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リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット『ライフシフト』(2016年)を読んで。

現在、デザイン思考を学ぶために通っている大学院(京都芸術大学大学院)の講義テキストであることから、購入して読んだ一冊。いまさら感はあるが。

読んでいるうちに気づいたのだが、そういえばかつて読んだことがある。書棚になかったということは読んで売ってしまったのかもしれない。内容はぼんやり覚えていたが、二回目となる今回の通読で、理解度も深まったような気がする。

2016年の発刊(英語版はさらに前)ということを考えると、それから6年の月日が流れている。6年と言えばそれほど大きな時間は経過していないように思われるが、この間には「新型コロナウイルス」という大きな出来事があった。ライフシフトで書かれていることは、その前の前提に立ったものではあるが、古さは感じない。

人生100年時代を前提に、モノゴトと考えていく必要がある。現在わたしは40代半ばに差し掛かっているが、ようやく落ち着いてモノゴトを考える時間ができてきたような気がする。仮に80歳まで働くとしたらオンディーヌの呪いになるか、はたまた楽しいステージを経験していくか、それはミドル期の学び直しと有形資産の設計にあることが分かる。

本書では4世代同居が進むとか、ちょっと違うかもな、という点はあるが、概ね書いてあることは共感できることが多い。以下、例の如く、気になった個所を備忘的に残しておきたい。

◇気になった個所の書き起こし

人生は「不快で残酷で短い」という、17世紀の政治思想家トーマス・ホッブズの言葉は有名だ。これよりひどい人生は一つしかない。不快で残酷で長い人生である。

(p21)

人生で多くの移行を経験し、多くのステージを生きる時代には、投資を怠ってはいけない。新しい役割に合わせた自分のアイデンティティを変えるための投資、新しいライフスタイルを築くための投資、新しいスキルを身につけるための投資が必要だ。

(p27)

現時点では、ある種のスキルと能力は人間固有のものであり、ロボットと人工知能による複製ないし代替が(いまのところは)できないという見方が一般的だ。デーヴィッド・オーターらは、人間固有の能力を二種類挙げている。一つは、複雑な問題解決に関わる能力だ。ここでは、専門知識、帰納的推論の能力、コミュニケーションスキルが必要とされる。(中略)
一方、もう一種類の人間固有の能力は、対人関係と状況適応の能力だ。こちらは、主に体を使う仕事で必要とされる場合が多い。

(p109-110)

人生に満足している人に共通する際立った要素の一つは、生涯を通して深くて強力な人間関係を築いていることだった。

(p124-125)

無形の資産
1 一つ目は生産性資産。人が仕事で生産性を高めて成功し、所得を増やすのに役立つ要素のことだ。スキルと知識が主たる構成要素であることは言うまでもないが、ほかにもさまざまな要素が含まれる。
2 二つ目は活力資産。大ざっぱに言うと、肉体的・精神的な健康と幸福のことだ。健康、友人関係、パートナーやその他の家族との良好な関係などが該当する。長期追跡調査によれば、活力資産を潤沢に蓄えていることは、よい人生の重要な要素の一つだ。
3 最後は変身資産。100年ライフを生きる人たちは、その過程で大きな変化を経験し多くの変身を遂げることになる。そのために必要な資産が変身資産だ。自分についてよく知っていること。多様性に富んだ人的ネットワークをもっていること、新しい経験に対して開かれた姿勢をもっていることなどが含まれる。このタイプの資産は、旧来の3ステージの人生ではあまり必要とされなかったが、マルチステージの人生では非常に重要になる。

(p127)

100年ライフが当たり前になれば、人生の早い時期に一度にまとめて知識を身につける時代は終わるかもしれない。

(p130)

経験学習の価値が高まるのは、一つには、インターネットとオンライン学習が発展して、単純な知識なら誰でも簡単に獲得できるようになるからだ。知識の量ではライバルと差がつかず、その知識を使ってどういう体験をしたかで差がつく時代になるのだ。(中略)暗黙知は、身につけるのは簡単ではないが、きわめて大きな経済的価値をもつ。それは知恵と洞察と直感の土台であり、実践と繰り返しと観察を通じてはじめて獲得できるものだからだ。

(p135)

イノベーションを成し遂げるうえでは、多様な視点を組み合わせることがとりわけ重要だと言われている。なかでも重要なのは、小規模な仕事仲間のネットワーク、それも相互の信頼で結ばれた強力なネットワークらしい。

(p138)

いくつもの企業や業界を移り、スキルを変えながら長く働く時代に、キャリア全体を貫く要素の一つが評判だ。(中略)新しい分野に移るときに役立つのは、汎用的なスキル・知識と良好な評判の組み合わせだ。公正さと誠実さ、実行力、柔軟性、そして信頼性に関する高い評判は、さまざまな役割や職で価値がある。

(p142)

人生で多くのステージと多くのキャリアを経験するようになれば、そのすべてを貫く一本の柱をいっそうしっかりもつ必要が出てくる。そのような柱があってこそ、人生のシナリオが真の意味で自分のものになるのだ。

(p215)

