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なぜ『食べチョク』はこの状況でも受注継続できたのか?利益度外視施策で生産者へ貢献もCEOが語る意外な反省点とは

皆さんこんにちは。藤原です。今回のスタートアップ取材記事は、『食べチョク』を運営する株式会社ビビッドガーデンを取り上げます。彼らは最近、シリーズBで6億円の資金調達を発表したのが記憶に新しいところ。

今回、ビビッドガーデン創業者で代表取締役の秋元里奈氏にインタビューすることができましたので、ぜひご一読ください。食べチョクは良いぞ。

この記事の登場人物

株式会社ビビッドガーデン 代表取締役 秋元里奈氏(写真左)
藤原弘之(写真右。質問内容を太字で記載)

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秋元さんは季節関係なく食べチョクTシャツで活動されています。僕もこれが欲しくなってしまい、以前BASEで販売されるやすぐに買いました。皆様もぜひ下記リンクからどうぞ。

注文数急増でも止めなかった『食べチョク』受注

先日もSTARTUP TVで取材させていただいて、今回はnote取材で別の切り口になりますが、よろしくお願いします。
こちらこそよろしくお願いします!

STARTUP TVでの取材の際は、昨今の社会情勢によって流通額が急増して、確か3ヶ月で35倍にまでなっているというお話しでしたね。
新たに売りたい方も急増しているので、その販路拡大のためにTV CMを開始したというニュースでした。

その際に少しうかがったのが、利益度外視施策、具体的には『食べチョク』が送料を負担して生産者さんに貢献されたとか。
飲食店や給食、イベントなどへ出荷予定だった生産者さんが軒並み厳しくなってしまったので、「こんな時こそ、消費者と直接つながる『食べチョク』が生産者さんたちをサポートできなくてどうする」と思っていました。送料負担もそうですが、出荷できる野菜や果物がある間は、注文が急増しても絶対に受注を止めないようにしようと頑張っていましたね。

めちゃくちゃ大変じゃなかったですか?
TVでの露出と緊急事態宣言が重なってしまって、注文数と同様に問合せ数も激増しました。当時は社員数8名くらいでやっていたので、人員の手配が間に合わず、私も朝4時までCS対応に入っていましたし、CxO候補として採用した人も入社前にアルバイトで入ってもらったりしました。それでも受注は絶対止めないようにしようと、社員みんな総動員でやってましたね。

商品流通の面でも急増する注文に対応できた理由に興味があります。
結果として2月から5月の3ヶ月間で流通額が35倍に増えたのですが、受注は止めませんでした。会社によっては新規の受注を止めたところもあった中で、私たちにそれができたのは、やはり生産者さんからの直接発送が根本的な仕組みだったからです。自社倉庫や自社物流を持ってしまうと、そう簡単に1つ2つと倉庫を増やせる訳ではありませんから、急増する注文にはどうしても対応できません。

なるほど。その辺り、物流への取り組みについては後ほど詳しくお聞きしたいと思います。個別の生産者さんの作業キャパは大丈夫でしたか?
一部の生産者さんで注文が来すぎて発送遅延を起こしてしまったところは正直ありました。そこは反省点としてITシステムの方で対応できるように新しい機能を実装したところです。

具体的にはどういう機能なんですか?
お届け日あたりの在庫数をしっかり設定できるようにしたんです。例えば、収穫見込から今月は100箱出せると思って在庫を100と設定したとしますよね。そうすると現場オペレーションでは1日に出せる量が最大10箱だとしても、同じお届け日に対して100箱まで受注できていたんです。これだと11箱以上注文が来るとパンクしてしまいます。かと言って、今月の在庫を10箱にしてしまうと、それはそれでお届け日が違えばチャンスロスになるので、これもしたくないと。

なるほど。月の注文としては100箱受けたいですけど、同じお届け日の注文としては11箱以上受けたくないということがシステム上の設定でできるようになったということですね。
はい。1日ごとの注文数に制限をかける形であればすぐ開発もできたのですが、それだとチャンスロスが生じてしまうことは変わらないので、少し開発に時間はかかりますが、お届け日ごとに在庫設定できる仕様に変更しました。結果的に1ヶ月もかからないうちに開発できたと思います。そこはエンジニアがスピード感を持って対応しています。

すごいですね。ちなにみECカートってどこのを使ってるんですか?
決済だけは別ですけど、カートの部分は全部フルスクラッチで作っています。マーケットプレイスにしたかったというのと、さっきお話ししたような、生産者特有の事情というのが絶対にあると創業時から思っていました。

資金調達活動での反省点

ファイナンスの方はどうですか?結構順調だったイメージなんですが。
藤原さんと初めてお話ししたのは確か前々回のシリーズA(※)のときだったと思いますが、あのときは今思えば結構反省点がありますね。かなり時間もかかって、9ヶ月くらい活動していましたし。

