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常州居酒屋伝説。 風天(7) おでんの巻

 日本人の私がそれまでの仕事のつながりから、中国の常州という街に
小さな会社と1軒の居酒屋を作って暮らしていたという昔話。
2010年〜2023年、風変わりな経歴など、プロフィール記事(長篇)をご覧ください。

Menu  of  居酒屋風天   

伝説(1)から(3)にかけて、2010年開店準備、
伝説(4)にて、2014年改装工事を記事にしました。
伝説(5)、2022年時のメニューをそのまま公開。

これまでの記事  


 この記事を書くのは、2024年8月、まだ暑い日が続く最中。
 私の仕事アーカイブ、今回はおでん。写真多めでどうぞ。



 おでん缶にあれこれ具材を入れて、冬場におでんをやっていたのはコロナ前まで。コロナ以降のカウンターだけの営業、一人仕事になってからはメニューの構成が変わり、年中おでんを出すことにした。
具材は5点に絞り、盛り合わせのみ。自由に頼んでるようで、こちら側が材料をうまく循環できるようなスタイルになっていく。
もちろん、それでも手は抜かない。

 少ない、お客様に狭い選択肢でもハズレなし、こちらがお勧めする順序と献立のパターンで満足感を上げて行きたいと考えるわけで。

まず、少量の刺身なんか突いてもらいながら、こちらは焼き魚の段取りをしておき、盛り合わせのおでんをその都度、オーダー分だけ温める。二品目あたりで温まるおでんが出てくると、お酒を飲まない人も少し落ち着きが出る、
汁物で腹が膨れるというよりは、和食の出汁のインパクトを、口が濁る前に味わってもらうことで満足度と期待感を作り出す。
 お客さんが出汁に唸る表情、声に出してもらわなくても、顔色でそれとわかる瞬間に自分にも落ち着きが広がり、その日の仕事の成功を確信する。


私のおでん理論 


私のおでん盛りは、大きなおでん缶に入った複合的な旨味の集合体ではなくなったが、わずか5種の盛り合わせを美味しく出すコツがあった。

 大根は絶対に外せないが、他の具材選びは、幾つか法則がある。
もちろん一つは普通に考えつく、練り物、卵、そして、肉や魚、材料の種類系統で一つづつバランスよく食べてもらう手法。
 私が更に実践していたのは、5種のうち必ず1種類は、味のしみていない食材を入れること(他の既におでん出しが沁みた状態の食材とは別に、まだ加熱していない、まだ出汁につけていないタンパク系の素材)。温めるときにサッとその場で火が入る材料を使う。
 よく使ったのは、刺身を作るときによけておくマグロの筋身とネギを串にしたもの、噛みきれない筋の入ったマグロの端が良い。生では厄介な噛みごたえが、温める鍋に入れてそっと2分弱、やさしく火を入れることでそれはホロっと崩れる美味しい食材に化ける。そして、その2分でスッキリした鰹出汁を瞬間的に重厚にする。 鰹節以外の引き立ての出汁がおでんに加わる瞬間である。鶏や豚を使ってもいい、生肉を使ってやることが大事。

 おでん。長時間おでん缶で温められている食材たちは自身の旨みをゆっくり解放してそのおでん出汁という大海原に貢献しながら、複合的な旨みを持つ出汁をしっかりと受け取ったもの。

既におでん出汁に浸り冷蔵庫に待機しているそれらを、その都度温めるだけの
”おでん”なら、”それは暖かいお浸し”という表現が正しいかもしれない。
おでんの出汁は、少し味的に濁る必要がある。
私のおでん盛り合わせは、煮物の焚き合わせのように作る。それぞれが鰹昆布の出汁に自身単体の味を吸っている状態で、温め鍋で集合。そして、
  1、メインはその日ごとにとる出汁と調味料で味つけた新しいおでん出汁
  2、食材と一緒になっていたお浸し汁のようなおでん出汁
  3、温め時に追加する材料からの抽出したての出汁。

を、その1人前ごとに瞬間ブレンドして器に注ぎ、提供する。それが、私の”風天おでん盛り”。
ただ温めてるだけって、感じでおでんを軽んじてそうな客が、驚くのが嬉しかったな。

 マグロに関して言えば、小さな店だし無駄なく使える柵状の超低温マグロなどを使っていたのだが、このおでんにしてからはコロナ禍のような客入りでも、
2kgくらいの塊や生マグロを使い切れるようになって良いことづくし。そこから副産物が生じることが問題にならなくなった。
トロ部より、筋部に期待を持ったりして。
 5品で40元のおでん盛り、良いマグロの筋が入って、5品で68元の立派な料理に変身。風天の ” 必点 bi dian ビ ディェン"=マスト オーダーの一つとなる。


おでんディスコグラフィー


 まとめて全ての材料を作ることはなかったが、時折あれこれ作るうちに
ちょっとしたネタの数になっている。玉子、タコ、キノコの肉巻き、筍、松茸、他まだまだあったおでん種。写真に残していたものの中から。。。

大根、竹輪、はんぺん、餃子(自家製)
じゃがいも、牛すじ、白滝、牛蒡点(既製品)
魚河岸揚げ(自家製)、五目巾着(自家製)、ロールキャベツ(自家製),
葱鮪の串
さつま揚げ(既製品)、ソーセージ(既製品)、ロールキャベツ(自家製)、餅巾着(自家製)
豚しゃぶ、こんにゃく、炙りタチ、カキ
お酒は福井県の”一本義” 純米吟醸


たかがおでん、されどおでん。
たかが居酒屋、されど居酒屋。。。


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