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マーケティング戦略を作るときに考えていること

フルスタックマーケティング株式会社の代表取締役CEO・清水優志(@fsm_shimizu)です。
企業のマーケティング活動を支援しています。

最近、ある企業さんに相談をいただき、じっくりマーケティング戦略を練るような機会がありました。
この「マーケティング戦略」という言葉は非常にくせもので、人によって使い方がまったく異なります。しかし、定義や使い方にこれといった正解があるわけでもありません。

今回は、マーケティング戦略を作ったときに僕が考えたことを紐解きながら、マーケターの頭の中を解説したいと思います。

「マーケティング戦略」の役割とは?

「戦略」という言葉はなんだか華やかで格好良く、戦略さえ立てればあたかもすべてがうまくいくような気がしますが、実際はそんなことはありません。
戦略というのはあくまでも方針であって、成果を生み出すのはいつだって行動(アクション)だからです。戦略があっても、アクションが伴わなければ成果は出ません。

そんなわけで、優れた戦略を作ることはマーケティングにおける「スタート」であり、「ゴール」ではありません

しかし、だからといって戦略をおざなりにしてよいわけでもありません。
優れた戦略が描けないばかりに、チームの意識統一ができず、意思決定のコストが高くなり、施策の打率も下がって、管理工数ばかりが膨らんでいくのはよくあることです。

では「マーケティング戦略」の役割とはなんでしょうか。
それは、マーケティングに関わるチームメンバーの意識をまとめ、スムーズな意思決定を促し、アクションの精度を上げることです。

マーケティング戦略は、「経営戦略」でもなく「事業戦略」でもない

よくマーケティング戦略を考えるときに悩むことがあります。
「どこまで考えればいいのか?」問題です。

混同されがちな言葉として「経営戦略」や「事業戦略」がありますね。
「マーケティング戦略」とこれらは似て非なるものです。

マーケティングは、事業成長の手段のひとつに過ぎません。そして、事業は企業(経営)成長の手段のひとつに過ぎません
つまり、【経営戦略 > 事業戦略 > マーケティング戦略】という関係性が成り立ちます。経営は事業の上位概念、事業はマーケティングの上位概念です。

マーケティング活動の原資となる予算について考えるとわかりやすいでしょう。
マーケティング活動を行うためには「予算」を確保しなければなりません。これは「事業予算」の中から「マーケティング予算」として捻出されます。
そして、「事業予算」は企業の経営活動の収益の中から捻出されます。

つまり「マーケティング戦略」は事業の成長戦略の一環として位置づけられる、ということになります。

マーケティング戦略を通じて達成したい「事業成長」とは?

では、マーケティング戦略を通じて達成すべき「事業の成長」とはなんでしょうか。

事業活動というのは「投資をして生産したモノやサービスを販売し、付加価値を提供し利益を生み出すこと」です。
これを分解すると、事業活動は以下の3つの要素に分解できます。

  • 投資をして生産 → 「コスト」

  • モノやサービスを販売 → 「売上」

  • 付加価値を提供し利益を生み出す → 「利益」

つまり、事業活動というのは「コスト」を減らしながら「売上」を増やすことで「利益」を最大化する取り組みのことです。

マーケティング戦略では、このうちの「売上」「利益」の2つを変数として取り扱います
「いや、マーケティングでも投資はするし『コスト』の概念はあるよ」というツッコミがあるかもしれませんが、ここでいう「コスト」は「モノやサービス」を生産するための原価です。製造原価であって、販促費ではありません。

マーケティングにおけるコストは「利益」に返ってきます。
マーケティング活動を通じて適切なプロモーションができなければ、ユーザーにとっての「付加価値」が生まれず、利益が減ってしまうということです。

このように、マーケティング活動を通じて事業の「売上」「利益」を改善するための道筋を描くのが「マーケティング戦略」の役割です。

マーケティングにおける「戦略」「戦術」「施策」の違い

マーケティング戦略を考えるうえで「戦略」「戦術」「施策」の違いを正しく認識することは非常に重要です。
なぜなら、これらは3つの要素は検証期間がいずれも異なるからです。

