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知のフォーラム「デジタル×サステナブル社会のデザイン」プログラム社会実装プロジェクト「農福連携ソーシャルファーム -東日本大震災を越えて」

2023年12月23日(土)専修大学神田キャンパス10号館教室にて、全国6大学(ゼミ等)14チームが,「ソーシャル・アントレプレナーシップを発揮した,社会的価値創造型協働」の発掘調査や創造に年間を通じ取り組んだ成果を発表した。
本学からは、経済学部の高浦康有先生(知のフォーラム「デジタル×サステナブル社会のデザイン」プログラム担当教員)、高浦ゼミ3年生9名が参加した。本学チームは「農福連携ソーシャルファーム -東日本大震災を越えて」と題し発表し、学生評価部門「スチューデントリワード・準グランプリ賞」を受賞した。

発表スライド

参加学生のコメント

DXの観点でイシノマキ・ファームに対して提言できることは、地域コミュニティの情報共有のIT化である。現状、イシノマキ・ファームは、石巻市内の中ではIT化に力を入れて取り組んでいるローカルベンチャーとしての側面が強い。しかし、都市部のベンチャー企業や大企業に比べると、まだまだアナログな側面も強く感じた。具体的には、PDCAサイクルについての会議の少なさ、団体内で口頭での連絡が多かったり、暗黙知での指示が多い点である。団体内で暗黙知が共有されておらず、計画通りに事業が進まなかったり、地元の方々との連携が難しくなっていたりしていた。このような、暗黙知の部分を形式知に直し、ステークホルダー全体でフラットに情報を共有できるようにIT化を進めていくべきだと感じた。これは、中央大学が発表していた農家のコミュニティ形成にもつながると思うが、株式会社いろどりと異なるのは、イシノマキ・ファームが中心となるコミュニティより、地元の人たちとフラットな関係で横並びの関係のコミュニティを作ることだと考える。

結論として、自社としてDX化を推進するとともに、石巻市内外に関わらず、自社がサポートされてきたIT化推進をベンチャー企業に施すべきだと感じる。日本郵政がIT化を推進し、新規事業の立案から実行におけるPDCAサイクル、またオンライン上での売買に関するデジタル化に成功したものの、実際にITが関わる分野はその分野にとどまっているように感じる。現在、多くの企業では循環型のビジネス、生産販売に関わる財を販売するビジネスに取り組んでとり、それに積極的に参加すべきである。ビジネスマッチングをする企業をweb上で募るよう体制を整えれば、社内のDX化はさらに加速すると考える。また、これまでいしのまきファームは、被災地支援され、IT化を推進されるなど、施されてきた側だと感じる。今後は、無数にある地域初のベンチャー企業に対し、自社が施されてきた支援を他社にしていくべきであり、社会課題である地方創生を主導で推進すべきである。

イシノマキファームは、日本郵政グループとの協働事例の一環で「巻風ホップソルト」を販売している。「巻風ホップソルト」とは、イシノマキ・ファームで収穫された「巻風ホップ」と、社会福祉法人くじらのしっぽで生産された「金華塩」のコラボ商品である。日本郵政グループのIT技術を利用して、この商品の開発から生産・管理までをDX化した。これにより、現在は石巻市内の商業施設だけでなく、市内の郵便局やECサイトでも販売されている。現在、イシノマキ・ファームには、地方創生の企画やIT計画の業務の経験がある日本郵政社員が派遣されている。この社員のIT事業の知識が、「巻風ホップソルト」の企画立上、計画の進行、管理業務に活かされている。また、イシノマキ・ファームのオンラインショップでの販売分の集荷を石巻郵便局が担当している。これにより、石巻市内だけでなく、日本中に「巻風ブランド」を販売することができるようになった。このように、イシノマキ・ファームは日本郵政グループと協働することで、「巻風ブランド」の販売チャンネルを増やし、地域活性化に貢献している。
地域活性化への貢献という点で成功している事業であるが、さらなるブランド認識の拡大という点においてはまだ尽力できる点であろう。震災から十年以上がたった現在、求められる視点は「巻風ブランド」の経営戦略を見直すことであると思う。石巻ひいては宮城、東北地方の復興の象徴としての価値は、中長期的に事業を継続してはじめて意味を持ってくることだろう。

