見出し画像

ピボット2回の氷河期を経て誕生した緊急情報速報「Spectee」とAIアナウンサー「荒木ゆい」で急伸するスペクティの素顔

皆さんこんにちは。藤原です。今回のスタートアップ取材記事は、SNSのリアルタイム緊急情報速報サービス「Spectee」やAIアナウンサー「荒木ゆい」でお馴染みの株式会社スペクティを取り上げます。同社は2016年度TechCrunch Tokyoスタートアップバトルのファイナリストで、その後も度々TechCrunchに取り上げられているので、ご存じの方も多いかと思います。

同社のサービスは今でこそ順調ですが、震災後に代表の村上さんが立ち上げた頃から考えると実は知られざる紆余曲折の時代があります。また、CTOの藤田さんは僕のビジネススクール時代の同級生で一緒に経営を学んだ仲ですが、卒業後はご自身でも起業されたり、他のハードウェアスタートアップを手伝ったりして今に至ります。両名からはその辺りのキャリアの変遷もうかがうことができましたのでぜひご一読ください。Specteeはいいぞ。(オンライン取材日:2020年4月22日

この記事の登場人物

二人-2

(2019年12月撮影の提供写真)

株式会社スペクティ 代表取締役 村上建治郎氏(上記提供写真右側)
株式会社スペクティ 取締役CTO 藤田一誠氏(上記提供写真左側)
藤原弘之(質問内容を太字で記載)

震災を契機にサラリーマンを退職して起業

お二人とも今日はオンライン取材ですがよろしくお願いします。
村上・藤田「よろしくお願いします。」

CTOの藤田さんのFacebookポスト経由で、Specteeというサービスは薄々は存じ上げていて、決定的瞬間というか事件や災害とか、そういう情報をご提供されていますよね。
村上「そうです。メインソースはSNSで、TwitterとかInstagramとかFacebookを常時監視していて、緊急性の高い情報を提供しています。」

初めからこの事業をやりたいと思って起業されたんですか?
村上「いえ、会社を辞めるのが先でビジネスは後みたいな感じでしたね。」

それはなかなか思い切りましたね。
村上「実は、2011年に東日本大震災があったときに僕はずっと現地でボランティアをしていまして、毎月だいたい2週間くらいですかね、現地に泊まり込んでいました。会社のボランティア休暇や有給休暇も全部使い果たしちゃったので、8月頃さらに休業申請を出して、休職してボランティアを続けていたんですが、やっぱりそうこうしているウチに、会社を休めなくなってしまって(笑)」

いい加減出てこいと(笑)
村上「じゃあ、もう辞めるしかないかなぁって感じで、退職して会社を創りました。」

その時から今のビジネスだったんですか?
村上「違います。当時はローカルの情報が流通することがとても重要だと感じていたんですよ。全国レベルのメディアが報じることと、僕らが現地で見聞きしているものがどんどん離れていった時期だったんですね。」

確かにその指摘は当時Twitterなんかでもよくありましたね。『地元のスナックでは明るく日常を取り戻しつつあります』という報道は視聴率が取れないので報じられない、みたいな。
村上「そうですね。『今の東北の状況はこうです』って報じられるんですけど、それが全然違うという事が散見されるようになりました。地元の情報が正しく表に出てくるようなプラットフォームができると良いなと思って、最初に始めたのはその事業だったんです。会社を辞めたのは2011年の11月だったんですが、プロダクトの開発を始めたのは2012年の春くらいからでしたね。『コロタウン』というサービス名で、それが元々の始まりです。」

それはユーザーがみんなで投稿する?
村上「はい、当時アメリカではNextdoorという近隣SNSみたいなのが流行っていて、この切り口でやっていけば行けるだろうと思っていましたが、うまくいきませんでした。」

ピボットを決意

それはどうしてだったんですか?
村上「2つあって、ひとつはユーザーがなかなか集まらなかったのと、もうひとつはローカルというSNSの枠組みが非常に小さいので、多少人が集まったとしてもコミュニティとして成立しづらい。」

村上さん-2

あと日本って匿名文化だったりするので、あまり狭いところでやるとすぐ身バレしそうで嫌だという別のマインドも働きそうですね。
村上「そうなんですよね。イベントをやったり色々しましたけど、なかなかユーザーが集まらなくて。情報がないところにはユーザーも集まらないので悪循環というか。」

それでどういう打ち手を取られたんですか?
村上「ログインした瞬間に情報がわーっと表示される方が良いなと思いまして、Twitterから位置情報をキーに情報を取ってくるということをやりました。これをやっているうちに、Twitterから情報を引っ張ってきて表示することに特化する方が面白いんじゃないかと思い、そこで初めて『Spectee』という名前のアプリを2014年に開発しました。」

