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現預金から投資へのシフト

12月26日の日経新聞で、「個人資産増、投資けん引」というタイトルの記事が掲載されました。新しい少額投資非課税制度(NISA)が始まることもあり、「貯蓄から投資」の流れが加速する可能性があることについて取り上げている内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

家計の金融資産を株式などへの投資が押し上げている。9月末までの1年間で資産全体の増加額の8割を投資関連の資産が占めた。日米株高や円安を追い風に個人の資産全体が膨らみ、金融資産全体では2121兆円と過去最高を更新した。

日銀の資金循環統計を基に試算した。株式や投資信託、債券、対外証券投資の残高を投資資産とした。9月末時点の投資資産は過去最大の427兆円となり、1年前と比べると24%(82兆円)増えた。この間、金融資産は100兆円増えており、投資資産の増加が82%を占めた。

過去10年で投資資産は160兆円増え、その過半をこの1年が占めた。投資資産が全体に占める割合は20.2%となった。リーマン・ショック前で市場に株高の余韻が残っていた07年9月以来の高水準だ。家計に投資の恩恵が急速に広がっている。

背景のひとつには、日米の株式相場の上昇がある。日経平均株価は今年27%上昇し、バブル経済崩壊後の高値更新をうかがう。米国の代表的な株価指数、S&P500種株価指数も前週末までに24%上昇し、過去最高値の更新が間近に迫る。これに円安が加わることで海外投資の恩恵が大きくなった。

日経平均は08年9月のリーマン・ショックなどを受け、低迷が続いていた。09年3月にはバブル後の最安値となる7054円を付けた。株式投資で損失を抱える人も多かった。それが12年後半以降に本格化した「アベノミクス」以降は株高方向に転換し「今の30代以下は株式投資へのアレルギーが少ない」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミスト)。ある東京都在住の20代の会社員男性は国内株と海外株に半分ずつ投資をしているという。

第一生命経済研究所の星野卓也主任エコノミストが個人の資金の流れを分析したところ、預金への流入額は23年7~9月(4四半期移動平均)に3.3兆円と4~6月に比べて4400億円減った。投信への流入額は2500億円増えており「じわじわと貯蓄から投資への流れができつつある」と指摘する。

もっとも、投資になお慎重な家計の姿勢も浮かび上がる。SMBC日興証券によると、金融資産に占める現預金の比率は米国が12.5%、ユーロ圏は35.5%。日本は52.5%で、欧米と比べると現預金偏重の資産構成になっている。株高の果実を受けられていない個人も多いとみられる。

2021年12月の時には、次のように紹介していました。

・日本の家計全体の現預金は1072兆円で金融資産の54%を占める。

・2012年には家計が保有する現預金は866.7兆円だったため、10年間で現預金が200兆円以上増えたことになる。

・この間、GDPすなわち家計の収入はほとんど変わっていないので、いかに一人ひとりが現預金を積み上げたのかがわかる。

・現預金に年金と保険を足すと、金融資産の8割程度になる。株と投信の比率は15%のみ。貯蓄から投資の流れは鈍い。

上記のタイミングから同記事までの約2年間で、金融資産に占める現預金の比率が54%→52.5%に減り、投資資産の比率が15%→20.2%に増えたことになります。現預金の割合が減って投資資産に回ったことに加えて、保険・年金からも一部が投資資産に回ったと想定されます。

諸外国と比べると、金融資産の大半が現預金で、投資資産が少なめという傾向は変わっていませんが、2年間での比率の変化としては大きいと評価できると言うと、言い過ぎでしょうか。コロナ禍の影響が残る2022年は、資産防衛の意識も高かったはずです。その時期を含めた2年間でこれだけの変化は、大きいと評価してもよいのではないかと考えます。

しかも、(精査まではしてませんが)年金生活の高齢者は、それほど現預金保有の意識・保有比率は変わっていないと想像できます。同記事中にもあるように、資産形成に積極的な若手世代が、新NISAなどの情報にも感度が高く、この比率変化の要因の大半を担っている可能性があります。

日経平均7054円。そういう時期がありました。2000年代初頭のITバブルで、90年代のバブル崩壊後の暴落分を取り戻すのではないかと期待されながら、またもやITバブルも崩壊、しばらくしてさらにはリーマン・ショック。二度と株価が上がらないという感覚に陥った人も多かったと思います。

しかし、今の若手世代はそのような肌感覚がありません。

前回、金利上昇による所得押し上げ効果について取り上げましたが、若手世代が投資を引っ張る動きに中高年層が徐々に追随していき、押し上げられた所得を投資に循環させる流れができてくると、これまでとは違った市場と生活環境がつくられていくかもしれません。

時々メディアで外国人投資家のコメントを見ることがありますが、当面の日本市場に対する肯定的な見解と投資意欲を紹介しているものが多い印象です。その背景には、上記のような要因も踏まえているものと、改めて推察されます。

「振り返ってみれば、2022年が金融市場の転換期だった」

何年か後に、もしかしたらそう評価される年になっているのかもしれません。

企業の視点としては、投資意欲を高める個人に関連して訴求できる自社の商品・サービスが何かを追求する。
個人の視点としては、投資を資産ポートフォリオの一角としっかり認識して何に取り組むかを考える。

これから、さらに大切になってくる考え方だと思います。

<まとめ>
金融資産の保有割合のうち、現預金が減って投資資産が増えている。

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