見出し画像

ドイツの中小企業の例を考える

8月21日の日経新聞で、「ドイツ中小は隠れたチャンピオン、「外弁慶」で日本と差」というタイトルの記事が掲載されました。「家族経営」「非上場」「地域密着」と、日本の中小企業と共通点が多いながら、グローバル展開でドイツには有力な中小企業が多いということを紹介した内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

売上高1000億円規模かそれ以下の中堅・中小企業ながら世界シェアを握るニッチトップの「隠れたチャンピオン」。日本や米国を上回るチャンピオン企業数を抱えるのが欧州の製造大国ドイツだ。「家族経営」「非上場」「地域密着」と日独両国の中小に共通点は多いが、最大の違いはグローバル展開を軸に経営戦略を実践する「外弁慶」にある。

独北部の山あいにある人口約3万人の小さな町ウェーデマルク。1945年の創業以来、世界的な高級ヘッドホン・音響機器メーカーとして知られる独ゼンハイザーはこの町に本社を置く。

祖父、父に続き2013年、3代目の共同最高経営責任者(CEO)に就いたのは、工業デザイナーのダニエル氏と、電気工学技師のアンドレアス氏のゼンハイザー兄弟だ。

「信頼関係があるので明確な役割分担の必要はない。それぞれが得意な創造的思考と論理的思考で自然と補い合い、経営に多様性が生まれている」とアンドレアス氏は世界的に珍しい「兄弟CEO」の利点を説く。

経営判断が光ったのは、21年に消費者向けオーディオ事業を切り離すと決めた時だった。耳に装着する部分を密閉しない、世界初の開放型ヘッドホンを生み出したゼンハイザーにとって、消費者向け事業はブランド浸透の旗振り役だった。それを他社に委ね、集音マイクやスタジオ、会議システムなどプロ向け事業に集中することにした。

ゼンハイザーは空間内の微細な音波を聴覚で捉えられるようにする研究開発に力を注ぐ。ダニエル氏は「プロ向けの特化は長期的な投資が可能な家族経営の強みをより発揮できる」。アンドレアス氏も「能力を最大限発揮するには時に何かを手放さないといけない」と切り離しに同意した。

判断は間違っていなかった。消費者向け事業の切り離しにもかかわらず、23年の売上高は前年比13%増の5億2720万ユーロ(約850億円)。3年連続で増収となった。「自己資金でやる方が正しいと考える方向を自分たちで決められる」(ダニエル氏)と非上場を貫く。

大企業も含まれる売上高30億ユーロ未満を対象にした調査(20年)では、特定分野で世界3位以内の企業数はドイツが1573社で最多だった。米国(350社)や日本(283社)を引き離した。

ドイツ経済に詳しい経済産業研究所の岩本晃一リサーチアソシエイトはドイツの中小企業は「売れる商品を開発し、世界で売るという基本に忠実だ」と指摘する。反対に日本は「国際化が進まずイノベーションも停滞し売れる商品を作れていない」とみる。

岩本氏は「ドイツに比べ、日本は中小企業が日本経済を支えている意識が弱い」とも語る。日本経済の屋台骨である中小企業の在り方や、中小企業の長期的な成長を国全体でどう支えていくのか。ドイツの中小企業像をモデルに、改めて考える必要性が高まっている。

グローバル展開を軸に経営戦略を実践する「外弁慶」は日本企業にも有効だ。電子部品材料を手掛けるナミックス(新潟市)は電子部品や半導体の製造に欠かせない「導電材料」と「絶縁材料」で高い世界シェアを持つ。半導体向け液状封止材は約5割で首位にたつ。

製品は全てカスタマイズで、半導体業界や関連技術の動向を先読みした新材料の開発に強みがある。日本の電機産業の国際競争力が低下するなか、ドイツのように高付加価値路線の輸出ビジネスを推進した。24年3月期の売上高は670億円と過去最高となり、海外売上高比率は8割を超えた。

開発案件は年約300件あり、うち約35%を製品化する。「常に新しいものを売り出すことと、トップであり続けることが大事」。小田嶋寿信社長はこう力を込める。

日本では、創業者の家族や親族が株を握ったり、経営を担ったりする企業は「同族企業」と言われて、ネガティブに見られる場面も散見されます。しかし、世界的に「ファミリービジネス」と呼ばれるこの形態は、決してネガティブに見られているわけではありません。

世界の企業の80~90%、つまりは圧倒的多数が同族経営で、各国の経済で重要な役割を果たしているとも言われています。例えば、世界的企業のBMW、ウォルマート、フォルクスワーゲンなどは、長く続くファミリービジネスです。

同族企業のメリットはいつくか挙げられますが、同記事の内容も参考にしながら、ここでは下記の3つを取り上げてみます。

1.長期的な視点で経営できる

同族企業は、上場企業にありがちな「これまでの実績から、経営者の任期はだいたい3年程度」のようなことがなく、長期政権が前提です。よって、短期的な利益の追求とは一線を画して、20年や30年先を見据えた長期的な投資がしやすくなります。

2.迅速な意思決定ができる

経営陣でのコミュニケーションがスムーズなため、意思決定が迅速に行われやすくなり、市場の変化への柔軟な対応が可能になります。同記事中の企業は、このことによる長所を生かした企業戦略を実践した例だと言えそうです。

3.文化や価値観の共有がしやすい

経営理念や会社の価値観が経営陣で共有されやすく、一貫した企業文化が形成されやすくなります。このことによって、従業員全体が同じ目標に向かってまとまりやすくなります。

また、経営者の親族が後を継ぐ場合は、いわゆる帝王学による育成が可能になります。自営業者の子供は自営業者、芸能人の子供は芸能人としての資質を幼少時代から学ぶがごとく、幼少時代から経営者の背中を見て学んだ人材は、その企業を率いる資質を磨く上でやはり優位です。

そして、一族が育ててきた事業を将来にわたり継続させたいというモチベーションは、雇われ経営者に比べると比較にならないほど強力になり得る潜在力を秘めています。

一方で、諸刃の剣でもあります。内向き文化を育ててしまったならば、ガバナンスがきかないまま浅い経営判断がそのまま最後まで実践貫徹され、経営を傾かせてしまうリスクも大きいと言えます。

同記事の例のように、「売れる商品を開発し、売れるところで(=ニーズのある相手に対して)売る」というマーケティングの原理原則に徹することができたときに、上記3つが強みとなって爆発的な潜在力を発揮できるのではないかと思います。

中小企業・同族企業はその可能性にもっと気づくべきだという、ドイツ企業の示唆は、参考にするべきものが多いのではないかと思います。

<まとめ>
売れる商品を開発し、売れるところで売る。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?