【書評】『スペキュラティヴ・デザイン~問題解決から、問題提起へ。~』(アンソニー・ダン&フィオナ・レイビー、2015)
▮ どのように「問い」を考えるべきか
「スペキュラティヴ・デザイン」と、一見なにを言っているのか分からないまま読み始めた本書。MIRATUKUの本を読んでいる最中に、Amazonで検索をかけて出てきたのがこれでした。副題ともなっている「問題解決から、問題提起へ」というものや、「答えではなく、問いを」というカバーコピーが目に飛んできてこれは読まねばと。
正直、問題解決方法は世の中にあふれており、ありふれたものになってきています。より何が重要かと言えば、何を解決するべきかという部分です。
つまりこの本の副題ともなっている「問題解決よりも、問題提起」。
公共政策においても、目の間にある課題ばかり、対症療法的に対応していても、その根本にある課題に気がつかないといたちごっこ。行政がこれをやると単なる税金の無駄遣いです。道路補修などは分かりやすい例かもしれません。
本書は、どのように「問い」を立てるべきかを考えるための、思索書です。豊富に図版などを掲載し、スペキュラティヴデザインが必要な理由、スペキュラティヴデザインとは何か?ということ、どのようにそれをすべきかという事柄が述べられています。デザイナー向けに書かれた本だと思うので、その分野の人じゃないと、少し読みにくいかな。でも、一つ一つ丁寧に読んでいけば結構面白いし分かりやすい。ところどころに日本のアート、デザインの事例やスプツニ子!さんの紹介などもされています。
▮デザイン思考ではなく、スペキュラティヴデザイン思考?
スペキュラティヴとは「思索的」という意味。スペキュラティヴデザインとは、一般的に捉えられているデザイン思考とは別のものとして本書では述べられています。どちらかというとアート思考に近いものとして私は理解しました。
問題解決のために貢献できるデザイン思考。それに対して問題提起のために貢献できるスペキュラティヴデザインやアート思考。
どうすればこうした思考方法を身に付けられるのかも、そのヒントが端々に書かれているのですが、うまく言語化はできません。以下、いくつかの部分を備忘録として残しておきたいと思います。
▮気になった個所
つまり「Speculative」とは「批評的で議論を呼び起こすことを通じて、問題を発見し、問いを立てる。デザインを社会サービスにおけるメディアとして捉える。世界がどうなり得るのかを示すことで、その世界に自らを適合させていく。それは社会的に機能するフィクションであり、実現していない現実としてのもう一つの平行世界でもある。何かを作る側ではなく、消費する側からの視点を暗示し、人をユーモアと共に挑発する。まさにコンセプチュアルなデザインであり、市民としての私たちに、倫理や権利について考えさせる力を持った表現である」ということになるだろうか。
(p012)
未来予測とは無駄な行為だ。私たちが興味を持っているのは、未来の可能性を考えることである。未来の可能性をひとつのツールとして用いることで、現在を深く理解し、人々の望む未来、そしてもちろん人々の望まない未来について話し合うわけだ。
(p028)
デザイナーの役割とは、みんなのために未来を定義することではない。倫理学者、政治学者、経済学者などの専門家と協力し、真に望ましい未来について全員で話し合うきっかけとなるような、幾通りもの未来を描くことだ。
(p032)
私たちが興味を持っているのは、どちらかというと批評的思考(クリティカル・シンキング)。つまり物事を当然視しないこと、疑問を持つこと、常に当たり前を疑うことである。一流のデザインはそもそもみな、「批評」の要素を含んでいる。
(p068)
クリティカル・デザインは、物質世界ではなく人日の想像力に働きかけることで、日常生活に対する人々の考え方に疑問を投げかける。我々の世界との対比を描き、日常生活に別の形がありうるのだと気づかせることで、他の可能性を絶やさぬよう守りつつづけるのである。
(p082)
デザインは、新しい技術的発展を、架空とはいえ信憑性のある日常の状況へと落とし込む力を持っている。そしてアイデアが実現する前に、考えられる結果について考察できるようにしてくれる。しかも、知性やウィット、洞察力をもってそれを実現するのだ。
(p097)
私たちにとって、思索の目的は「未来を予測するのではなく、現状を揺さぶること」だ。
(p134)
デザインを変化と関連して論じるとき、たびたび登場するのが「小突く(ナッジ)」という概念だ。デザインは、誰か(通常はクライアント組織)が望むような選択を人々に下してもらえるようにそっと“小突く”ことで、人々の行動を変える力を持っている。
(p223)
斬新なアイデアや思想が日常とは異なる新しい世界観から生まれる、という意味では、イデオロギーこそ真のイノベーションの源なのではないか、と考えずにはいられない。
(p231)
ほとんどのシンクタンクが、より公正で自由な社会の構築方法について人々が考えること、実際のところ妨げているのではないか、という点だ。現実には、シンクタンクはあらゆる政治を覆う固い殻となってしまった。PR活動を通じて絶えず課題を掲げ、それを報道機関に流し込む。こうして真に新しいアイデアが生まれるのを妨げている。
(p235)
我々にとって必要なのは、今日の我々とはその信念、価値観、理想、希望、恐怖が異なる、新しい世界観を確立するためのさまざまな方法を試すことだ。我々の信念体系や考え方が変わらなければ、現実も変わらないだろう。スペキュラティヴ・デザインを用いれば、我々の直面する難題に対して新しい視点を切り開いてくれる。
(p259)
デザイン・アプローチの根幹にあるのが、「提案」という概念である。つまり、何かを提案し、示唆し、提供すること。デザインが得意とするのはこの部分だ。デザインはさまざまな可能性を概略的に描くことができる。こうした提案は厳密な分析や徹底的な研究に基づいてはいるが、その意味では、社会科学よりも文学に近い。現実性よりも想像力を重視し、答えを提供するよりも疑問を投げかけようとする。作品の価値は、その作品が実現する内容ではなく、作品の意味や見る者に与える感情によって決まる。特に大切なのは。日常生活やものごとの別のあり様について、想像力を掻き立て、深くじっくりと考えさせることができるどうか、という点である。それをうまく行うためには、作品に矛盾やちょっとした認知のずれが含まれている必要がある。お手軽な前進の方法を提示するのではなく、不完全な選択肢として、そのジレンマやトレードオフを強調する。解決策や“より良い”方法ではなく、もうひとつ“別の”方法を提案し、その判断は見る者に任せるのだ。
(p259)
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◇プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 取締役共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県出身の43歳。2003年に若年者就業支援に取り組む会社を設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。その後、民間企業での政策渉外活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。現在、社会課題解決のために官民共創の橋渡しをしています。
京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。
◇問い合わせ先 tetsuyafujii@public-x.jp
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