一度決めた「戦略」を数日で変えるのはおかしいですよね。
一方で「施策」の検証に数ヶ月かけるのは無駄が多すぎます。

例えば、MVMO市場に新規参入するとして、以下のようなプランを考えます。

  • 「戦略」:圧倒的な低価格を強みにして、市場におけるマジョリティ層を一気に獲得してしまおう

  • 「戦術」:マスにリーチし認知を獲得できるテレビCMと、指名検索層の刈り取りができるリスティング広告を併用しよう

  • 「施策」:リスティング広告経由でランディングするLPでのメイン訴求は「他社からの乗り換え割」にしよう

「戦略」における「圧倒的な低価格を強みにして」は、そうそう変えられるものではありません。最低でも1年は検証する必要がありそうです。
また、「戦術」の「テレビCM」と「リスティング広告」のかけ合わせの検証も、少なくとも1ヶ月くらいはPDCAを回したいところです。
一方で、「施策」の「『他社からの乗り換え割』訴求」は、他の訴求とABテストして、場合によっては数日で取りやめてもよいでしょう

このように「戦略」「戦術」「施策」は検証期間が大きく異なるものです。
それぞれの違いを明確にしたうえで「戦略」を組み立てる必要があります。

マーケティング戦略とは、要するに「STP」のこと?

上記の例でもわかるように、「マーケティング戦略」を立てると、多くのケースで「STP」がベースになります。

STPとは「Segmentation(市場の定義)」「Targeting(ターゲットの設定)」「Positioning(価値や強みの明確化)」の3要素の頭文字を取ったもので、どんな特性の市場で・誰に・どうやって価値を提供するのかを言語化するためのフレームワークです。

先ほどのMVMO市場に新規参入する例でいえば、以下のようになります。

  • Segmentation:「価格」と「性能」が支配要因であるMVMO市場

  • Targeting:特に「価格」に敏感なマジョリティ層

  • Positioning:圧倒的な低価格

必ずしもすべてのマーケティング戦略がSTPに帰結するわけではありません。
マーケティング戦略には様々な変数がありますが、「市場」「ターゲット」「価値や強み」はそんな無数の変数のうちの代表的な3つであり、共通言語にしやすいからよく選ばれるだけです。

しかし、この「STP」が選ばれ続けることにも理由があります。
それは、「市場」「ターゲット」を明確化すると、その事業が狙える売上規模を推定できることです。

先ほど、マーケティング活動を通じて事業の「売上」「利益」を改善するための道筋を描くのが「マーケティング戦略」の役割だと述べました。
つまり、ストラテジストは、そのマーケティング戦略でどのくらいの「売上」「利益」が見込めるのかを推定する説明責任を負っています

STPは売上規模が推定しやすいので、マーケティング戦略を立てるうえで便利なフレームワークなのです。

「筋の良いSTP」を作る方法

定石に従ってSTPを作ろうとすると、そう簡単にいかないことがわかります。

先ほどの、MVMO市場に新規参入する例のSTPは非常にシンプルでしたね。これを見るとすぐに自分でも作れそうな気がしてきます。

Segmentation:「価格」と「性能」が支配要因であるMVMO市場
Targeting:特に「価格」に敏感なマジョリティ層
Positioning:圧倒的な低価格

しかし実際には、ほとんどのマーケティング戦略はもうちょっと複雑になります。
なぜなら投資できる資源には限りがあり、限りある資源を使って「圧倒的な低価格」を実現するのは難しいからです。

では、他の「Positioning(価値や強み)」を考えてみましょう。

Positioning(価値や強み)には、大きく分けると「機能的価値」と「情緒的価値」の2種類があります。

例えば、「機能的価値」である「回線速度の早さ」は、技術的なハードルが高いので実現可能性が低いです。
一方で「YouTube視聴では通信料を消費しない」ならなんとかなりそうなので、この路線でいこうかと考えます。

