何処までもやせたくて(87)ホットケーキと母の変化

伯母とのホットケーキ作りは、想像してたよりも楽しめた。
けっこう美味しくできて、自分でも、ひと切れ味わうこともできた。

朝食をちゃんと食べたせいで、お腹が張っていて、お昼を抜いたから、そのかわりに、ひと切れぐらいなら食べても大丈夫、って、自分に必死に言い聞かせて。

ホットケーキを作りながら、改めて感じたのは、伯母との相性のよさ。
会話をしていても、ストレスをそれほど感じずに、やりとりができる。
朝に続いて、ホットケーキまで食べられたのも、そのおかげかもしれない。

「伯母さん、子供ができなかったでしょ。
もし授かるなら、女の子がいいなって、ずっと思ってて、一緒に料理したり、買い物したりしたいなって、それが夢だったのね。
今回はこういういきさつからだけど、その気分がちょっぴり味わえて、なんだか嬉しいわ」

一緒にお皿を洗いながら、そんなふうに言われて、私も嬉しくなる。
でも、
「ちいたんのお母さんは、娘が二人もいて、こういうこと、いつでもできるわけよね?」

その言葉に、思わずハッとした。
私、母親と一緒に料理したことなんて、一度たりともない。
たしか、妹は何度かそういう思い出があるみたいだけど。

私が料理に興味を持ち始めた、幼稚園から小学校の頃、あの人は仕事のキャリアを積むのに必死だったし、妹が病気がちだったから、家ではそっちの世話で忙殺されてた。
あの人に少し余裕ができた時期には、私はもう中学生で、親子なのに、波長が合わないものを感じるようになり、それが今も続いている。

もし、一緒に料理をしたりできる関係だったなら、
あの人のこと、もう少し好きになれてたのかな…

「このあいだ、あなたのお母さんが言ってたんだけど」

あれ、さっきとは違って、大切な話をするような口調だ。

「なんだか、この病気のことで、本とか読んで、いろいろ考えたみたいでね。
これからは、もっと話をしたり、とにかく一緒の時間を増やそうと思うの、って。
だから、一緒に料理したりすることも、これからはあるんじゃないかしら」

ビックリして、鳥肌が立つ。
私の心の中が見えてるみたいに、伯母がそういう話をしたことに。
そして、それ以上に、母親がそんなことを言ってるということに。

「だからね、しばらく学校とかお休みして、家でゆっくりするのも、悪くないんじゃない?
お母さん、あなたといっぱい話したいみたいよ」

喜んでもいいことなのか、半信半疑で、伯母の表情から、何かを読み取ろうとすると…
安心させるように微笑みかけてくれた顔が、一瞬、自分の母親の顔に見えた。
姉妹だから、似てるのは当たり前だけど。
でも…
どうしよう、涙が出そう。

「うん、考えてみるね」

できる限り、軽い調子で言うと、トイレに駆け込み…
泣いた。
泣いても泣いても、涙が出てくる。
体中の水分がなくなるんじゃないか、というくらい。

ようやく涙が出なくなったところで、我に返り、ひどい顔してるんだろうな、と、洗面所の鏡を見たら…
唖然。
泣き腫らした目に、じゃなく、自分の顔に。

私、こんな顔だったっけ。
丸顔だったはずなのに、頬がげっそりこけて、骨格が全部わかる。
気持ち悪い…
死人みたいだ…
これなら、コンプレックスだった丸顔のほうがまだマシだよ…

台所に戻ると、伯母さんが心配そうな顔で、
「大丈夫? 私、何か悪いこと言ったかしら」

「ううん、そんなこと全然なくて。むしろ、逆なんです。
なんか、あの人……いえ、お母さんがそんなこと言ってるなんて、信じられなくて。
でも、嬉しかったから」
「そう。じゃあ、今度の週末、お母さんが上京してきたときに、今後のこと、相談してみる?」
「してみます。
それと、私も自分の体調のこと、いろいろ考えて、見つめ直してみようかなって」

口にした言葉に、自分でもビックリ。
ひと口ずつ、一歩ずつでいいんだ、って伯父さんは言ってたけど、
これって、ものすごく大きな一歩になりそうな気がする。

大きすぎて、踏み出すのが怖い。
でも、お母さんが支えてくれるなら……

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