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投資先の価値を的確に評価する

3月9日の日経新聞で、「ノジマ、スルガ銀行全株売却 異業種タッグ溝埋まらず 提携解消で合意」という記事が掲載されました。同記事を一部抜粋してみます。

~~家電量販店大手のノジマは8日、保有するスルガ銀行の全株式を同行に売却すると発表した。これにより資本・業務提携を解消する。銀行と家電の異業種タッグの動向は注目を集めたが、経営方針の違いを埋め切れなかった。投資用不動産の不正融資問題で経営悪化したスルガ銀は3年間続いたノジマによる信用補完関係がなくなり、当面は単体での再建を模索することになる。

「(スルガ銀に)リテールビジネスの強みを生かし、様々な提案を行ってきたが、銀行経営方針に対する考え方に大きな相違がみられた」。

ノジマはスルガ銀の株式を18.49%(21年3月末時点)保有する筆頭株主だ。不正融資が発覚したスルガ銀の再建のため、19年に創業家の株式を引き受けていた。現在の株価で計算すると売却金額は170億円前後とみられる。

ノジマは19年5月にスルガ銀と業務提携を結び、経営再建に乗り出した。10月にスルガ銀の創業家から13%程度の株式を約140億円で買い取り、筆頭株主となった。20年5月に資本・業務提携を締結。6月の株主総会で野島広司社長がスルガ銀副会長に就き、スルガ銀を持ち分法適用会社にしていた。

しかし、関係はわずか1年ほどで冷え込んだ。21年6月の株主総会に提案する経営陣の顔ぶれや経営戦略を巡り路線対立が発生。野島氏は6月に副会長を辞任し、持ち分法適用会社からも外した。「スルガ銀経営陣との考え方の隔たりは大きい。連携してほしかったが、歩み寄りは難しい状況だった」。金融庁関係者はこう話す。~~

同記事から感じたことは、大きく3つあります。
ひとつは、異業種の企業を再建することの難しさです。

家電は銀行と異業種とはいえ、製造やITなどに比べると、消費者向けの小売りという点で銀行業に通じる要素もあるのではないかと思います。それでも、やはり難しいということなのでしょう。同業界であっても、会社が違えば社風も価値観も異なり、単純に統合というわけにはいきません。改めて、異業種間で傷んだ企業を再生させるというのは、それなりの準備・ノウハウ・覚悟が必要だというのを感じました。

2つめは、タイミングにより結末が変わってくるのではないかということです。
スルガ銀の不正融資問題が明るみになったのは2018年4月です(確か)。そして、そのようなスルガ銀の状況をノジマがビジネスチャンスととらえて提携したのが、約1年後の19年5月です。憶測の域を出ませんが、当時評判が地に落ちていたスルガ銀と提携することの是非を判断するには、1年間でも期間として最速に近かったのだろうと推察します。

しかし、スルガ銀の21年3月期連結決算では、売上高997.9億円、経常利益231.1億円と、利益体質が戻ってきています。19年3月期の決算が大赤字の谷で、20年度3月期の決算は21年度以上の好決算でした。つまりは、スルガ銀の創業家から株式を買い取り筆頭株主となった19年10月には、既に最悪期を脱していた可能性があります。スルガ銀としては、自力での再建にも自信をつけ始めていたことでしょう。

「提携のタイミングがもう少し早ければ、もしかしたら展開が違っていたかもしれない」と、想像してしまいます。

3つめは、投資先の会社を的確に評価することの大切さです。
同記事の情報をまとめると、次のようになります。

19年10月:13%程度の株式を約140億円で購入
21年3月:18.49%まで保有を拡大
22年3月9日:全株式を約170億円で売却

積み上がりの5.49%について、どのタイミングでいくらで積み増したのかわかりませんが、170億円で売れれば、利益は出ていないとしても損もしていないのではないかと推察されます。

この間の日経平均株価は、次の通りです。今は相場が荒れていますのであまり参照にならないかもしれませんが、9日の売却もその荒れ相場の中で行われていますので、同条件と見てもよいでしょう。

19年10月:約23,000円
21年3月9日:約25,000円

つまり、株式市場全体で微増だったこの間に、投資に挑んでうまくいかず撤退したが元本はほぼ回収してケガなし(インデックスを持っていたのとほぼ同じ結果)、ということです。この結果と挑戦自体については、M&Aで失敗して大損失を出す例も数あまた存在することを考えると、高く評価できるのではないでしょうか。

ノジマが「撤退となっても元が取れればよい」とまで考えて挑んだのかどうかは分かりませんが、相応のデューデリジェンス(投資先の価値やリスクなどを調査すること)をしたはずです。それが適切だったと言えるのでしょう。

相手とうまくいくかどうかは、最終的にはやってみないと分からない面がある、それでも適正な価値評価はしておくべき、そんなことを感じた次第です。

<まとめ>
結果的に物事がうまくいかない可能性も踏まえて、投資先の価値評価は的確に行う。


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