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太陽を探すネコ

 どこかの時代。

 世界は、闇に包まれていました。

 そこでは、どんなに待っても朝はやってきませんでした。

 というのも、世界を照らし、朝を生み出すはずの太陽がどこかへ隠れてしまったのでした。

 生き物たちは手を取り合って、再び朝が来ることを願いましたが、太陽はもう戻ってはきませんでした。

 長い長い夜が、世界を包み込みます。

 厳しくも優しい朝の光を失った世界では、全ては眠りにつき、シン、と静まり返っていました。

 柔らかな陽射しを受けてくすぐったそうに揺れるタンポポも、力強い光を反射して元気に輝くきらきらとした朝露も、そこにはありませんでした。

 停滞は腐敗をもたらし、やがて滅びをむかえます。

 世界はゆっくりと滅びに向かっているようでさえありました。

「僕が太陽を探しに行くよ」

 そう言って立ち上がったのは、ネコでした。まだ幼い、頼りない姿の、一匹のネコでした。

 夜の色をした体は薄汚れて毛並みは悪く、この時代の生き物は皆そうでしたが、彼もまたひどく痩せていました。お世辞にも美しいとは言えない、むしろみにくいネコでした。ただ彼の金色の瞳だけは、もはや失われた太陽そのもののように力強く光り輝いていたのですが、暗く沈みこんだ世界の中では誰もがうつむいていて、彼のその瞳に気付くものはおりませんでした。

 誰も彼に期待はしませんでしたが、止めるほどの元気もなく、ただ黙って彼を行かせました。

 彼は、果てのない道のりの旅に出ました。

 ただひとり真っ直ぐに前を見つめて歩く彼の姿を、夜空に浮かぶ星たちだけが見ていました。

 旅はひどく辛いものでした。険しい山道が、激しい川の流れが、冷たい吹雪が、彼のゆくてをさえぎります。

 彼の夜の色をした柔らかい毛は、いっそう汚れ、千切れ、傷だらけになりました。痩せたからだもさらに痩せ細り、骨と皮ばかりになりました。

 彼は今や、世界で一番みにくいネコになっていました。誰もが、すれ違うと顔をしかめ、目をそらすほどでした。それでも彼は、太陽を探して、果てのない旅を続けました。

 長い長い旅の末、ネコはついに太陽を見つけました。太陽は深い洞窟の中で、光り輝く身体を隠して震えていました。

「太陽さん、出てきておくれ。僕らはみんなで、君が顔を出してくれるのを待っているんだよ」

 ネコが言うと、洞窟の奥からかき消えてしまいそうな小さな声が聞こえます。

「出ていくわけにはいきません。わたしが出たら、世界は明るくなってしまう。見たくないものが、みにくいものが、みんなあらわになってしまうから。だから私は出てはいけないの。全てが夜の中で、見えない方がいいんだわ」

 ネコはゆっくりと首を横に振りました。

「目を閉じてはいけないよ。そうしたら、とてもきれいな、素敵なものまで見えなくなってしまうんだよ」

「でも、みにくいものを見るのは、耐えられないの」

「僕は、世界で一番みにくいネコだ。でも僕は、目を閉じないよ。それを受け止めるよ。僕はみにくいけど、それが僕なんだ。世界もみにくいけど、それが世界なんだ」

 夜の色をしたネコの金色の瞳は、太陽のように輝いていました。

 その真っ直ぐな瞳に、太陽は言葉を失いました。そしてゆっくり、洞窟の出口に向かって歩き出しました。

「わたしはもう一度、このみにくい世界を、受け入れてみるわ。ネコさん、ありがとう……」

 はにかむようにそう言いながら、太陽が顔を出しました。

 優しくて残酷で、暖かくて厳しい光が世界を包み込み、世界がゆっくりと眠りから覚めていきました。

「ねぇ、ネコさん、あなたはみにくくなんてないわ」

 太陽が言いました。

 眩しい朝の光に包まれて、まとっていた夜の色を振り払ったネコの毛並みは、暖かい陽だまりのような、優しいオレンジ色でした。

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