【ネタバレ無】映画『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』評

「シリアスな朝ドラ、ここに完結」
 本作を観るにあたって、前回の外伝を鑑賞する事は必須ではない。外伝はほんとうに外伝であるので、その意味で本作はアニメ版の続きである。

 せっかくリクエストをいただいたので、本作の魅力について書き綴っていこうかとも思ったのだが、大変申し訳ないことにこれが全然まったく何も書けない。これはもう逃げと思われても致し方ないのであるが、書けないというか、うまく言葉にできない。まったく語彙力が足りずお恥ずかしい限りなのだが、本当に素晴らしいものに出会うとこのような事はまれによく起こる。

 主人公のヴァイオレット・エヴァーガーデンは、「あいしてる」とは何なのかを探している少女であるが、本作においてそれは完結する。彼女の生き様を目の当たりにして、「良かった」「感動した」「泣いた」「素晴らしかった」、…たしかに感じたことではあるが、これらだけではとても形容しきれない。本作は単なる愛のストーリーではないし、泣けるから観に行けと押しつけがましく言うのも何か違う。などとあれこれ考えてしまうという意味でも、非常に魅力的な作品であることは間違いないので、少しでも興味があるなら今すぐアニメ版を鑑賞の上劇場に行く事をオススメする。

 とは言え、これだけではレビュー記事にする意味がないようにも思われるので、本作のネタバレを避ける形で、ちょっと概念的な事を話そうと思う。本作を鑑賞後あれこれと考えている中で、一つのトピックとなったのは「名作とは何か」であった。より正確に言うと、「名作を名作たらしめているものは何なのか」という事である。面白い面白くないという作品への評価は感性の問題であるので、不朽の名作と言われる類の映画であっても人によってはつまらないと思うだろう。これは自然である。だがそれでも、多くの人々から賞賛され、後世にまで残り続ける作品もあるからして、やはり「名作」というカテゴリは確かに存在し、本作もそれに該当するように思われる。ではもう一度先ほどの問いに戻るが、なぜそう思ったのだろうか。一つの解として挙げられそうな条件は、「その作品が『普遍性に訴えかけるもの』かどうか」である。

 「泣けるから」名作なのではない。それは間違ってはいないがおそらく正確ではない。ゆえに「n回泣いたから君も感動できる」は大きなお世話である。そうではなく、大事なのは「どうして泣いたか」である(偶然だが、アニメ版OPのサビはまさに涙する事への問いであった)。人は何かに心動かされた時、得も言われぬ情動が「泣く」という現象となって表出する。本作のテーマは「自身の心を人に届ける」事であって、すなわち時代が移り変わったとしても変わらないであろう人間同士のコミュニケーションの在り様にスポットを当てている。親子でも恋人でも、それがどのような関係性であれ、「伝える」という行為そのものに「普遍性」があり、それを介したドラマに多くの人が共感したのではないだろうか。

 以上、本当に素晴らしい作品なので、是非劇場で。

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