ここで勘の良い人は「あ、ターゲットが絞り込まれてしまう」と気づきます。

・イノベーター理論における「マジョリティ層」は、全生活者のうちの68%
・「ほぼ毎日YouTubeを見る」人の割合は「マジョリティ層」のうちの25%

このように仮定すると、ターゲットサイズは【68%×25% = 全生活者の17%】となります。

「Targeting(ターゲットの設定)」と「Positioning(価値や強み)」は常にトレードオフです。
ターゲットを広げれば価値を際立たせるのが難しくなり、価値を際立たせればターゲットが狭まります
そして、マーケターの仕事は、このトレードオフの最大公約数を見つけることです。

筋の良いSTPを作るためには、TとPを行き来しながら頭を悩ませ、最大公約数になるポイントを見つけるしかありません。

そのマーケティング戦略は「実行可能性」があるのか?

実際にマーケティング戦略を作ったら、その戦略に実行可能性があるのかどうかを確かめます。

戦略の実行可否を決めるのはつまるところリソースです。
そしてリソースは「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4つに分類されます。

ヒト

「ヒト」とはチームのことです。
マーケティングを実行するためには「マーケター」がいれば十分だと思われがちですが、現代のマーケティングはそんなに単純ではありません。プロジェクトマネージャー、ディレクター、デザイナー、データアナリストなど、いわゆるマーケター以外にも様々な職能が必要になります

これらを「マーケター」が兼務する場合もありますし、規模が大きくなればそれぞれ別のメンバーをアサインすることもあるでしょう。
このようなチーム編成を考えるのも、マーケティング戦略の一要素です。

モノ

「モノ」とはツールのことです。
特にWebマーケティングにおいて、適切なツールを選定し運用管理できることは、少数精鋭のメンバーで効率よくアクションし続けるためのマーケターの必須スキルのひとつです。

MA・CRM・SFAのような顧客データベース系のツール、運用型広告の管理ツール、CMSやOTTのようなコンテンツ制作・配信ツール、GTMなどのタグマネジメントツール、GAやGSCなどのアクセス解析ツール、Re:dashやGBQなどのデータマート、LookerやTableauなどのBIなど、マーケターが理解すべきツールは無数にあります。

もちろんすべてを扱える必要は必ずしもありませんが、少なくとも概念や運用スキームは理解できていないと、最適なリソース配分は難しいでしょう。

カネ

「カネ」とは予算のことです。
そもそもマーケティング予算をどのくらい確保すべきなのか?そしてそれを確保できるのか?を考える能力は、戦略の成否を大きく左右します。

マーケティングにおける予算獲得は「ROI(投資収益率または投資利益率)」の仮説なくしては実現できません
特に新規事業ではよく「今の段階ではROIは算出できない」「やってみないとわからない」と言われることもありますが、それでは事業としての投資はできないですよね。
上述のSTPなどを用いて、可能な限り定量的な成果仮説を作ったうえで、予算獲得を目指しましょう。

情報

「情報」とはエビデンスのことです。
戦略を実行するにあたっては、各所にそれを説明し合意形成をするプロセスが発生します。そこで「エビデンスは?」「根拠は?」「これは事実なの?仮説なの?」といったツッコミを山ほどもらうでしょう。
戦略は事実に基づき確からしさが高いほどにシンプルになり、実行可能性が高くなります。まずはエビデンスを集めましょう。

最強のエビデンスは「顧客の声」と「数字」です。
「顧客の声」は定性情報です。再現性は低いですが、ここぞというときに使うと強い推進力を生みます。
「数字」は定量情報です。数字自体には意味はなく、それをどう解釈するかで武器になるかどうかが決まります。

正しい「戦略」思考を身につけよう

以上、マーケティング戦略を考えるときの頭の中を言語化してみました。

「戦略」という言葉には魔性の魅力があり、つい気軽に使ってしまいますが、正しい文脈・用法で使わないとむしろ混乱の種になります。

ちまたには無数の戦略論がはびこっていますが、何を読んでも、誰に聞いても、実践なくして正しい「戦略」思考を身につけることはできません。

マーケティングに携わる人は目先の小さな施策や指標にとらわれず、常に「売上」「利益」に目を向け、事業成長のための本質的な道筋を考え、ときに勇気をもって戦略を提案する機会をつくることがとても大事だと思います。

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