何処までもやせたくて(88)お腹がすいちゃった
伯父伯母の家に来て、二度目の朝食。
思い切って、白米に挑戦してみることにした。
美味しい料理を作ってくれる伯母に申し訳ない、という理由もあるけど、それだけじゃない。
昨日、朝と夜におかずだけの食事をして、昼にホットケーキを食べて……
にもかかわらず、朝に測った体重がまったく変わってなかったから。
このままじゃ前に進めないという焦りと、あんなに食べたのに太らずに済んだという安堵、そして、母に会うときまでにもうちょっとマシな顔になっていたい、という見栄のようなものが、背中を押してくれたみたいだ。
炊きたてのご飯のにおいに、一瞬、吐きそうになったけど、口に入れたら、意外なほどおいしくて。
気がついたら、お茶碗に半分くらいの量を完食。
おかずも昨日より、多く食べられた。
「すごいね。一歩どころか、五歩も十歩も進んだんじゃない?」
と、伯父にほめられ、朝の体重がまったく同じだった話をすると、
「それはたぶん、ちいたんの体のなかには足りないものがいっぱいで、栄養がまず、そっちに使われるからじゃないかな。
そんなに一気には、太ったりしないみたいだよ」
「そういう話、ネットで読んだことがあります。
でも、伯父さん、医者でもないのに、よく知ってますね」
「いや、ちいたんが来てくれるのに、何も知らないんじゃ、ダメだと思ってね。
ちょっとネットを見たりして、にわか仕込みしてみただけのことで。
ちいたんのお母さんに比べたら、全然、勉強不足だよ」
そういえば、昨日、母が私の病気について、いろいろ調べた、という話を、
伯母がしてくれたっけ。
私のこと、真剣に考えて、一緒の時間を作りたい、とかって言ってたみたい。
それで、私、泣いちゃったんだ。
一夜明けたあとも、その話を聞いた嬉しさは残ってるけど……
ちょっとずつ、怖さが大きくなってきてる。
これから実家に戻ったとして、18年間うまくつきあえなかった母と、仲良くなれるのかな。
仕事は忙しいのだろうし、私との時間、簡単に増やせるとは思えない。
それに、母がそうしてくれても、私が変われなかったら、ますます嫌われそうだ。
約束。
母が伯母に言ったことを実行して、私が期待に応えることができなかったら……
怖い。
約束って、なんか怖いよ。
黙り込んでる私を、そっとしておこう、という意味なのか、伯父が「ごちそうさま」と言って、テーブルを離れ、伯母が、後片付けを始めた。
また、泣きそうになってたから、正直、ありがたい。
こういう伯父や伯母の家にいたほうが、もしかしたら、楽かもしれないな。ここに来てから時々浮かぶ、そんな思いを、いつにも増して強く感じた。
でも、母は母なりに、私のことを考えて、変わろうとしてるのに。
変われそうにない私がやりきれなくて、自己嫌悪。
「あ、そうだ、いただき物のデザートがあるんだけど、ちいたんも食べる?
もちろん、無理にとは言わないけど…
カスタードプリンだから、たしか、こういうの好きじゃなかった?」
伯母の声で、自己嫌悪のモヤモヤから、我に返った。
「えっ……!?」
今、朝ごはんをあんなに食べたのに、そんなの、無理に決まってるじゃない。
そう思いながら、
「うん、食べてみようかな…」
真逆な返事をしてしまった自分に、驚く。
いや、伯母を見たら、私以上に驚いてるみたい。
そりゃ、そうだよね。
でも、理由はある意味、簡単。
さっき、朝ごはんを食べたばかりなのに、もうお腹がすいちゃったから。
おまけに、カスタード系のスイーツって、ホントは大好物なんだもの。
食べちゃダメだよ、って声も、どこかから聞こえる。
でも、いいや、食べちゃえ。
そのほうが、伯母も喜ぶだろうし、母にだって、マシな顔を見せられるから。