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【ショートショート】赤ちゃんの杞憂
ミルクが飲みたい、どうしようもなくミルクが飲みたい。生まれて早数ヶ月が経過するが、周囲の人間と比べると私の食欲はどうも異常らしい。一日六~八食なんてのがざらになっている。けれど、背に腹は代えられない。人は欲望には抗えない。度々申し訳ないと思いながら、ミルクをくださいと母に懇願する。
「あらあら、どうしたの? ウンチ出ちゃったの?」
違う、ウンチではない、ミルクが欲しいのだと叫び続ける。
「今日も元気いっぱいね~。あれ? ウンチじゃないわね」
そう、ウンチではない。
「お腹が空いたのかしら、ちょっと待っててね。――はいどうぞ、いっぱい召し上がれ」
脇目も振らず、浴びるように瓶を傾けた。瓶が空になった後も飲み続け、ほんのりとした甘さが口から消えたところでようやく手を止める。
ミルクの余韻が消え、しばらくした頃。
ウンチがしたい、どうしようもなくウンチがしたい。生まれて早数ヶ月が経過するが、便意のコントロールは未だに下手だ。履き捨てたオムツは数知れない。っと、そんなことを考えているうちに――。あぁ、またやってしまった……。度々申し訳ないと思いながら、オムツを交換してくださいと父に懇願する。
「おやおや、どうした? またお腹が空いちゃったのか?」
違う、ミルクはもういい、オムツを交換してくれと叫び続ける。
「今日も元気いっぱいだな~。あれ? もしかしてウンチか」
そう、ウンチである。
「ちょっと待ってろ。――ははっ、これまた大量だな」
家族とは言え、あられもない姿を見せるのはやはり気恥ずかしい。そんなことを頭の片隅で想いながら、茶色いオムツに別れを告げ、純白のオムツを出迎える。
臀部の違和感が消え、しばらくした頃。
遊んでほしい、どうしようもなく遊んでほしい。生まれて早数ヶ月が経過するが、私は兄と遊ぶ時間が特に好きだ。だから、一緒に遊びませんかと、今日一番の大声で兄に懇願する。
「ははっ、どうした? オムツ交換じゃないみたいだし、ミルクはさっきあげてたよな。もしかして、一緒に遊びたいのか?」
そう、遊びたい。さすがに話が早くて助かる。
「よーし、いくぞっ!そーれ、たかいたかーい!」
優しくほどよい揺さぶりが心地よい。この嬉しさを兄に伝えようと、小さいながら力いっぱい表現する。そうして、私は心身ともにハイになった。
楽しいひとときが過ぎると、まぶたが重くなってきた。まどろみの中、ふと考える。毎日が幸せだ、何不自由なく過ごせている。けれど、食っては寝てを繰り返し、たまに遊び、たまに出すだけ。これではただの穀潰しだ。こんなことで私は立派に成長できるのだろうか。
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