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ガチ恋おじさんが『推し、燃ゆ』を読んだ感想

 アイドルヲタクとして、いま話題の芥川賞受賞作、『推し、燃ゆ』を読むべきかどうか迷いました。著者の宇佐見りんさんのインタビューを読むかぎり、僕のようなガチ恋おじさんではなく「正しいヲタク」が主人公であるようだし、そもそも「推し」という言葉があまり好きではないからです。なぜあまり好きではないのか。それは上手く言えないんだけど、あえて言うなら、「推し」という言葉で、何か大事なものを覆い隠しているように感じるからです。

 上記のインタビューによると、「全身全霊で打ち込めることが、あたしにもあるという事実を推しが教えてくれた」という文章が小説の中にあるらしく(あとで確認したところ64ページにありました)、宇佐見さんは「100パーセントの自分で打ち込めることがある。それはやっぱり幸せなことだと思います」と語っていました。

 「僕の場合、梨華ちゃんに全身全霊で恋をすることで精神が崩壊しそうになったので、アイドルを好きになることは必ずしも幸せなことではないと考えているんだよな。宇佐見さんとは考え方が合わないから『推し、燃ゆ』を読んでもストレスが溜まることになりそうだなあ」と思いました。でも実際に読んでみないと何とも言えないし、アイドルヲタクとして非常に興味がそそられたので、1月24日に、Amazonで品切れ中の『推し、燃ゆ』を注文しました。

 Amazonの注文履歴を見ると、到着日は2月3日~4日と書いてありました。当初は到着するのを待つつもりだったけど、ツイッター上の感想を読んでいたら居ても立っても居られなくなり、本屋さんを探し回って、1月26日の夕方に『推し、燃ゆ』を発見し、すぐに購入して、Amazonに対する注文はキャンセルしました。

 帰宅してしばらく休んでから、僕は『推し、燃ゆ』を開き、未だかつてないほど真剣に読み始めました。大事そうなところには赤ペンで線を引き、何度も読み返しました。3分の1くらい読んで、「やはり主人公の女の子は正しいヲタクだなあ。推しに恋愛感情を抱くヲタク(いわゆるガチ恋ヲタク)に対する視線がやや冷たい」と感じ、正しいヲタクでいられる彼女のことを羨ましく思いました。

 それから晩ごはんを食べて、続きを読み始めました。心理描写や情景描写が巧みで面白く、先の展開がひじょうに気になるので、本を読むのが遅い僕にしては珍しく、買ったその日のうちに読み終えてしまいました。主人公の女の子はヲタクとして正しすぎるところが鼻に付くけど、まだ十代だし精神的な病を抱えているようなので、何にも言えなくなってしまいました。宇佐見りんさんの小説家としての才能がものすごいことは、何となく分かりました。

 本書の12ページに「あたしは彼と一体化しようとしている自分に気づいた」とあります。主人公の女の子と、ガチ恋おじさんである僕との違いは、「推しと同化したいかどうか」なのかなと思いました。僕は梨華ちゃんと肉体的にも精神的にも結合したいとは思っているけど、同化したいと思ったことは一度もありません。主人公の女の子は、精神的な病により社会で上手く生きていけず、推しとの同化を身の内に確かに感じることによって、何とか生きています。

 一方僕は、梨華ちゃんと肉体的にも精神的にも繋がりたいと思うけれども、その望みが叶うことはまず100%ありません。その上ガチ恋をこじらせすぎたことによって鬱病になってしまったし、未だに子ども部屋おじさんです。主人公の女の子もすごくつらそうだけど、まだ十代だし、推しが燃えても大丈夫だと思います。「推しが結婚してもまだガチ恋している40歳の子ども部屋おじさんである僕のほうが、はるかに救いがないのでは?」と思ってしまいました。

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