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物欲の発生源: 人が物を欲しくなる仕組み

フルスタックマーケティング株式会社の代表取締役CEO・清水優志(@fsm_shimizu)です。
企業のマーケティング活動を支援しています。

マーケティングの世界には、誰もが知っている「AIDMA」というフレームワークがあります。

筆者作成

提唱されたのが1920年とかなり古いものの、汎用性が高いためにいまだに引き合いに出されるフレームワークです。

これを改めて眺めていて、不思議に思ったことがあります。

そもそも、人間の欲求(物欲)ってどうやって生じるんだ…?

これは、そんな人間の「物欲」に関して考えるnoteです。

物欲はマーケティングにおいて「前提」化している

マーケティング活動は、物欲の存在を前提にしています。

そもそも、欲求がなければ人は行動しません
そして、人が行動するからこそ物が売れます。

この物欲というものは、マーケティングの世界ではある意味で自明のものとして扱われている気がします。
「ニーズ」や「ウォンツ」といった言葉もありますが、なんらかの課題や悩みがあれば、消費者は購買行動を起こすと思われています。

したがって、「そもそも、なぜ物欲は発生するのか?」という問いについて考えたことのあるマーケターはあまり多くないかもしれません。

物欲の発生源は「認知的不協和」

以下は、心理学に関する本の引用です。

この本によれば、人が行動を起こすときには、そこに無視しがたい何らかの矛盾・葛藤が生じているといいます。

たとえば皆さんの中に2つの相反する考えがあるとしましょう。

1.「私はおしゃれなほうである」
2.「手持ちの服や靴、アクセサリーが流行遅れになってきた」

この2つの思いは矛盾していると言えます。2つの思いが一致しないせいで、皆さんの心に葛藤が生まれます。フェスティンガーの認知的不協和理論によると、その葛藤を減らすために皆さんは行動を起こしたくなります

『続・インターフェースデザインの心理学(2016)』より

つまり、「おしゃれなはずなのに、流行遅れの物しか持っていない」という矛盾が葛藤を生じさせ、それが物欲というかたちで表れます
結果的に、流行に合わせた服やアクセサリーを買ってしまいます。

ただし、この矛盾(認知的不協和)を解消する方法は、「ものを買う」という消費行動の他にもうひとつあります。
それが、自分の認識を変えるというアプローチです。

不協和による不快感を取り除くには、基本的に次の2つの選択肢があります。
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1. 葛藤を取り除くような購買行動を取る
 ex.) 流行に合わせた洋服や靴を買う

2. 葛藤を生む要素に対する自分の認識を改める
 ex A.) 「おしゃれには関心がない」と考える
 ex B.) 「手持ちのものも流行遅れではない」と捉える
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『続・インターフェースデザインの心理学(2016)』より

葛藤を取り除くような購買行動をとる代わりに、自分の認識を改めることによって、不協和状態から抜け出すことができるのです。

要するに、流行に合わせて服やアクセサリーを買うわけではなく、「私は今はおしゃれなんてしなくてもいいの」「私が持っている物だって十分おしゃれだわ」と考えを変えることで、物欲を昇華し、物を買わなくて済むということです。

逆に、「物欲が強い人」は、まず敏感に「おしゃれなはずなのに、流行遅れの物しか持っていない」という矛盾に気づき、葛藤を感じます
そして、その認識を改められないまま、葛藤を取り除くために服やアクセサリーを買ってしまいます

つまり、「物欲が強い人」には、3つの要件があてはまると言えます。

  • 矛盾によく気づき、葛藤に陥りやすい人

  • 葛藤を生む要素について、自分の認識を改められない人

  • 葛藤を取り除くような購買行動を起こしやすい人

矛盾によく気づき、葛藤に陥りやすい人

物欲が強い人が葛藤状態に陥るためには、まず自分の矛盾状態に気づいてしまうというプロセスが必要です。

先ほどの例でいうと、以下の1・2のそれぞれに「気づく」ことで葛藤に陥り、物欲が生じてものを買ってしまいます。

1.「私はおしゃれなほうである」
2.「手持ちの服や靴、アクセサリーが流行遅れになってきた」

この例は、以下のように抽象化することができます。

  • 購買する商品カテゴリに関する自己評価が高い

  • 購買する商品カテゴリに関する客観的評価に敏感

  • 現実(主観的状況)理想(評価)ギャップがある

つまり、自分はその商品カテゴリに精通している・知識やセンスがあると思っているのに、自分の状況を客観的に見たときにそうではないと感じると、葛藤が生じ、ギャップが物欲の強さになります。

