エッセイ⑨「くしゃみのことのはじまり」
最近、くしゃみがひどい。
いつも鼻の奥がむずむずしていて、気持ちよくハクショイとできればいいのだけど、むずむず止まり、どっちづかずのやつが多くてとてもむかむかする。
花粉症の季節は終わっていて、どうしてこんなにくしゃみが出るんだろう?
その答えはわかっている。
最近の自分の行動を振り返って、名探偵のように推理済み。
犯人は、そうです。
鼻毛カッターです。
最近、お手頃の鼻毛カッターを買ったのだ。
ずっと気になっていた。
自分は放っておくと鼻毛がすぐに伸びてきて、鼻の形状上、気をつけないと毛がみっともなくはみ出してしまう。
これまでもずっと注意してきた。
小学生の頃、牛乳瓶をあおって飲んでいたら瓶底の後ろから男子生徒に鼻の穴を覗き込まれて大笑いされた、あのやわな乙女心を手ひどく傷つけられたとても嫌な思い出からその気遣いは続いている。
人より鼻毛が多いのだろう。
しかし長いことその手入れの仕方の正解がわからなかった。
カミソリをそっと鼻の穴に差し込んで淵に沿ってくるーっと剃っていく、という側から見たら冷や汗ものの方法をずっと取ってきた。
確かにハラハラするのかもしれないけれど、もうわたし自身はそれにも慣れていて、今さら変えようとも思っていなかったのだ。
大人になってから鼻毛カッターというものがあるのを知った。
昔からそんなものあっただろうか?
とにかく、鼻毛専用だなんて!
カッターの形を確認して、ちょっと怖さを感じた。
この小さい筒状の先端の中で刃が回るの?
鼻の中が間違ってズタズタになったりしない?
強く押し付けすぎると危険です、みたいな注意書きがされているのでは?
振り返るとカミソリの方が危険な気もするけれど、わたしは恐怖からずっと手を出していなかった。
ネット通販で見るとそれなりにお値段もしていたし。
それが、お手頃価格の鼻毛カッターを見つけたのが数ヶ月前のこと。
たまたま店頭で見つけて、この価格なら、と決めた。
未知の刃物への恐怖に打ち勝つなんて、わたしもそれなりに経験を経てしたたかな美しい大人の女性になれたのだろうか。
とにかく、わたしは見事に鼻毛カッターを扱う人間になったのである。
それでどうだったかというと、やっぱりとても手軽にお手入れができて便利だった。
肝試しのようににちょっと強く押し付けてみたりもしたけれど、まったく鼻が傷つくこともない。
これはいいものを手に入れたぞ!
と、思ったのだけれど。
どうやらいいもの過ぎた。
鼻の穴の毛がきれいに一掃されたらしい。
「なぜ人間の体のそこに毛が生えているのか?」
ムダ毛処理をする人は一度は考えたことがあるに違いない。
少なくとも鼻毛に関しては、わたしは身に沁みて学んだ。
鼻毛はいつも鼻の穴の中で己の使命をきちんとまっとうしていたのである。
それなのにわたしは、無意味な邪魔者扱いをしてどんどん取り除いてしまった。
その結果、鼻に細かなゴミが入ると直接粘膜を刺激して、体がそれを必死で追い出そうとくしゃみを多量に誘発していた、というわけだった。
それがわかって以来、鼻毛カッターには穴の入口のはみ出しそうなささやかな毛のみを処理してもらっている。
本当に、体に付いている部分でむだなものなどないのだ。
自分の体への感謝と理解が深まるきっかけとなりました。
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