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【書評】『PURPOSE -「意義化」する経済とその先-』(岩嵜博論・佐々木康裕、2021)を読んで。

■ 読後感

思っていたよりかなり為になる本だった。というのが第一印象。
「パーパス」の意義は、もう十分世の中に認識されていると思いますが、その本質的な意義については、自分の中でよく理解できていなかったなと痛感しました。

パーパス(その会社の存在意義、Whyの部分)は、ビジョン(What)や、事業計画(How)は、人を惹き付けるためにその重要性は高まっています。採用活動や、マーケティング、従業員のモチベーション、ステークホルダーとの関係性構築など、パーパスが影響する範囲はかなり大きいと思います。

この本を読んで、あらためて多くの気づきがありました。個人的には、多くの皆さんに読んでもらいたい一冊です。書店でもよく見かけますので、ぜひパラパラっとでもいいので見てみてください。

私はとあるフレーズのところにビビビッときて、そのあと1時間くらい、ぼーっと妄想にふけるだけの時間を過ごしました。考えるきっかけを与えてくれる本って、あまりないのですが、この本はその一冊かなと思います。

■ 気になった個所

消費者は、「ただモノを買う人」から、「社会を良くするために消費をする市民」へと自らを変化させた。だからこそ、企業に対しても同様に、行動の変化と、活動の拡張を求めていく。今や、自らの存在理由を株主価値の最大化だと捉える企業は、消費者の期待を満たすことはできない。消費者の企業への期待は、単純に良いプロダクトやストレスのない体験を提供することではなく、社会をよりよい方向に進化させることへと変化している。
(p9)

重要なのは、これらの活動を既存の事業に後付けで付加していくのはなく、企業活動のコアに統合し、組みなおしていく必要があるという点だ。・・・本書では、こうした変化のうねりを「意義化する経済」と形容している。
(p9)

当時最も影響力のあった経済学者ミルトン・フリードマンによるドグマ、「ビジネスの社会的責任はただ1つ。利潤を増やすことである」からの決別を意味する。半世紀を経て、「ビジネスの社会的責任とは・・・」に続くフレーズは、今後はより自由になる。ヒューマニティに溢れ、より多様なものになっていくはずだし、なるべきだ。
(p10)

これまでは、「ユーザに喜ばれるだろうか」「ユーザの真の課題に寄り添っているだろうか?」という、ユーザ視点を徹底することで広く支持を獲得できたが、もはやそれだけでは不十分だ。今後は、「我々のビジネスや取り組みは地球にとってよいものだろうか」という「地球中心」の視点に加え、さらにそれをユーザ中心思考より優先させる必要があるだろう。
(p20)

高潔な信念を前面に出し「正論ばかり吐く人」は、否定はされずとも周りから煙たがられてしまいがちだ。「環境のことを考えましょう」「差別はいけません」などと、ただ発信しても誰の心にも響かない。
その観点で見ると、企業のサステナビリティや社会課題に関するコミュニケーションは、まだまだ道徳の時間の標語のポスターのようなものが多い。
・・・パーパスは、適切なコミュニケーションやクリエイティブと組み合わさることで、初めて消費者に伝わり、インパクトを持ち得る。「良い子」「真面目」だけで終わらないメッセージの工夫の試行錯誤とプラクティスの確立が今後は欠かせないだろう。これまで経営書などで語られてきた「パーパス」は、この観点に対する配慮があまり十分ではなかったように感じられる。
(p30-32)

ビジョン、ミッションは企業がなりたい姿を一人称的に表現するものであることから、その企業しか入らないサイズの「小さな船」に例えられる。一方、パーパスは多様なステイクホルダーが共存するあるべき世界の姿を三人称的に描いた「大きな船」だ。
(p38)

そして今、体験価値だけでも差別化要因としては不十分になりつつある。顧客を魅了するUXデザインする技術は飛躍的に向上した。乱立する音楽ストリーミングサービスを体験の良し悪しで判断するのは、もはや難しいだろう。サスティナビリティに高い関心を持つミレニアム世代やZ世代が新たに重視するようになったのが提供される製品、サービスの背景にある意義やストーリーだ。物心がついたときからスマホが手元にあった彼女ら/彼らにとって、良質な体験価値はコモディティとも言える。
(p60)

B corpの究極の目的は、資本主義の再定義にある。これまで企業は株主という限られたステイクホルダーの利益のためにしか行動してこなかった。しかし「ステイクホルダー」の定義をより広範囲に拡大すれば、企業活動のインパクトを社会全体の利益につなげることができる。資本主義の持つ力は大きい。その力を正しい方向に向けることで、非営利的活動だけではなし得なかった大きなインパクトを生み出そうとしているのだ。
(p63)

これはテクノロジー業界の事業の目的の1つに「Humanity(人間性)」を加える必要があるというトレンドの一例だ。・・・テクノロジーがその革新性や先端性を最大限表現してユーザから支持を取り付ける、というスタイルはすでに過去のものとなったと考えていいだろう。
・・・調査会社のSentieoが企業のプレスリリースや決算報告書などを元にした調査によると、テックという言葉が最も使用されたピークは2018年8月頃であった。それ以降、テックという言葉の使用頻度は12%減っている。これは金融マーケットや実業界、消費者の中で、テックという言葉から受ける印象が徐々にネガティブなものにシフトしていることの表れと言える。
(p83-84)