アプリから始まったんですね。
村上「はい、初めはC向けのアプリでした。オンラボ(Open Network Lab)で優勝したんですが、その頃から色んな所で取り上げられたりしました。ただし、その頃には、『C向けのSpecteeは絶対流行らないから、僕らはピボットしてこれをB向けに作り替えます』と言っていました。これはオンラボの中でも言ってたんですよ。」

せっかく話題になっていたのに?
村上「はい。オンラボで優勝して、TechCrunchとかIT Mediaとかで取り上げられてから数ヶ月後に『Specteeアプリ開発終了のお知らせ』みたいな感じです。」

それは痺れる意思決定ですね。主な理由は何だったんですか?
村上「これでマネタイズするのは非常に難しいと思っていました。さらに当時B向けというか報道系のところに、このニーズがあるなというは分かっていました。TV局をかなり回ってヒアリングしていましたので。」

いちばん食いつきが良かったところってあるんですか?
村上「実は、いちばん反応が良かったのがNHKさんで、実際にローンチ後にトライアルから使っていただいたのもNHKさんですね。」

なるほど。では2回ピボットした感じですね。
村上「はい。『コロタウン』から一般コンシューマー向けの『Specteeアプリ』にピボットして、そこからさらにB向けの『Specteeサービス』にピボットしていますので。今ではほとんどのTV局に使っていただけるようになりました。」

Twitterから情報を引っ張るときって、タグ検索だけじゃなくて書かれている文章の自然言語処理とかも使われて?
村上「自然言語処理もそうですし、あと画像解析、映像解析もですね。例えば火事の映像だったら、それが火事なのか単なる焚き火なのかを機械が判断するような。」

なるほど。Specteeを使わないでそういう情報を引っ張ってくるのって難しいですもんね。
村上「一般のユーザーによる操作だとキーワード検索くらいしかできないですから。TV局の人が人力でそれを探す手間を考えたら、僕らのサービスを使っていただいた方が迅速かつ正確ということになります。」

荒木ゆい誕生のきっかけ

その自然言語処理から発展してあのAIアナウンサーが誕生したんですか?
村上「というよりSpecteeから派生して誕生した感じです。Specteeのユーザーから言われていたのですが、『24時間ずっとその画面を見ているわけにはいかない』と。何か緊急の情報があったら、その時にお知らせして欲しいという要望が結構ありました。通知するには音を出すとかメールを送るとかが考えられますが、それでも見落としてしまうことが多い。なら特定の情報が来たときにアナウンサーが読み上げたら面白いのではと思い、Specteeの一機能として読み上げ機能を実装したのが、AIアナウンサー『荒木ゆい』の始まりだったんです。」

TechCrunch Japan 2017でしたか、そこでデモを聞いたのを覚えています。競合と比べてとても綺麗な発声だったのが印象的でした。
村上「はい、2017年です。GoogleとAmazonのシステムと『荒木ゆい』を流して違いを実感していただきました。」

これはどうやって稼ぐんですか?
村上「AIアナウンサーのプラットフォームがあるんです。それをSaaSで月額契約いただければ、そこに自由にテキストを打ち込んでいただいて、それを『荒木ゆい』が読み上げて、データとして取得して利用できるようになっています。」

荒木ゆい画面

(zoom越しに『荒木ゆい』の説明をしてくれるCTO藤田さん)

おお!すごい自然だ!やっぱりユーザーとしてはTV局が多いんですか?
村上「いえ、実はTV局はアナウンサーの聖域みたいなのがあって、なかなか浸透しません。地方局で一部使っていただいたりしていますが、そこは早朝や深夜にアナウンサーを待機させるのが難しいということで、ご利用いただいています。ただし、キー局はもう絶対無理ですね(笑)。今は百貨店などの商業施設の利用がとても多くて、色んな館内放送で利用されています。」
藤田「これまでは原稿を書く人と読み上げる人が別だったのが、原稿を書く人の1名だけで済みますので、人手不足の世の中ですから大変助かると好評いただいています。」

今後の資金調達計画

事業進捗としては理解しました。収益構造としてはもう盤石で。
村上「はい、事業としては黒字化の見通しが立っています。SpecteeはTV局にはほぼ入って取り切ってしまったので、今は地方自治体とか民間企業の危機管理ツールとして拡販しつつあります。この3月にSpectee Proというのをローンチしたんですが、これは完全に放送局以外をターゲットにした危機管理ツールとしてのSpecteeですね。」