(※) 2019年秋のシリーズAによる2億円の資金調達。下記リンク参照

確か、2018年末の紅白ピッチ大会でMUSCAの流郷さんと一緒に出られていたのを拝見して、会場で声をかけさせてもらったのが最初でした。
シリーズAのときは、資金調達のセオリー的なものをちゃんと理解していなかったなと。社内体制的にも100%資金調達に充てられる状況でもなく、自分の事業も見ながらだったので、活動の密度も、特に1月から4月までは、結構薄かったと思います。片手間でやってしまっていたので。

そうだったんですね。具体的にはどういうところがご自身で課題だったと思われますか?
投資家の探し方も、そもそもリードを見つけないといけないという事が分かっていませんでした。リードを取れるところと取れないところってあるじゃないですか。それをよく知らなくて、「リードが見つかったら教えてください」と言われることも多くて。

確かにCVCは「リードは取りません」って明言しているところはありますよね。本体事業の都合で投資方針や人材などが変わってしまうので、リードを取ってしまうと出資先にご迷惑をかけてしまうから。
その辺も知らずに活動をしてしまっていましたね。あと、エンジェルラウンドで出資してくださっていた方々に先に相談しなかったことも反省としてあります。VCの方から「既存株主は何て言ってるの?」て聞かれることも多々あって、そう言えばまだフォロー出資の相談をしていなかったなとそこで初めて気付いたり。

ご本人的には「随分と遠回りしちゃったな」という印象ですかね。
そうですね。ただ唯一の救いは、かなり早めに動いていたので、活動が長引いたからすぐキャッシュが、みたいなことにはなっていないので、その点は良かったかなと思います。

ご自身ではどのあたりが投資家から評価されたと思われますか?
やはり『食べチョク』が単なるECじゃないよね、ということをしっかり理解していただけたのが一つ。あと、そもそもこのビジネスは将来的に農作物の流通の仕組み、もっと言うと農業のあり方そのものをガラっと変えてしまう可能性があって、それができるチームだよねと。そういう点がポイントだったのではないかと思います。

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農業系スタートアップを起業した理由

農業系スタートアップという意味では、坂ノ途中さんがやられているようなビジネスもあれば、IoTでセンシングに振り切ったり、AIで潅水や施肥をやったりする企業もありますが、秋元さんがこの『食べチョク』をやろうと思われた理由というのは?
2016年頃ですが、メルカリで野菜が売られていることに気付いて、調べたら意外とかなり買われていたんです。当時はまだメルカリってフリマだから服とかそういうイメージだったんですが、徐々にC to C市場が拡大しているというのを実感しました。ただメルカリって高単価なモノというよりは安く買いたいというニーズの方が多いと思いますので、メルカリの中でやり辛いこととして高付加価値商材を直接C to Cで消費者に届けることだなと。これができれば生産者さんも嬉しいし消費者も嬉しいですからね。

なるほど。スタートはそこでだったんですね。
とは言え、やっぱり当時まだ成功事例が少なくて、似たようなビジネスが生まれては消えていた時期なので、「なんでダメだったんだろう?」と分析しながら、細かく修正してきて今まで来れたのかなと思います。それこそVCさん達と一緒にディスカッションしながら、どうやったら生産者さんの利益を保ったたま、『食べチョク』としてスケールしていけるのか、ということを常に意識しています。

当初、所謂オーガニックに特化したのはどういう理由だったんですか?
良いものが集まってくるようにしなければならないとは思っていたんですが、まだ誰も知らない我々みたいなスタートアップが、いきなり高付加価値のものをやりますと言っても良く分からないんですね。あるいは「生産者こだわりの・・・」とか言っても、こだわっているのは皆さんこだわっている訳で、どうしても基準が曖昧になります。オーガニックであれば、唯一それを呼称するのに明確な基準があり誰の目にも明らかで分かりやすい。そうすると徐々にブランドもできてきますから、そうなってから審査体制を拡充してもっと対象を広げられるようにしようと。そこは順番を間違わないようにしていますね。

このビジネスをやるにあたって参考にした会社とか経営者の方とかはいらっしゃいますか?
坂ノ途中の小野さん(*)にはめちゃくちゃお世話になりました。『食べチョク』の構想を練る前くらいの段階で、いちばん最初にご相談にうかがったのが小野さんです。

(*) 株式会社坂ノ途中の代表取締役である小野邦彦さん。坂ノ途中は有機栽培にチャレンジする新規就農者を強力にサポートしている京都にある農業系スタートアップ。代表の小野さんには僕もお目にかかったことがありますが、非常にロジカルでありながら情熱的で、また人当たりがとても柔らかい紳士です。奇しくも1年前、『食べチョク』と同額の6億円の資金調達を発表されています。