実験の活発化と人生のステージを経験する順序の多様化に突き動かされて、「エイジ(=年齢)」と「ステージ」が一致する時代が終わりを告げる。

(p222)

エイジとステージが切り離されることにともない、以前は特定の年齢層に特有だった要素が幅広い年齢層で見られるようになる。マルチステージの人生を生きるためには、これまで若者の特徴とされていた性質を生涯通して保ち続けなくてはならない。その要素とは、若さと柔軟性、遊びと即興、未知の活動に前向きな姿勢である。

(p224)

人生のマルチステージ化がもたらすとりわけ刺激的な影響の一つは、年齢により人々を隔離する仕組みが揺さぶられることかもしれない。さまざまな世代が一緒に活動し、混ざり合いやすくなれば、年齢に関する固定観念のいくつかは消えていく。それにより、誰もが若者の柔軟性と好奇心、そして高齢者の知識と洞察力の両方を得られるようになる。

(p227)

リーダーシップ論の研究者であるウォーレン・ベニスとロバート・トーマスが大勢のリーダーたちに人生を振り返ってもらったところ、明確な自分らしさと強固な倫理基準をもつリーダーの多くに共通する要素の一つが「るつぼ」の経験だった。その経験の具体的な内容は、新しい町で暮らすことに始まり、難民キャンプなどまったくの別世界で過ごすことに至るまでさまざまだった。
このテーマを専門的に研究しているフィリップ・マーヴィスによれば、単にこのような経験をするだけでなく、その経験について自問しなければ、世界に対する見方を変え、接した人たちの人生のストーリーを自分のものにできない。問いを発し、注意深く観察し、熱心に耳を傾けることが必要だ。そうやって掘り下げて自問してはじめて、みずからの価値観を問い直し、自分のアイデンティティと役割をじっくりと考えることができる。他人の人生の物語に触れることにより、自分の人生の物語が揺さぶられるのである。

(p233-234)

重要なのは、本やウェブサイトを読むだけでなく、実際に人々と顔を合わせ、理屈抜きの感情レベルの経験をすることだ。そういう経験をするとき、私たちは、目の前の人たちの人間存在そのものに触れられる。その人のそこにいたるまでの人生、感じている重圧、前に開いているチャンスを知ることができるのだ。

(p234)

誰でも思いつく方法は、さまざまな活動の間に相乗効果を生み出すというものだ。そのためには、すべての活動に共通する能力や知識をもたせればいい。たておえば、高度なプロジェクトマネジメントのスキルは、一見すると関係なさそうな多くの活動を束ねる土台になりうる。重要なのは、互いに無関係のスキルと能力ではなく、互いに関連のあるスキルと能力が要求される活動を選ぶことだ。その接着剤になるのは、幅広いテーマへの関心だったり、なんらかの中核的な能力だったりする。

(p253)

移行は一足飛びに完了するのではなく、一歩ずつ前進する。ハーミニア・イーバラの研究が明らかにしたように、移行のプロセスはズレを感じることから始まる。あらゆる自己像が現状の自分の姿より魅力的に見えはじめることが出発点になるのだ。そのギャップを認識することで行動の背中が押される。

(p257)

経験および知識と分析能力の総和が最も大きくなる40~50代に、金融に関する判断能力が最も高まるのだ。

(p287)

オックスフォード英語辞典によれば、週2日の仕事をしない日という意味での「ウィークエンド」という言葉が広く用いられるようになったのは、1878年以降だという。つまり、週休2日は歴史上比較的新しい概念であり、私たちの心理に深く根を張ったものではないのだ。

(p304)

平均寿命が延び、無形の資産への投資が多く求められるようになれば、余暇時間の使い方も変わる。時間を消費するのではなく、無形の資産に時間を投資するケースが増えるだろう。レクリエーション(娯楽)ではなく、自己のリ・クリエーション(再創造)に時間を使うようになるのだ。「労働時間の節約は自由時間を増やす。つまり、個人の発達を完成させるための時間をもたらすのである」と、カール・マルクスも述べていた。

(p312)

3ステージの人生の下では、実験にせよ、ほかの理由にせよ、履歴書に空白期間がある人物は疑いの目で見られる。しかし、無形の資産のマネジメントをするためにそのような期間を経験する人が増えれば、企業は履歴書の空白期間にもっと寛容にならざるをえなくなる。

(p376)

しかし、長寿化が進めば、人々は多くの世代と触れ合うようになる。ジミーは2031年に孫が生まれる。その子は50%の確率で2140年まで生きる。気候変動の予測に取り組んでいる科学者のなかには、2100年までに地球温暖化が深刻な状況になる可能性があると考える人たちもいる。2100年と言われると遠い先の話に思えるが、それは私たちが実際に触れて愛せる人たちが生きているうちに経験するかもしれない問題なのだ。

(p387)


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◇プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県出身の43歳。2003年に若年者就業支援に取り組む会社を設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。3期目は立候補せず2020年に京都で第二創業。2021年からSOCIALXの事業に共同創業者として参画。現在、社会課題解決のために官民共創の橋渡しをしています。
京都大学公共政策大学院修了(MPP)。京都芸術大学大学院学際デザイン領域に在籍中。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。
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