イシノマキファームにDXを取り入れる施策として、まずAIによる仕事の適性診断を提案します。農福連携事業として、精神疾患や様々な事情により就職が困難な方にホップ栽培に携わってもらっており、農業の担い手不足が問題になっているため今このような農福連携はますます広がっていくと考えられます。そのため、事業が拡大することを見越して、従事者の心のケアを行いながらも適正の見極めはAI等の技術を導入することでより正確で効率の良い作業分担が行えるようになるのではないかと考えます。また、こうした社会的価値の高い取り組みを行っていくためには他の団体との協働が重要な要素であり、各自治体やハローワークに訪れた求職者を受け入れるために連携を強めるべきだと考えます。その中でメタバースを用い、遠方の求職者やこの事業に興味を持つ人がオンライン上で体験できるようなサービスを取り入れることで、イシノマキファームの活動を更に広げていくことが出来ると思います。

発表にもあった通り、宮城県はハード面での復興は完了したものの、ソフト面での復興は以前終わっていないという課題がある。イシノマキファームは農福連携を通してソフト面に対しても復興に貢献しているが、継続的に問題に取り組む団体が減少しており、イシノマキファームの活動と認知の拡大をしていきたいと高浦ゼミは結論づけた。そこで、私は二つの施策を提案する。一つ目は、3月11日に巻風エールの広告とイシノマキファームの思いを流し、その日の巻風エールの売上の一部を東北の復興団体に寄付するというものである。この広告は一般人の認知拡大を目的とし、使用する媒体はユーザーが多いX、Instagram、TikTokを用いる。一年の中で最も東日本大震災に注目が集まる日に広告を流すことで、効果的に認知拡大できると考えた。二つ目は、サステナビリティ×デジタルの観点ではないが、そばくり博覧会で関西大学の学生と企業の協働チームが発表していた「協働B型」を用いて私たちが企業と企業をつなぐというものである。昨日の発表では利益が関わってくると協働B型が役に立たないのではないかと教員・審査員の方から言われていた。しかし、寄付を目的とした協働B型は成功している実績がある。そこで、高浦ゼミが3月11日限定のイベントを行うことを提案する。例えば、私たちがイシノマキファームと居酒屋の架け橋になり、コラボを推進するというものである。売上は一つ目の提案と同様に東北の復興団体に寄付を行う。実際のコラボの内容として、普段巻風エールを取り扱っていない居酒屋に限定メニューとして導入し、認知拡大につなげることを想定している。また、巻風ホップソルトを料理に用いることでさらなるアピールが可能になると考えた。以上の二つの提案を行うことでイシノマキファームの認知拡大につながり、継続的に復興に取り組む団体の増加が見込めると思う。

私は、高浦ゼミの報告にもあった「心の復興」についてはDxが重要な役割を果たしうると考えている。そこでイシノマキファームに対して継続面に関する提言をしたいと考えている。報告にもあったように、インフラ復興の大部分が完了しているのに対し、心の復興というテーマに継続的に取り組む団体はそう多くない。加えて、東日本大震災から10年以上経った今でも辛い思いをされている方が大勢いる一方で、8割を超える若者が震災の記憶の風化を感じている。よって、今後イシノマキファームが心の復興という面で地域に価値を創出していくことの重要性がうかがえる。そこで私は持続的な復興の輪を広げることを目的としたオンライン農業体験を推奨したい。というのも、イシノマキファームの農場は石巻中心部から車で40分以上かかるため、アクセスが良いとは言えず現地での農業体験のハードルも高く感じる。そこで、石巻ファームがオンライン農業体験を企画したらどうか。具体的には、イシノマキファームで栽培している作物の種を郵便局のDx技術で参加者のもとに届け、テレビ電話を用い、一緒に育てるというものである。これにより、農業に興味が無かった人も農業に興味をもつようになったり、石巻に魅力を感じ地域の活性化に取り組む人材を幅広く集めたりすることが可能になると考えられる。また、報告にもあった外側へのアプローチを内側へのアプローチへ繋げていくことができれば、石巻の持続的な復興及び心の復興に寄与できるだろう。

