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社内の誰に対しても敬語で話す

先日、ある企業様を訪問する機会がありました。同社様では、フラットなコミュニケーションを推奨していて、社員を「さん付け」呼びにすることをルールにしていました。

そして、7月19日の日経新聞の記事「キーエンス流 高給こそモチベ 楽に年収2000万円・1年目で高級車」で、「キーエンスでは、社内では誰に対しても敬語で話す文化がある」という内容があり、「さん付け呼びに加えて、敬語をルールにしているのか」と話題になりました。

同記事では、同社の現役社員とOBの計4人を招いて本音を語ってもらうという、座談会形式の内容でした。同記事の一部を抜粋してみます。

現役社員は2人が参加した。20歳代後半のAさんの年収は2500万円前後で、趣味はサウナと旅行。Bさんは30歳代で年収は2500万円前後だ。漫画とゲームが好き。

OBも2人参加した。20歳代後半のCさんの趣味は「仕事」。入社3年目の年収が1200万円前後だった。30歳代のDさんは12年目の年収が2000万円台だった。趣味は映画鑑賞。

――勤務時間中は常に行動を会社に管理されているという話も聞きます。ブラック企業とのイメージもありますが。
Bさん「すごいホワイトだと思う。私は労働時間が長いのに給料がもらえない企業をブラックと定義している。キーエンスはそうではない」

Aさん「私もブラックと思わない。残業時間が20時間の月も多い。こんなに楽に年収2000万円もらえる企業はないと思う」

Cさん「営業職だと職場に新卒採用の同僚しかいない。他社の文化を知らないので、仕事中に『私用の携帯電話をロッカーに入れなさい』と指示されれば、それが当たり前だと考える」

――キーエンスでの働き方はどうですか。
Aさん「分単位のスケジュールを記録する義務はあるが、営業先に着いたとオンライン上でボタンを押せば良いだけ。社内監査が半年に1回実施され、高速道路の自動料金収受システム(ETC)のデータなどと突き合わせ、違和感があると警告のアラートが出る。虚偽訪問が発覚すると評価が下がるが、ありのままを申告するのは1年目から身についているため、息苦しいとは感じない」

Bさん「電話がうまくできない人には『電話しろよ』ではなく、『私もやるから一緒にやろう』という感じで、結構明るい雰囲気だ。良くも悪くも割り切っており、仕事に楽しさを求めていない。『給料をもらって土日を楽しむんだ』というのが明確だ」

――勤務中に厳しいルールがあるのは本当ですか。
Aさん「『公私峻別(しゅんべつ)』がはっきりしている。(こぼすリスクがあるため)社外で購入したスターバックスのコーヒーを持ち込むのは禁止だ。最近はチョコレートやグミの持ち込みはOKになった。パワハラもない。営業で結果が出ない若手に『会社辞めた方がいい』などと言ったら今は一発でアウト」

Dさん「パワハラはいないが(論理や理屈で相手を追い込む)『ネチネチロジハラ』はいる」

Bさん「確かにロジハラはいる(笑)。だがハラスメントと取られないように、キーエンスは敬語で話す文化があり、どんなに仲が良くても『さん付け』で敬語で話す決まりだ。私は体育会系だが今の若い世代は強く言われるのが苦手な人も多い。キーエンスも優しい会社に変わりつつある」

Cさん「会社が変わりつつあるのは世の中の流れもあると思う。投資家向け広報(IR)の開示が少なく、女性の働き方などでも遅れている部分があった。世の中に合わせるには変えざるを得ないのだと思う」

――キーエンスに在籍して、つらい時、楽しい時はありましたか。
Cさん「つらい瞬間はなかった。同期では優秀層にいたと思うが、優秀な人が重要な地区を担当できるので、最初に泥臭くやれば営業数値が上がる仕組みだ。楽しかったのは営業成績のランキングだ。目に見えて良い成績を出せていることが分かり、モチベーションにつながった。逆に言えばそれしかないので、燃え尽き症候群になる人もいる」

Aさん「個人やグループの営業成績のランキングはモチベーションになるが、同じことを繰り返すルーティンワークでもあるので、燃え尽き症候群の人も多い。3年目以降になるとやりがいを感じづらくなるのは事実だ。それでも会社を辞めないのは高給だからだ」

――OBの方はなぜ会社を辞めたのですか。
Dさん「当時の働き方は、8時半から顧客の定時まではすべて商談に費やす。例えば電話では1日最低60件、110分以上が最低ラインとなるなど密度が濃かった。社内の打ち合わせは18時以降になり、退社は21時になることもある。それが重荷になっていった」

タイトルが「楽に年収2000万円」とありますが、決して楽なわけではなく、そうした結果を生み出すための相当な取り組みをしているはずです(記事中の内容にも、そのことが垣間見えます)。あるいは、本人にとっては楽(簡単)と感じることであっても、他者にとっては簡単どころかたいへん難しいということもあると思います。

そのあたりのことについては、同社に関する書籍をはじめいろいろなところで説明されている内容もあり、ここでは対象とせず、同記事の座談内容に関連して別の2点について考えてみたいと思います。ひとつは、ルールや決め事、それに沿った行動の中に、徹底して合理性が感じられるということです。

座談内容からは、いろいろなルールが細かそうで、その徹底を要求される文化の印象を受けますが、一つひとつに明確な理由づけがなされていそうです。行動管理も分単位でなされていて、動き方で生産性が悪いと判断されれば改善のアクションを取ることになるのでしょう。

同社の採用するルールがその方面で唯一の正解かどうかはともかく、「自社としてはこういうポリシーでこういうルールにするから、しっかり守るように」という規律がしっかりしている。そうしたルールに至った背景で合理的な考察がなされている、ということは言えそうです。

もうひとつは、他者(特に若手人材)に対して寄り添う姿勢が感じられる(いろいろな個別事象はあるのかもしれませんが、少なくともポリシー上は)ということです。

話し言葉をどうするか、誰に対しては敬語なのか/普通形で話すのかは、正解というものはなく個人次第の面もあります。そのうえで、同社では誰に対しても敬語を使うのが基本となっているというわけです。

言葉遣いがコミュニケーションを決定づけるすべてではありませんが、影響を与える要素ではあります。敬語を義務付ける効果としては、相手に対する敬意を忘れにくくなる、厳しい指摘内容でも相手が受け止めやすくなる、なれ合い文化になるのを防ぐ、などが想像できます。厳しい指摘をしつつも、メンバーが成長できるよう自分が出来ることを一緒に行動する、という人材育成の文化も、同記事からは垣間見えます。

そうしたルールに賛同できない、もっと自由度の高い環境で働きたい、ということであれば、やめればよい。それ以前に来なければよい。そのかわり、組織の是とするポリシーに賛同してついてきて成果を上げることができれば、他社では得られないような高給とビジネスパーソンとしての価値ある思考力・行動習慣の習得が待っている。このような信念が聞こえてくる気がします。

自社なりの合理性を追求する、それを決め事として規律化する。参考にするべきポイントとしてあげられると思います。

ちなみに、同記事に掲載されていた図表「キーエンス流の働き方」について、下記にご紹介します。

・分単位でスケジュールを記録・報告
・スタバのコーヒーの社内持ち込み禁止
・社内は誰でも敬語・さん付け
・8時半から顧客の定時まで商談に費やす
・1年目に高級外車を購入できた
・燃え尽き症候群も

なお、さん付け呼びについては、以前投稿した下記もご参照になれば幸いです。

<まとめ>
自社なりの合理性を追求し、それを決め事として規律化する。


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