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言葉の世界でモノの性質を変える

ショートショートnote杯のオンライン表彰式&ゲーム会に参加しました。

審査員の方々の審査時のお話や、受賞された方々の企画への参加経緯やご感想等。顔を合わせていろいろ聞けたのがとても楽しかった。
表彰式の後の、お題の言葉を組み合わせて5分間でショートショートを作るゲームでは、皆さんすごかった。ほんとに短時間で小説の形になっていて、面白いお話をZoomのチャットに投稿されるのだ。
自分はおろおろしてそれらしい形にはならず。形にならなかったなりにも、刺激的で素敵な体験だった。
ゲーム中思いついたのは、歩く道によって時間の流れが、体感ではなく実際に速くなったり遅くなったりするという内容。川の流れの変化みたいに、道の角を曲がると、異なるスピードで時間が流れる空間に入り込んでしまう、的な。どう書けば伝わるのか、ストーリーになるかは考えてないけど。

やってみて改めて感じたのは、自分の発想の癖みたいなもの。
話の中でモノの性質や扱い方を変える、というのをやりたがる。概念的な時間を実体があるように扱ったり、天体である星を農作物っぽくしたり。触れないものを、触れる。もともと触れるものは、質感やモノの属性を変える。
あと、人間関係や主人公の心理的変化よりも、風景やモノを書くのが好きでそれを話のメインにしようとする。

過去にショートショート投稿サイトへ載せたものを振り返ってみると、そんな傾向の話が多かった。
モノの性質や扱い方を変えたら、モノが纏う印象はどう変わるんだろう、どんな光景になるんだろう。そうやって実験するのが面白いんだなあ、と自分の好みが分かった気がした。

『夜を刈り取る』
夜が咲きはじめていた。すっと長い茎は、まだ柔らかい。花が開ききる前に、大きなハサミで素早く切り取る。日が沈む頃、一面すべて刈り終えた。

夜の群生する場所。
花は盛りをむかえると、群青の粒子が空気中に滲みだす。
一定の濃度を超えると日が昇っても消えず、町は夜に沈んだままになる。そうなると手が負えない。
だから花はすぐに刈り取る。そうすれば粒子が放出されない。
管轄エリアの夜を刈り、空気中の粒子の増加を抑えるのが今日の仕事だ。

花は研究所に送られるが、一束だけ持ち帰る。瓶に水をくみ、片手をふさいでいた花束を無造作に挿した。作業用のつなぎをかごに投げ入れ、居間に戻る。

八重咲の夜は、もう空気中に滲まないが、
透明な夜気が溢れて、瓶のまわりをしんとさせた。水気を含んだ空気が香る。密度の高い群青色が、ひたひたとこだましてきそうだった。
明日は雷を刈る。ハサミの刃を布でゆっくりと拭った。
『庭師』
今日は曇りだった。真珠色の雲は、内側に光を隠していても眩しい。雲にろ過された純度の高い日光が、町を洗う。
繊維状の日光を指に取り、瓶に入れた。庭師としての素材集めだ。

庭は、自然そのものではない。いかにも自然に見えるように草木を置き、人が望む風景を限られた空間に生みだす。
庭づくりの際、風景の像は人の心の中から取りだす。光や色は外の世界から。心の中の風景は、概しておぼろげだ。だから現実で集めた明暗を、色を使う。そして奥行きのある、鮮明な風景に仕上げる。

家に着き、瓶をうつしかえる。
夕陽の橙を取りだす。霧の色で包んで柔らかくし、瓶に入れた。鈍く光る星の銀には、ラムネの透明を。
色を調合しながら、竜宮城で四季の庭を作った時のことを思い出す。あれから、作った庭の草木が枯れない。自分と自分の作ったものは、時間の流れから外れているらしい。
あの時亀に乗ってきた客人は、どうしているだろうか。
『理学部実験室にて』
なにやってるの。
実験。
なんの。
雨と夜を、融合させる実験。来週の課題で結果を提出する。
だからか。

質量をもって、身体を湿らせてくる闇を手ではらった。

手間がかかりそう。
そうでもない。二つはもともと、親和性があるから。そっちの方が難しいんじゃない。音楽から風景を抽出する実験。
うん、やめた。
やめたんだ。
音に含まれている風景は、切り離せるものじゃなかった。無理に分離させたら、風景が消えた。
というか自然から採った音を、加工して一つの音源に固定した時点で、本来の風景はなかった。音楽の、人を別の世界に一瞬で連れていくような、即効性の高い、鮮烈なイメージ。あれでもう、残影なんだよな。
へー。
今回は月の音が聴ける地域に行く。そこで、山に反響し分裂する音を採取する。
がんばって。
ここの試験管、借りてく。

ドアを閉じかけて言う。

夕陽の結晶、落とし物にあるってよ。
了解。後で行く。
『落とし物一覧』
3月17日
内容:プラグから芽が生えたイヤフォン
場所:A棟1階、階段裏
保管中

3月19日
内容:夕陽の結晶、3片
場所:理学部実験室前、廊下
保管中

3月19日
内容:月の抜け殻
場所:図書室、窓際
返却済(生物学部2年 川上晃)

3月20日
内容:レンズを金魚が行き来するメガネ、フチなし
場所:B棟201教室、机
保管中

3月21日
内容:左回りの腕時計、黒い革ベルト
場所:駐輪場
返却済(歴史学部3年 水野仁)

3月23日
内容:「台風用」と記載された目薬
場所:C棟屋上
保管中

3月24日
内容:波音がするノート、B5サイズ紺色
場所:中庭、ベンチ
保管中

※保管期間は3ヶ月。ただし財布、携帯、記憶等の貴重品は2週間後、警察署に届け出る。

ちなみにゲームのお題で利用したのはこちらです。
あ、こんな話ができる、と。
ランダムな言葉の組み合わせで頭をひねると、思わぬアイディアができあがる。それを通してモノの魅力や自分の新しい側面も発見できた。そんな気分でした。
企画・運営の皆様、ありがとうございました。

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