サスティナビリティ×デジタルの観点から、イシノマキ・ファームに対して「ビール醸造で生じた廃棄物のインターネット販売」を提言する。すなわち、ホップの蔓や大麦麦芽を、世界中の業者向けに販売する取り組みだ。現在、イシノマキ・ファームではビール醸造後のホップのカスを家畜の飼料として提供している。これは動物への資源として活用することで人間の食文化を支えている点ではサスティナビリティある取り組みと言える。しかし一方で、それらを直接的に地域経済や人間の生活に活かす活動にまだ余地が残ると思われる。現在では、高い栄養価を誇る大麦麦芽から作られた穀粉「スーパー・フラワー(ライズ・プロダクツ社)」や、ホップの蔓から次世代ナノファイバーとして注目される「セルロースナノファイバー」を分離する技術が開発されている(https://www.chuo-u.ac.jp/hakumon_chuo/campus/2022/01/57739/)。ビール醸造にあたって生まれる廃棄物はもはや飼料や肥料として別の製品を通さずとも、それそのものとして活用が可能になった。イシノマキ・ファームがこのような技術を保有する団体と協働すれば、団体の活動も持続的な消費社会も可能になるのではないか。したがって、醸造所で生まれた廃棄物を他社に提供し活かして貰うことを目標とし、その提携のきっかけや事業者とのマッチングを生み出すため、全世界から廃棄物の変換技術を持つ事業者へインターネット上で廃棄物を販売するのが良いのではないかと考えた。

イシノマキ・ファームは農福連携など様々な事業を通して、インフラ整備といった目に見えるハード面の復興だけでなく、ソフト面での復興にも大きく貢献している。町の中で交流の場を作り活気を生み出すこと、他の団体と協力して発信していくことを通して、石巻市に新たな価値を創造している。この活動をより広く人々に認知してもらうことが、この活動を進めていく上で求められることだと考える。イシノマキ・ファームと日本郵政グループとの共同事例における、商品の開発から生産・管理までのDX化は、この点で有効かつより推進するべき事例である。正直、わたしはこの研究に関わるまでイシノマキ・ファームの取り組みを知らなかった。郵便局など人々にとって身近な場所での全国展開は、私のように震災復興や東北地方に関心があるものの情報を得る機会のない人々に活動を伝える機会を増やすことが出来る。今後、長く続くであろうソフト面での復興を持続可能なものにするために、他企業との協働を起点にしたDX化を推進することが望ましいと考える。

今回のそばくり博覧会2023のマイニング部門に参加するにあたって、イシノマキファーム様の代表理事である高橋由佳さんに直接お話しを聞くだけでなく、実際に現地に赴いたフィールドワークも行うことで、その事業内容や背景にある思いや展望を知ることができた。そしてあらためてサスティナブルとデジタルの観点からイシノマキファームに提言するのはECサイトのさらなる拡充である。石巻市や宮城県だけでなく日本のトレンドとして少子高齢化は深刻に進行し、地方は衰退の一途をたどるのが宿命といえる(これへの対策はまた別の話)。また、イシノマキファームがつくるビールのファン層は全国に点在する地ビールマニアと呼ばれる方々である。つまり、限定された店舗販売ではなく全国に門戸を開放するという持続可能性(サスティナビリティ)とインターネット販売というデジタルを掛け合わせた事業により一層注力していくことが求められるのではないだろかと私は分析する。


学生評価部門受賞の様子

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