ここで重要なのは、「客観的評価(他己評価)」が必ずしも、明確な他者からの評価に限らないということです。
自分の中で他社からの評価を作りあげ、あたかも他人にけなされたかのような感情になり、認知的不協和が生じる場合もあります

脱毛やダイエット、美容などの商材で、コンプレックスを煽るような広告宣伝を行うものは、こういった消費者心理につけこんでいます。

葛藤を生む要素について、自分の認識を改められない人

また、葛藤が生じたときに、自分の認識・信念を改めることができないために、ものを買うことで認知的不協和を解消しようとしてしまいます

認識を改め、購買行動を起こさないパターンには、以下の3種類があります。

  • 無消費:そもそも消費することを否定する

  • 満足:今の自分が良い・満足だと思う

  • 代替:他のもので代替できる

「無消費」は、いわゆるミニマリストの発想です。
物を買わない・増やさないことこそ正しい、という信念を持ちます。

「満足」は、今の自分を肯定し、認知的不協和を解消するものです。
精神的に「自分のセンスは良い」「自分の生活はこれでいい」と満足することを意味します。

「代替」は、手元にある他の手段で穴を埋める方法です。
たとえば「遊園地に行けないけど公園に行こう」といったように、代替手段で物欲を解消します。

これらの方法で認識・信念を改めることができる人は、ものを買わなくて済むということになります。

葛藤を取り除くような購買行動を起こしやすい人

最後に、買う・行く・体験するといった行動を起こしやすい環境にある人は、葛藤に陥った際にすぐに購買行動をとってしまいがちです。

ここでいう「環境」には、以下の5つの要因が絡んでおり、以下の条件を満たすほどに、衝動的な購買行動を起こしやすくなります。

  • 金銭的要因:可処分所得が多い

  • 地理的要因:居住生活圏が都市部に近い

  • 時間的要因:可処分時間が多い

  • 関係的要因:身近な人の購買行動が派手

  • 精神的要因:ストレスが多い

可処分所得が多いほど、衝動的な購買行動が増えます。
お金がなくとも、クレジットカードや借金、突発的な収入、ポイント、キャンペーン、セールなどに起因して、衝動的に購買行動を取ってしまう場合もあります。

居住生活圏が都市部など主要な経済圏に近く、消費行動が取りやすい場所に住んでいるほど、衝動的な購買行動が増えます。
ただし、現代ではEC(ネット通販)が普及しているため、どこに住んでいても購買行動は取りやすい状況にあります。

物について考えたり、物を探したりするような可処分時間があるほど、衝動的な購買行動が増えます。

身近に、自分の欲しいカテゴリの商品をよく購買する人がいるほど、衝動的な購買行動が増えます。

そして、ストレスが増えるほど、衝動的な購買行動が増えます。

よく「社長になると金遣いが荒くなる」と言いますが、社長になると可処分所得が増え、都市部で働く機会が増え、家庭から離れる時間が増え、社長との付き合いが増え、ストレスが増えるためです。

まとめ

「物欲が強い人」の特徴について、改めてまとめます。

  • 矛盾によく気づき、葛藤に陥りやすい人

    • 購買する商品カテゴリに関する主観的評価(自己評価)が高い

    • 主観的状況(現実)と客観的評価(他己評価)にギャップがある

  • 葛藤を生む要素について、自分の認識を改められない人

    • 「無消費」できない: 消費行動自体を否定できない

    • 「満足」できない: 今の自分に不満を持ってしまう

    • 「代替」できない: 代替手段では満たされない

  • 葛藤を取り除くような購買行動を起こしやすい人

    • 金銭的要因:可処分所得が多い

    • 地理的要因:居住生活圏が都市部に近い

    • 時間的要因:可処分時間が多い

    • 関係的要因:身近な人の購買行動が派手

    • 精神的要因:ストレスが多い

物欲というのはより良い生活を実現するうえではなくてはならないものですし、物欲があることで働くモチベーションが湧き上がることもあります。
したがって、物欲があることが悪いというわけではありませんが、物欲を理解・コントロールできておらず、物欲に支配されている状態は健全とは言えません

いち消費者として、こういった心理が物欲を生じさせることを理解し、物欲と上手く付き合っていきましょう。

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