見出し画像

【音楽祭】雨の唄 ▷ 屋根裏

筋金入りの天然パーマメントが重力を無視して暴れ狂うせいで雨を嫌っていた、そういうものだと思い込んでいた僕にはお気に入りの傘もレインシューズもないので、いつものことながら音楽を連れて歩いて行く。
ああでも、水滴がよく見えるビニール傘は割と好きかな。大きめの丈夫なやつで、柄は白いものが良い。

 

▒ 雨の日に聴きたい曲
────────────

 

ずっとおかしいんだ
生き方一つ教えてほしいだけ
払えるものなんて僕にはもうないけど
何も答えられないなら
言葉一つでもいいよ
わからないよ
本当にわかんないんだよ
 
( 雨とカプチーノ / ヨルシカ )

 

ずっと、「普通」になりたかった。
普通の家庭で育って普通の人と認定されるだけの能力や技術を持った普通の人になりたかった。
人並みに出来ない自分が惨めで、みんなが大丈夫なことが僕にとっては全然大丈夫じゃなくて、足並みが揃わなくて押された背中に勢い余って転んだ。普通の人はこうはならないのに、どうして僕はうまくいかない?そんなことを考える日々だった。
教科書に載っていることを覚えて先生の言いつけを守っていれば普通になれるのか。点数が努力の結果だとしたら、同じ時間椅子と机に拘束されて紙と向き合っていたのに覚えられなかった僕の過程はあくまで藻掻いていた事実、それ以外の意味を成さない。
そうなると、今度は自分の感情の落とし所が解らなくなる。確かに覚えられなかったし結果を出せなかったけど、理解しようと基礎門から振り返り机に向かい合った、それに尽くした時間や、ペンを持つだけでも痛くなった右手を、どうやって労ったらいい。結果を出せなかったためだけに、普通にさえ届かなかった僕には、痛みを訴えることさえも認められない空間に居続けるなんて、拷問のような。

 

まどかな月の夜に奏でし言葉と
甲斐無い心臓の鼓動で踊ろう
人らしく生きて 然うしてくたばる
それで満たされるの?
 
( 花に雨を、君に歌を / THE BINARY )

 

満足に眠ることも適わなくて、あの手この手を尽くしても夜明けが訪れる。何度その日の出を恨み睨んでいたかわからない。自分の意思で眠ることが叶わないならずっと起き続けて寝落ちてくれればいい、そんな投げやりな願いも虚しく太陽は一日の中で一番高い位置から僕を見下ろしていて、どうにかなってしまいそうだった。どうにかなっていたんだな。
あの頃は雨の日に癖っ毛が際立つことなんて気に留めたことがないのは、雨が降れば傘も差さずに浴びるだけ浴びて、ただただ祈っていた、自分という存在ごとこのまま溶けてなくなってしまえばいいのにと。
免疫力が低くて体調を崩しがちなくせに、こういう時に限っては微熱すら出やしない自分に呆れていた。たすけてって、どのタイミングで言うのが正解なんだろうか。怒られるだけ怒られて、髪を乾かしたはずなのに枕は濡れていた。

 

僕達は存在証明に毎日一生懸命で
こんなに素晴らしい世界で
まだ生きる意味を探してる
そりゃそうだろだって人間は
希望無しでは生きられないからさ
みんな心のどっかで来世を信じてる。
 
( 雨き声残響 / Orangestar )

 

ネットの世界に逃げ込んで、ひたすら、苦しい辛い死にたい助けてと、顔も知らない誰かに垂れ流していた。時々差し伸べてくれる手は僕と同じ冷たさをしていて、傷に傷を重ねるだけだった。
ネガティブな内容にいいねやスキがつくように、ただ沈黙で見守る優しさもあると思う。当時の僕にはそれが理解出来なくて受け入れることも出来なくて、優しさを全て払い除けたら簡単に孤立した。
薬に頼る生活は快復の兆しはなく、寧ろ受診する度に増えたり強くなったりする薬。一度に飲む量を見て虚しくなって、副作用にやられて日常生活もままならなくなった。自分の内側を言葉にすることが、具体的に表現することが苦手だった僕はカウンセリングに充てて貰える時間もなく処方に移る。医師も症状を改善させるようなモノを与えることしか出来ない。新しい薬でまた副作用に苦しみ眠れない、寝付けても2、3時間で目を覚ます、そんな負の無限ループだった。
それでも誰かに助けて欲しかった。発信することを続けた。どんなに目を当てられないような闇だとしても僕はここに居るんだって心はいつも叫んでいた。
でも次第に気付くことになる。明けない夜も止まない夜もない、その真意に。

 

止まない憂いの最中
二つ感情は対を成して願いを放つ
君は覚えてるかな
あの日涙の意味を
 
( 時ノ雨、最終戦争 / Orangestar )

 

雨が嫌いだった。
高校受験に落ちた時も母が亡くなった時も雨だった。僕が祈っていた、僕を消してくれというそれには応えないくせに、悲しい報せを運んでくるのはいつも雨だったから、雨が嫌いな気がしていた。そう思い込んでいた。

色んな発信源を経て、このnoteに辿り着いたのが5月の終わり頃。初投稿になる自己紹介記事は6月頭。それ以降、「雨の日をたのしく」というハッシュタグを見付けて、「雨」を題材にした140字SSの投稿をすること約10本。
きちんと本腰入れて活動されている文字書きさんにとってはたったの10本だとしても、僕にとっては、在り来りなシチュエーションではあるけれど「雨」というひつとのテーマでそれだけ書けた、形にすることが出来たという事実を残したこと。そして、実は雨って思っていたほど嫌いじゃないな、ということに気付けた貴重な瞬間。

 

 

起こり得る全ての事象には意味が有る、とは言っても、その全てをタイミングの善し悪しで分別するには心が追い付かない時もある。

僕は雨が嫌いだった。
でも、自分のその時の状態と捉え方、タイミング次第では全て変わり得るという可能性に気付けたのも、これのお陰。

この記事の冒頭を書きながら洗濯を回していて、干したら出掛けるつもりでいたんだけど、心地良い雨音に身も心も委ねることにした。偶然にも平日が休日になったこの日をぐっすり寝尽くして終えることになったから、明日の僕へ良いバトンを渡したい。

 

 

雨は 止むことを知らずに
今日も降り続くけれど
そっと 差し出した傘の中で
温もりに 寄り添いながら
 
( レイン / シド )

 

帰路に金木犀があることに気が付いた。雨降りの中マスクを外すと、香りがしない。
金木犀の花言葉は、「謙虚」「謙遜」「陶酔」「初恋」。中でも「謙虚」は、その甘く素晴らしい香りに反して、控えめな小さい花をつけることにちなんでいると言われていて、「気高い人」の花言葉は、雨が降るとその芳香を惜しむことなく、潔く花を散らせることに由来するらしい。

 

僕にお気に入りの傘やレインシューズはないし、筋金入りの天然パーマメントが暴れ狂ってしまうけど、雨の日ってそんなに、悪くない。

 

 

前向きなつぶやきに対して、過去を振り返りながら暗めにしてみたけど、たまにはこうやって思い返すのも良いな。気付けることと、思い出せることがある。

もし共感出来る部分があったり、いいなと思ったらスキ・サポート頂けるのとても嬉しいです。どうぞよろしくお願い致します。

【待宵、屋根裏部屋で。】オーナーの由眞がお送りしました。

 

この記事が参加している募集

雨の日をたのしく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?