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日本の学芸員という職業(2)

 独立行政法人 国立文化財機構に属する国立博物館、文化財研究所などは学芸員ではなく研究員で職制上の身分も専門職の位置づけだし、一部の公立博物館・美術館の中には研究機関と位置づけられている館もあり、そこに所属する学芸員は研究者として扱われる。これらに所属する人たちは、職務として研究することを公的に認められているし、文部科学省による研究者番号の付与を受けることができ、日本学術振興会の科学研究費補助金(いわゆる「科研費」)を申請する資格がある。
 ところが、日本の公務員学芸員の現状は基本的に、研究者ではなくて一般事務職員だ。研究者ではないというのは専門的能力の問題ではなく、職制上の身分。つまり、職業的研究者ではないということ。一般事務職員なので、職務上、研究することは求められていない。というか、職務中に研究なんかしてはいけないのが、公務員学芸員だ。だから公務員学芸員の場合は、研究者ではないし所属館も研究機関認定を受けていないので、研究者番号は付されず、当然、科研費の申請資格はない。
 研究者としての身分や研究費用の問題であるなら、誰か科研費を取得できる研究者に代表になってもらいその共同研究者になればいいとか、民間の研究助成金を申請すればいい、という声もある。実際に僕もそういう助言をもらったことが何度もある。しかし公務員学芸員は、一般事務職員の身分(地方自治体の職制分類上に存在する研究職でもない)であるうえ地方公務員法に厳しく縛られるため、公務員の職務専念義務に抵触することと、謝金や研究費用などの金銭授受が生じることにより、共同研究者をさせてもらうこともほぼ無理だ。そして、民間の研究助成金についても、近年の多くの助成金は所属組織で資金管理をすることが義務付けられているので、その申請はきわめて困難になる。たとえば博物館で組織としておこなう事業について助成金申請をする際に自分が名義上の研究代表者となるだけの場合であれば、それは可能。でも、自分が学問上の問題意識から取り組もうとする研究テーマは、館の方針や職務上必要なものではないので、単なる個人の興味関心ということになり、そんな個人のことを所属が引き受けてはくれない。さらに言えば、最近流行のクラウドファンディングも、所得として課税対象になるので、副業を禁じられている公務員の身分上、それで研究資金を集めることは違法扱いされる。つまり、公務員学芸員の場合、研究者としての身分を得ることも、研究費用を外部から取得することも基本的に不可能なのだ。
(3に続く)

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