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「影のないボクと灰色の猫」 02-A03 第三章 僕

この物語は、Twitterで自然発生的に生まれたリレー小説です。
清水はこべさんと一緒に、マガジンにまとめています。
詳細はこちら → はじめに

★前回の物語(第二章)

第三章  僕

いつ頃からだろうか
「人間」である事に少し疲れた僕は、猫になれたらいいな
って思うようになった。


そんなある朝、目覚めると目の前には「僕」が横たわってた。

なんで? 寝ぼけてる?
って目を擦ろうとした僕の目に映ったのその手は…


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「嘘だろ」

そう呟いたつもりの僕の声は、やはり、猫の鳴き声だった。

願いが叶った。
なのに、嬉しいという感情は湧いてこない。

不意に、携帯のアラームが鳴った。

自分の尻尾の毛が逆立つのが分かった。
アラームのせいではない。
目を瞑ったままの「僕」の手が、アラームを止めたからだ。

「僕」は、そのまま目を開けて、僕をみつめた。

「おはよう」

「僕」は、微笑んで、僕の頭を撫でた。僕は尻尾を逆立てたまま、ただ、撫でられていた。

「そろそろ時間だ」

「僕」はベッドから身を起こし、立ち上がった。


その姿には、影が、無かった。


「僕」はクローゼットを開けて、服を取り出した。サテンの様な質感の、黒いセットアップ。
その服に、全く見覚えは無い。

鼻歌を歌いながら、着替える「僕」には、やはり、影が無い。

「さあ、行くよ」

黒いセットアップに着替えた「僕」は、もう、完全に僕ではない。

よく見れば、顔は同じだ。なのに、明らかに別人だ。
きっと、家族も友人も、「僕」が僕だとは思わないだろう。
「僕」は、部屋のドアを開け、するりと外へ出た。

尻尾を逆立てたまま、僕は「僕」の後を追った。


「僕」は外へ出ると軽いジョギングを始めた。やはり影はない。

影がないことを周囲に悟られるのではないかと気が気ではない僕は「僕」の後ろにピタリとくっついて行く。

しかし、時間に追われ忙しなく歩く人達がそれに気付くことはなかった。

1人を除いては…。


コンビニから出てきた若い女性とすれ違った。僕は彼女と不意に目が合ってしまい、条件反射のように挨拶をしてしまった。

「ニャーン」

可愛らしい鳴き声が響く。
僕は真面目な性格が災いしてしまったと後悔した。

すれ違った彼女はニコッとして僕を見たが、すぐさまハッとした顔をした。目線は僕を見ているようで見ていない。

「僕」に影が無いことに気付いたんだ。

彼女は足早に「僕」を追いかけてくる。

そんなことは知らない「僕」は走るスピードを上げて駅に続く一本道へと入って行く。表通りへ曲がる瞬間、彼女の顔がほんの一瞬見えた。とりあえず、追い付かれることはなさそうだ。


twitterリレー小説 「影のないボクと灰色の猫」
02-A03   第三章   僕

書き手 : 。 (notenana)
              清水はこべ  (notenana)
              (ゆぅ) (nana)
写真 : ゑ。さん家の猫さん


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