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【書評】『9割の社会問題はビジネスで解決できる』(田口一成、2021年)を読んで。

▮ 読後感

 最近、社会課題をビジネスにすること、山口周さん的にいう「経済合理性限界曲線」の外側にある課題をビジネス化することの難しさを官民共創の対話の中で感じたり、私自身のライフワークである就職氷河期世代の活躍支援に関する事柄も考えたりしている中で、この人はどうやって社会問題をビジネスにしているのか、という点に関心が出てきて、読むことにしました。

 特に印象的だったのは、ビジネスプランを考える前に、「制約条件」を設けるという点でした。ソーシャルインパクト重視で事業を構築するためには、ブレてはいけない点を予め設定しておく重要性はその通りだと思いました。確かにここは盲点かなと感じます。その上で事業内容はピボットしまくってもいいわけですしね。

 あと一番最後に著者が述べている2025年に今の仕事をやめて、「本気で社会を良くするために政治家になろうとする「社会政治家」をサポートする仕組み」をつくるとのこと。これはどんな活動になるか、単純に興味があります。その必要性は私も感じます。

▮ 注目した個所(抜粋)

●ソーシャルビジネスが取り扱うのは、「儲からない」とマーケットから放置されている社会課題です。
(p34)

●善意だけで買ってもらいた商品やサービスは長続きしないということです。お客さんは最初は社会貢献という意味合いで買ってくれることがありますが、一回買うとその善意は満たされてしまい、単発的な関係で終わってしまうことも少なくありません。
「社会貢献になるから買う」だけではなく、シンプルに「モノがいいから、サービスがいいから買う」という要素がないと、選び続けてもらえないのです。
(p38)

●ソーシャルビジネスでは、「誰を助けたいのか」「誰のために事業をやるのか」をとことん突き詰めることが非常に重要です。
(p145)

●みんなで同じことをする必要はないのです。もし、まったく同じソリューションをすでにやっているところがあればそこにジョインするのが一番です。ソーシャルビジネスというのは、みんなで社会の「穴」を埋めていく作業です。・・・これからのビジネスに必要なのは、「競争」ではなく「協創」なのです。
(p222)

●それらの仮説に対して具体的な行動を聞いていくと、リアルな姿があぶり出されていきます。・・・逆に、僕が聞いてもあまり有効な回答を得られないと思っているのが、ソリューション(解決策)に関する質問です。
よくあるのは、「何があれば助かりますか?」という質問です。具体的なソリューションを当事者にたずねてみても、答えはまず出てきません。
(p225)

●ビジネスモデルを考える前に、もう一つ大切なステップがあります。それは、「制約条件」を整理することです。
制約条件とは、その言葉どおり、ビジネスモデルを考えるうえでの縛りのことです。ソーシャルコンセプトをしっかり体現したビジネスになっていなければ元も子もありません。ビジネスアイデアが先行してしまわないように、制約条件を定めるのです。
(p229)

●なぜソーシャルインパクトの設定にこだわるのかというと、これがなければいつの間にか売上・利益重視のビジネスになりかねないからです。
(p247)

●ソーシャルコンセプトがしっかり固まっていれば、あとは続けるかどうかだけです。
(p320)

▮ 目次

第1章 「社会問題を解決するビジネス」を次々と生み出す仕組み
第2章 この“仕組み"がどうやって生まれたのか。その実験の歴史
第3章 「社会問題を解決するビジネス」のつくり方
第4章 ビジネス立ち上げ後の「成功の秘訣」
終 章 一人ひとりの小さなアクションで、世界は必ず良くなる

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◇プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 取締役共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県大津市出身の43歳。2003年に雇用労政問題に取り組むべく会社設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。東京での政策ロビイング活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。

◇問い合わせ先 tetsuyafujii@public-x.jp

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