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年の瀬や何かが一つひとつ終わってゆく


 昨日、高校時代の音楽クラブがら付き合っている##ちゃんとひさしぶりに「ゲストルーム」で会った。
 ##ちゃんが結婚して、偶然 私が引っ越した家の近くに住んでいることを 同窓会の友人が見つけてくれて、つき合いがはじまった。

彼女とのデートは いつもこの「ゲストルーム」
私と彼女の家の丁度真ん中の距離にあったのも重宝だったけれど、雰囲気もよくマスターとママの人柄が特別だった。
私が油絵をやっていた頃 3回も個展をさせてもらったこともある。
彼女とのデートは4時間のおしゃべりタイム、それを心良く受け入れてくれる、気心の知れたマスターとママは 私たちの大ファンだ。
そんななが~いお付き合いの「ゲストルーム」にも 少しずつ「時の流れ」が 状況を変えていく。

先日、1か月ほど前に こんなことがあった。

 あれから、一か月後 私は彼女に秘密を持ったまま##ちゃんに会うことになった。いつものように数日前に予約の電話をすると、ママが出て来て 忙しそうに「はいはい、土曜日11時半ね!」と、あっさり電話が切れた。     こちらとしては ながいご無沙汰だったので、ちょっと無駄話でもしたかったので 忙しい時間を避けて電話したはずなのに…            まさか、「ちょっとした秘密」が ばれたのか? いやいやそんなはずは ない! 不信に思いつつ、昨日の「ゲストルーム」行きとなった。

 チリリンと いつものドアーを開けて「ゲストルーム」に入る。    入ったところで、お客さんが多いのに驚いた。
「今日は お客さんが多いのね?」とママに言うと
「今日は 土曜日やろ?お稽古事のグループが来やはるねんえ」と、前かがみになってお盆を運ぶママが「もう、来たはりますえ!」と言う。その言葉に 私はいつもと違うざわめきの中で彼女を見つけた。
「いや~、早かったんやねえ、おまたせ!」という私に ##ちゃんは 
「いや、今 来たとこやし…」と ピンクのマスクの顔をあげた。
「今日多いねえ!土曜日は なんかお稽古ごとの帰りの人が 来やはるらしいわ。今度から 土曜日は避けよな!」と、小声で言うと 彼女もふんふんと首を振った。
腰を痛めてているママは前かがみになってお水を運んで来る
「忙しそうやな、手伝おか?」というと
「座っといて、余計ややこしなるわ!」とママ
「そやな、こけんようになあ!」
もう、みんな 親戚か~? の雰囲気でごった返す中「お弁当とアメリカンやね!」と、いつになく早々と完璧な注文を取るママに、笑いながら首を縦に ふんふん振った。
大勢のお客さんが入ると、こんなにやかましいのか? フェイスシート越しの上マスクでは ##ちゃんと話をするのもたいへんだ。
しかし、こんな状態の「ゲストルーム」は ホントにはじめてだった。

しばらくして、ママがお弁当を持って来る。ママがお弁当を運んで来た時、私等はいつもお弁当を見て
「うわ~、おいしそう!さすがわ マスターやな、今日は…?」と覗き込むと、ママがお弁当のメニューを 簡単に説明する。
「いや~、エビまでのってるやんかあ!」と言いながら いそいそとお手拭きで 手を拭いて、いざ食べようとした時、ママが印刷した紙を テーブルの上に差し出した。
「これな、読んどいて!」
二人は怪訝気に 手を拭きながら、印刷物に顔を向ける。
そこには マスターのPCで書かれた簡単な挨拶文が書かれていた。

内容ははっきり覚えていない。が、
  今月、12月27日を もって閉店することになりました。
その文章を読んで、二人は ガ、ガ~ン!! ショック!を受けた

なんで?どうしたん? 前から決まってたん?
怪訝と不安に思いながら ##ちゃんと顔を見合わせていると
私と隣のテーブル席の間に置いてあった椅子に 寄りかかるようにして 「あ~、しんど! ちょっと、座らせてや!」と、ママが座った。皆は
「どうぞ、どうぞ!」というように、バックやコートを 移動させる。と       ママは 小さな声で 話し始めた。
私は身を乗り出して聞き耳をたてる。
「ここのところに【痣】があるやろ!」と、ママは 白髪で隠れていたおでこをかきあげた。そこにはかなりおおきな黒い「ホクロのかたまり」が 出現した。
「これな、最初は小さい「ホクロ」やったんえ、小さかったから 自分でつぶしてたんやけど、それがだんだんだんだん大きくなって来て つぶされんようになったんで、お医者さんへ行ったら『これは皮膚癌です』って、言われたんや。それで、20,21,22日と手術になって…、あの人も心臓で倒れたん2回目やろ?もう、3回目はない!って、言われてるんや!」
年恰好の似かよったお客さんたちは ママの小声に ダンボのような耳を傾けた。
「だいぶ、大きいやんか~?」誰かが言った。
「あんまり『えぐれる』ようなら、太ももの肉を移植するって…」他人事のように語るママも「厨房に入って、『しんど!』って言うたら『わしも  しんどいんじゃ!』って、言うからな! あの人もしんどいんやと思うわ」と言い残して、よたよたと厨房へ向かっていった。

何時かはこんな時期が来るかもしれないと思いつつも、まだ先であって欲しい!と、思っていたのは私だけではないはず。「ゲストルーム」のファンなら誰しも思うこと、けれど、ガ~ン!!

突然のこととて、ショックは隠せなかった
##ちゃんと、閉店27日までに もう一度二人で来よな!と約束した。

翌日の電話で、ふたりで何か「ありがとう!」をしたいね!と言い合う。
丁度、18日に【宮川 彬コンサート】に行くから、その時ふたりで買いに行こう!とも決まった。 さて、何がいいのか?
私も##ちゃんも ゆっくり身体を休めてもらえるような物を贈りたい!と、思っている。
「ゲストルーム」が無くなると、##ちゃんとのデート場所も困るけど、 ママやマスターに会えなくなる。
お店があるからこそ、##ちゃんにも、ママやマスターに会えるんだから… 

そして、一番気がかりなのは
「ママとマスターのあの二人は そんなに長くはないだろう…?」と思えることだった。

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