では今後はもう資金調達をしなくても最後まで行けそうですか?
村上「これまでフジ・スタートアップ・ベンチャーズさんやYJキャピタルさんなどから大きい調達を3回していまして、累計で8億円くらい調達していますが、最後にもう一回くらい調達してアクセルを踏んでいきたいなと思っています。」

なかなか参画しないCTO

次にCTOの藤田さんのお話を聞きたいのですが、実は藤田さんって僕にとって謎キャラでして(笑)、自分で起業されたり色々されているので、その辺りをお聞きしたく。僕と一緒に経営を学んでいた頃はまだYahoo! Japanの人でしたよね?
藤田「はい、藤原さんと同じ2010期で、卒業直前の2012年の3月にYahoo!を辞めて起業しました。」

藤田さん

あー!覚えています!写真の共有アプリみたいなやつですよね。テストユーザーとして協力していた記憶があります。
藤田「その節はありがとうございます。そうです。その頃、Pinterestなんかが注目されていた頃でして、当時『Piqtaq(ピクタク)』と言うサービス名で、写真と位置情報とを絡めて色々とやっていたのですが、やはりC向けはユーザーが全然集まらなくて。」

Pinterest懐かしいですね!あの頃はそういうサービスがいっぱい出てきましたもんね。Pathとかもありましたよね。
藤田「はい。実は村上さんが『コロタウン』をやっていた時期とちょうと同じ頃で、そっちの方も手伝いながら、自分の会社もやっていたんです。」
村上「藤田さんにはずっと手伝ってもらいながら『いつウチに来るの?』って言いまくってたのに、なかなか来てくれなくて(笑)」

それだけ手伝ってたら、村上さんの方に行きそうなのに、また別の会社を手伝うんですよね?確かセットトップボックスのスタートアップでしたか。
藤田「ガラポンTVですね。Yahoo! Japan時代の同僚が立ち上げた会社です。実は村上さんの『コロタウン』とその『ガラポンTV』と自分の会社と3つ同時にやってたんですよ。」

3つ!実はパラレルだったんですね。
藤田「そうです。それらから、ひとつずつ足を洗っていった感じですね。毎年毎年、村上さんから『いつ来るんですか?』って言われ続けて(笑)」

観念して入社したのはいつなんですか?
藤田「2017年の春ですね。入社後はプロダクト開発の取締役CTOとして責任を負っています。」

ようやく築けたこの体制で、最後まで行けたら良いですね。今はN-3くらいでしょうか?
村上「どうなるか分かりませんが、そろそろ準備しないと、という話はしています。今期、弊社は10月末締なんですが、それまでの数値が来期からの事も含めて非常に大事になってくるので、社会情勢的に逆風が吹き荒れていますけど、幸い僕らはあまり影響を受けていないですし、むしろデマ検知などで貢献できることもあるので、引き続き事業に取り組んでいけたらと思っています。」

なるほど。今日はお二人ともありがとうございました。
村上・藤田「こちらこそ、ありがとうございました!」

合わせて読みたい関連記事(日経電子版)

速報サービスのスペクティ(東京・千代田)の村上建治郎代表取締役は「今も災害があるとデマが出てくる」と警鐘を鳴らす。同社はSNSの投稿をAIなどで分析し、道路の冠水や土砂崩れといった災害の発生をいち早く検知するサービスを展開している。利便性や信頼性を確保するためにも、不正確な情報の排除が欠かせない。
このため同社はAIに加え人間の目でも24時間チェックする仕組みを構築。都道府県・政令市を中心に評価を集め、35自治体から発注を受けた。19年10月には東京都の「先進的防災技術実用化支援事業」の支援対象に決定。都の助成を受けつつ、区市町村などピンポイントの分析ができるよう改良を重ねている。

株式会社Spectee(スペクティ)について

コロタウン

株式会社Spectee(スペクティ)は、SNSのリアルタイム緊急情報速報サービス「Spectee」をメイン事業にしつつ、AIアナウンサー「荒木ゆい」も手がける気鋭のスタートアップです。代表の村上さんが試行錯誤しながらたどり着いた同サービスは着々とユーザー数を伸ばし、メディアだけではなく、地方自治体や大企業への危機管理ツールとしても利用が広がっています。ご興味のある方は、ぜひ以下のページをチェックしてみてください。


いいなと思ったら応援しよう!

藤原弘之 / Hiroyuki Fujiwara
サポート代は大好きなスタートアップへの取材費に充てさせていただきます