その時はどんなアドバイスを?結構大変だよとか言われませんでした?
「田舎のお爺ちゃんと電話とかできなさそうだよね」とか(笑)

それはすごい指摘(笑)秋元さんの以前の写真を拝見したことがありますが、確かにDeNA時代は結構イケイケな感じだった印象はあります。
普通に『女子』だったので(笑)。あとは「ターゲットを絞った方が良いんじゃない?どういう生産者さんがこれを使うの?」というようなアドバイスは確かにそうだなと。ありがたかったのはその後、坂ノ途中さんのオフィスに一日居させてくれて、さらに「打合せとか全部出て良いよ。勉強していきなよ。」と言ってくれたんです。小野さんには今でも感謝しています。

物流課題に対する『食べチョク』としての解

冒頭でも少し話が出ましたが、物流への課題ってどう対応されようと思われていますか。と言うのも、このビジネスってやはり最後の物流の部分がキモになるというか、ボトルネックになりそうな気もしていて、各社さん、例えばECモールでもプラットフォーマーが物流を担って出店者をサポートしているケースがあります。食べチョクとして、その辺りの展望をお聞かせいただけたらと。
前提として自前で物流を持つというのは考えていません。やっぱり物流というのは難度の高いビジネスですし、別の会社をひとつ立ち上げるような事になってしまいますから。

とは言え、農作物をどさっと持って行ってくれる既存流通に加えて、個別配送が増える分、出品者の作業量としては純増になってしまいますから、その辺りの対応はどうなんでしょう?
在庫を持たずに物流を効率化する方法はいろいろあると思っています。食べチョクは中間業者を入れないというモットーがあるんでけど、最近始めた『ご近所出品』では、ご近所で野菜を持ち寄ってひとつのパッケージにできるので、たくさんの品目がそろえられますし、ITに疎いお爺ちゃんの野菜も若い生産者の方が入れてあげることができます。特徴的なのは、この『ご近所の野菜を集約する人』というのも、現役生産者で『食べチョク』の出品者でないといけないんです。

そうなんですね。商品をまとめる専業の人がいたほうが効率的に広げられそうですけど、そこにはこだわりが?
そこを崩してしまうと、私たちのポリシーに反してしまいます。別に中間業者が悪いというわけではなく、中には生産者さんを支援したいという純粋な想いでやられているところもたくさんあるのですが、1つ認めてしまうと際限がなくなってしまうので、そこは貫いています。間違えると『誰々を介さないと売れない』というような既得権が生まれてしまうんですよ。だから必ず、まとめられる側の人も『食べチョク』出品者で、まとめる側の人も『食べチョク』出品者である必要があります。もし不当な圧力がかかるようであれば、アラートをあげる機能があるので、それはすぐ排除できるように対応しています。

かなり気をつけていらっしゃるんですね。
そもそも不当な中間搾取を許さないというのが『食べチョク』創業時からのポリシーなので、そこは創業以来ずっと気をつけているところです。

なるほど。ご近所出品以外で物流への取り組みは?
遂にヤマト連携を始めます。『食べチョク』の管理画面からヤマトさんを呼ぶことができるイメージです。伝票は自分で印刷することもできますし、ヤマトさんに持ってきてもらうこともできます。生産者さんの希望によってどちらか選べるという点も好評です。送料も通常の料金よりかなり安くすることができました。発送したかどうかも自動連携できます。これまでは生産者さんが再度システムに伝票番号を入力してくれないと、運営側で送ったかどうか分からない状態になることがあったんですが、それも自動で改善されます。

良いですね。これまでなかったのが不思議なくらい。
一人あたりの注文数が多くなってきた今だからこそですね。生産者さんも1日10枚くらいだったら手書きで伝票書けますけど、100枚となると手書きはもう無理ですからね。あとは生産者さんのためにも条件を良くしたかったのですが、それにはある程度注文数が必要になりますので、今ようやくできるようになったという感じです。

今日は濃いお話しを聞かせていただいてありがとうございました。今後の『食べチョク』の益々の発展を期待しています。頑張ってください。
こちらこそ、ありがとうございました!

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株式会社ビビッドガーデンについて

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ビビッドガーデンは、『生産者のこだわりが正当に評価され、作り手が正しく儲かる世界』を目指して、代表の秋元里奈氏が2016年に創業した気鋭のスタートアップです。オンラインマルシェ『食べチョク』を運営し、全国の農業生産者さんたちを強力にサポートしています。

6億円の資金調達が無事完了し、現在は採用にも力を入れられているようですので、ご興味がある方はぜひアクセスしてみてください。


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