のアジアへの経済的影響力は、私たちが想像している以上に地盤沈下している現状が伺えます。そして、「ASEANにとって別格」という認識をリセットすべきという現実がある一方で、即興ではつくることのできない「信頼」というブランドの強みを今のうちに活用すべきだということを示唆しています。この例も、企業を取り巻く環境変化を察知して、とるべきアクションを考えるべきだと認識する例だと思います。

以上から、次のようにまとめてみます。

・地政学的な影響など景気に関する懸念要因はあるが、一方で、他国に遅れていた日本経済がウィズコロナに向けて回復基調に乗ってきた動きも見られる。自社を取り巻く市場環境を把握したうえで、商品・サービスの供給体制のあり方を検討する必要がある。

・しかし、お客様のニーズの変化が、求める業態を大きく変えている可能性もある。新たなニーズを取り込む業態を持ち得ていない場合は業態変化も考える必要がある。既に持ち得ている場合は、競合増加の可能性も自社戦略に反映させる必要がある。

・私たちが常識だと思っていたことは、環境が変わって想像以上の早さで非常識になっている可能性がある。認識のずれを起こさないよう、環境変化は継続的に観察する必要がある。

<まとめ>
自身や自社が気づいていないかもしれない前提で、自身・自社を取り巻く環境変化をよく観察する。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?