2020年春のIPSOSという調査会社の国際比較調査で「人間の活動が気候変動につながっている」と考える人の比率は、日本がダントツの最下位であった。
(p88)

「気候変動」という言葉は現在の危機的状況を表現するのに適切ではないとし、より強い表現に変更されることも増えてきている。イギリスの「ガーディアン」紙は、紙面で使う単語や表現の規定をアップデートし、「Climate Change(気候変動)」を使用するのではなく「Climate Emergency, Crisis or Breakdown(気候緊急事態、危機、破綻)」、「Global Warming(地球温暖化)」ではなく「Global Heating(地球過熱化)」が推奨されるようになった。
(p90)

これからのコンテンツ作りのポイントは「Authenticity(真正性)」だ。それを語るに足る専門性があるか、過去の活動との一貫性があるか、などが評価されるようになっている。BLMのときには、ナイキですら、企業幹部の有色人種比率の少なさが激しく批判されていた。
(p127)

これまで重視されてきたパーソナライズ、あるいはバズなどの観点に加えて、これからはいかに自分たちが真摯に活動しているかを見えていく必要がある。
本質的に、競合が絶対に真似できないのは「我々は誰なのか」ということだ。What(プロダクト)やHow(ブランドやユーザ体験など)はコピーされる可能性があるが、Who(誰がやっているか)だけはコピー不可能だ。企業が伝えるべきは「我々は誰なのか」であり、その中心にこそ、パーパスが置かれるべきだ。
(p128)

パーパスが重要になったとはいえ、顧客とのコミュニケーションでパーパスを訴求することは難しい。顧客にとっては価格やカラーバリエーションなどが重要であることはまだまだ多い。だからこそ、カスタマージャーニーの後半のコミュニケーションがより重要となるだろう。うまくパーパスを訴求するためには、顧客を店舗に呼び込むための広告やPRなど、コミュニケーションやブランド表現には変更を加えず、顧客を呼び込んだ後にパーパス的表現を提示する手法が有効となる。
(p128)

NASAで働く清掃員が「私の仕事は床をモップがけすることではなく、人類を月に送り出すことだ」と答えたのはあまりに有名なエピソードだが、パーパス型組織では、これと同様に、組織目標の共有と自分の仕事との結びつけを行うことが重要になってくる。
(p162)

ユニリーバ・ファウンドリーの仕組みは、これまでオープンイノベーションと呼ばれていた仕組みをさらに進めたものだ。
従来のオープンイノベーションは、研究開発領域を中心に、必要とするテクノロジーや資材の情報を公開してパートナーを探すというものだった。ユニリーバはこの取り組みをパーパス起点でさらに一歩進めた。自社が向き合っている社会課題を背景や意義を含めてオープンにし、協業を前提に、社会的責任を共に担うスタートアップを募ったのだ。
(p164)

パーパスを追求するにあたっては、顧客との等価的な価値の往復から抜け出すこともときに必要となる。たとえば、顧客からの対価を活用し、「売り上げの1%は非営利の団体に寄付する」など、多様なステイクホルダーの利益に資する活動を行うことも有効だ。
(p174)

これまで企業は収益を上げて納税し、行政が社会課題を解決するという役割分担が明確だったが、これからはそうもいかなくなる。持続可能な地域コミュニティの維持は、企業の持続的な成長につながっている。企業の運命は社会と深く連関しているという事実に、今後ますます注目が集まっていくだろう。
(p182)

企業が決算発表で当期利益を発表し、それをもとに株価が上下するような世界はやがて終わりを迎え、新しいビジネスのパラダイムに即した新しい指標をもとに企業のパフォーマンスが測られる未来も、そう遠くはないだろう。
(p187)

イノベーションのためには、組織の構成員が外部に目を向ける遠心力が必要だ。一方で遠心力が効きすぎると、組織がバラバラになってしまう懸念もある。・・・パーパスを共有するところで、アウトサイドインの遠心力とパーパス起点の求心力を絶妙なバランスで保つことができている。
(p201)

企業経営の中心に北極星としてパーパスが置かれることを紹介したが、ネットワークガバナンスの世界では、パブリックバリューへの貢献と公共善の実現こそが北極星となる。中央集権的なトップダウンでパブリックが形成されたこれまでの世界から、行政、企業、市民に分散した活動がパブリックバリューを北極星に統合していく新しいあり方へ。
(p221)

UberやAirbnbなど・・・個々の仕事では単なる歯車としての活動を求められ、個性や創造性はあまり必要とされない。
・・・これからは、個人を「プラットフォーム」と見立て、そのうちの何割かを所属先の企業での仕事に充て、残りの何割かを自分の創造性を活かした仕事や他の会社での副業などに充てるなど、複数の仕事に並行して取り組むことがより一般化してくるだろう。こうした「クリエイター・エコノミー」と言われるような個人の活動の収益化や、またその活動自体をサポートするプラットフォームも増えてきている。
(P225)

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◇藤井 哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム事務局長/SOCIALX.inc ボードメンバー
1978年10月生まれ、滋賀県大津市出身の43歳。2003年に雇用労政問題に取り組むべく会社設立。職業訓練校運営、人事組織コンサルティングや官公庁の就労支援事業の受託等に取り組む。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地方の産業・労働政策の企画立案などに取り組む。東京での政策ロビイング活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。

◇問い合わせ先 tetsuyafujii@public-x.jp

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