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リハビリテーション臨床における 療法士の「障害受容」の使用状況(第55回日本作業療法学会ポスター演題草稿です)

はじめに
 田島(2009)では、リハビリテーション臨床における療法士の「障害受容」の使用法について7名の作業療法士にインタビュー調査を行い、その結果から療法士と対象者の関係性を考察し、リハビリテーション臨床の課題について考察を行った。一方で、田島(2009)以降、リハビリテーションの様相も変化をしてきた印象を受けてきた。田島(2013)は、作業療法学の1965年の国家資格化後の学問と実践の変化を辿ったものであるが、療法士の対象者を捉える際の還元主義的な態度が反省され、意味を持って生活行為を行う作業的存在として対象者を捉える視点が主流になってきたことを明らかにした。「障害受容」という言葉の使用には、療法士と対象者関係の力学、療法
士の能力主義的価値観、対象者に対する個人モデル的態度が含まれている(田島、2009)。2009年から約10年経過した現在の療法士の「障害受容」の使用状況を調査し、2009年時との比較検討をすることで、リハビリテーション臨床の近年の変容の状況を把握し、今後の課題を考察することが本研究の目的である。

対象と方法
対象:関連する内容の講演時、SNSで対象を募り、研究協力の申し出のあった作業療法士5名、施設を対象とした。施設は通所介護や訪問リハビリテーションを実施するA施設と回復期リハビリテーション主として就労支援や通所リハビリテーションを展開するB施設であった。各施設の研究協力者は、A施設は、作業療法士2B施設は、作業療法士5名であった。
方法:個別的に半構成的インタビュー調査を行った。場所は対象者の職場か住居近くのプライバシーの守られる静かな空間にて実施した。インタビュー日時は、2019年12月から2020年2月の間で実施し、一人1時間程度であった。インタビューは許可を得て録音し、それを逐語録化し質的データとした。データは、インタビューガイドに沿ってデータを抽出し、2009年時調査結果の比較検討から考察を行った。
倫理的配慮:本学の倫理委員会の承認(倫理認証番号19060)、B施設はB施設の倫理委員会の承認を得た後に実施した。


結果(研究協力者の語りは「」で示した。)
1)「障害受容」の使用状況
現時点では全員が使用しておらず、学生時代や若い療法士の頃に使用していた人が4名であった。
2)「障害受容」を用いなくなった経緯
以下の2通りがあった。
<学び、調べた経験>:障害のある当事者による講演、「障害受容」の使用について批判的に検討した書籍、先輩療法士からの指
摘により気づき
<「障害受容」に使用に対する違和感>:「医療者側の都合のいいような言葉のような感じがあって、何か抵抗があった」「もし障害受容という言葉を自分が患者の立場で使われていたと思ったら、ちょっとすっきりしない感じが。それを決めるのは自分だと思う」「患者に問題を帰属させてしまい、僕らがやるべきことが見えなくなってしまう」
3)対象者とのかかわりの変化
<用いていた頃のかかわり>:「麻痺は残るものだからと繰り返し説明するしかなかった」「できない課題を何回もさせて、できないことを分からせようとしていた」
<用いないことによるかかわりの変化>:
以下の5点があがった。
①選択肢の提示
②目標を共有しあうための対話の重視:「目標を共有できるまでしっかり話をする」「対話する時間を設けてリハビリテーションの目標設定に対象者の意見を盛り込む」「何を思っているか対象者の話しをよく聞く」「対象者と一緒の側に立とうとする」
③本人の意向に沿った治療の実施:「機能回復への固執があるなら機能訓練自体がその人にとって重要な意味のある作業と捉え真剣に向き合う」
④その人らしい地域での生活のための連携や支援:「すべてを自分で担おうとせず地域での支援に手渡すことを意識する」「対象者を否定せず社会参加の場を作るまで一緒にやっていく」「地域の普通の場所(今回の語りでは陶芸教室)で支援が受けられるように地域資源を開拓する」
⑤生活スタイルの多様性の気づき:「自分の知る範囲内でしか考えられてなかったやり方をまったく超えてくる」「ここに手すりがあればもっと楽に動けるのにその人の美意識が許さなかったり、はって動くけど好きなインテリアは動かしたくなかったり、老老介護でかなり家が散乱していても結構幸せそうに暮らしていたりといった様子を沢山見て、病院の時思っていた正解が全然違った」
4)周囲について
6名の語りが得られた。「用いている」が5名であり、そのうち回復期リハビリテーション4名。通所リハビリテーションで「用いていない」が2名。2009年頃には「よく聞いていた」。
<周囲との感覚の差異を感じる>:「周りの方がときどき受容していないというと、ピクッと気にするようになった」「周りは使っているけど長く釈然としないものがある」や、経験年数が5年の療法士は、「周囲はすごく使っている。先輩との共通言語となると、障害受容が出てくるので、経験年数の若い1~3年目は使っていた。最近は、自らが主体で話をできる場面が増えたので、障害受容という言葉は意識して使わない」職場の組織体制や風土により大きく異なるとの語りもあり。

考察 「障害受容」の使用を控える療法士が増えていた。結果を踏まえ、①変化の背景要因、②「障害受容できていない」と用いるのは良いのか悪いのか、③今後の課題、を考察する。

①変化の背景要因について
「医学モデル」→「生活モデル」、「病院・施設」→「地域」、「治療」→「活動・参加の支援」への広がり、それに伴う多職種連携の推進、人権に対する法律の強化や実行化の推進現在はリハビリテーションの専門知が貢献重視を礎に対話を重視する専門知へとパラダイムシフトを起こしつつある中ではないか。
②「障害受容できていない」は良いのか
「障害受容」の使用について医療倫理の4原則である「自律尊重原則」「無危害原則」「善行原則」「正義原則」に抵触するという感触を抱く療法士が増加していたと捉えられる。時代の要請に伴い、療法士の抱く倫理感(観)も大きく変化すると言える。今後「障害受容」の使用法をめぐる倫理感(観)の醸成は、人権を基盤としたリハビリテーションの在り方に大きく関与する。
③今後の課題
人権を基盤としたリハビリテーションのための倫理感(観)の醸成には、
「障害受容」の使用法について、障害のある当事者による講演機会が得ら
れたり書籍を参照したり、また、職場内においては「障害受容できていな
い」と用いられる事象に対する検討の機会を設けるなどし、個々の療法士
のみならず職場の組織体制や風土も変容していくことが有効である。


文献
田島明子2009「障害受容再考」三輪書店
田島明子2013「日本における作業療法の現代史」生活書

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