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お化粧

       〈1〉


おばばが 化粧するときにゃ

色街仕立ては チンドン屋

”しわ”埋め 上塗り ”しみ”隠し

古いキャンパス 取り出して

白塗り乾きの 頬紅は

”おてもやん”も 笑い出す

         〈2〉

今 私は 鏡の前

朝の目覚めは うらうらと

寝ぼけまなこで 覗き見る

髪は 白髪羅生門

肌は 泣いた赤鬼で

さすがの私も ぎょっとする 朝行事!


洗顔した後 鏡見て 

ちょっとは 垢ぬけしたかしら?

今から 目にした老婆の変身どき

自分の顔は 古びたキャンバスで

これから 描く「絵」は どんな「絵」?

化粧はじめた 乙女の頃

赤い紅も 恥ずかしい

ところが 中年増(ちゅうどしま)から

化粧すること自体 面白く

自分の顔をキャンバスに

油絵を描くように 塗ってみる

そして

大年増(おおとしま)になって

気がついた

娘の遺した化粧品

使わなきゃあ もったいない

古びてしまわぬうちに

使っちゃおう!

私の年齢(とし)は大年増

大年増のお化粧は

薄墨をぬるように

けれど、肌しろく

抜けた眉毛を 足してゆく

頬と唇は 赤くなくても

健康そうに見えるよう!

濃くもなく 薄くもなく 自然にあるように・・・

そこが 一番むつかしい!

 註)年増:娘盛りをすぎて、やや年をとった女性江戸時代には20歳過ぎ        
      を言った。
  中年増(ちゅうどしま):23,4歳から28,9歳ごろの女
  大年増(おおどしま):年増の中でも年かさの女





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