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違う人とのキス

あの人がこびり付いて心からも体からも離れてくれないので
新しい恋をすることを決めたんだ。
頑固な汚れがこびり付いたフライパン、いつかは買い替えるでしょ。
大切なフライパンだけどそのフライパンで料理しても焦げ付いて少し苦くて切ない気持ちになるから新しいフライパンに買い替えようって。

でも気づいてしまった。
新しい誰かと唇を重ねた夜「あれ、なんか違う。」そう思った。
別に嫌いじゃないけど。でも何か違う、ぜんぶ違う。

あのままキスの続きをしても大丈夫だったかもしれないけど
結局、誰かとはそれ以上のことはしないで24時に手を振った後
あの人のことばかりゆっくりと思い出していた。

どうして新しい誰かとキスをしたのに、あの人ばかり思い出すのだろう。
上書き保存てやつは嘘なのか。
あの人とのキスはこうだったな、首を傾ける角度も費やす時間もたらこの柔らかさも、まるで昨日のことのように思い出せてしまう自分が気持ち悪い。
絶対に美化をしている。絶対に都合の良いように思い出を細工している。
そんなことを分かっていても思い出を超えない現実。

新しいフライパンで目玉焼きとベーコンを焼いてみたんだ。
目玉焼きは焦げずに焼けたし、ベーコンの炒め具合も悪くなかった。
でもなぜか前のフライパンで食べた目玉焼きとベーコンの方が美味しかった。

一度だけ使った新しいフライパン、その夜のうちにそのままマンションのゴミ捨て場にそっと置いた。


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