見出し画像

第4回「地域企業のためのSDGs&DX経営実践のコツ」開催レポートー地域にこそ必要なDX:ワイヤードビーンズのDX実戦

2022年11月17日(木)東北大学片平キャンパス知の館を会場およびオンラインのハイブリット形式で、社会実装プロジェクト産学連携セミナー第4回「地域企業のためのSDGs&DX経営実践のコツ」が開催された。
今回のセミナーでは、三輪 寛氏(株式会社ワイヤードビーンズ代表取締役)より、「地域にこそ必要なDX:ワイヤードビーンズのDX実戦」というテーマでご講演いただいた。
 具体的には、「1,社会の変化について」「2,Wired Beansについて」「3,DXとは?」「4,デジタル活用の事例」の4点をご説明いただいた。

1,社会の変化について
三輪氏によると、「インターネットは顧客に直接、販売できる究極のルート」とスティーブ・ジョブズ氏が言ったように、現在デジタル化が企業の販売活動に必須だという。
10年前の人々は、電車のなかで日経新聞を読み、仕事では資料を整理、記録し、仕事帰りに気になったことを本屋で調べてみる、などといった生活を送っていた。しかし現在は口コミ、資料探しなど、全てインターネットのなかで行っている。人々は今や朝から晩までデジタル漬けの毎日を送っており、1日のなかで画面を見ている時間が圧倒的に多い。今やどの会社も社員はすべてデジタルネイティブといっても過言ではない。三輪氏は、このような社会の変化により、取引相手の会社自体を知るにもデジタルの世界の中で検索される対象になっている、と強調している。技術の進歩で社会が変化、購買行動も変化しているため、それに合わせマーケティングも変化する必要があるということだ。

三輪 寛氏(株式会社ワイヤードビーンズ代表取締役)

2,Wired Beansについて
Wired Beansは2009年に創業し、現在14期目となる。社名の由来は、「Wired=基本に実直につながる、Beans=地域の技術や職人の可能性」であり、地域の技術や職人、それを支える様々な文化やお客様と、正しく繋がるビジネスを行うという想いを掲げている。この想いのもと、本社を仙台に置き、地域のDXを推進している。また、グローバルなお客様とも取引している。最近は地域とのDXを進めるため、地銀との業務提携を多く行っている。事業としては、1)大手ブランドECサイトの構築・運用支援、2)自社のブランド運用で培った独自の技術を活かした地域ブランド向けDX支援、3)BtoB(製造、建設、不動産など)向けDX支援、の3点である。
これらの実績から、2021年 11月、Salesforce Partner Award 2021のInnovation Partner of the Year(東日本パートナー会)を受賞している。同社では年間約4万個にのぼるアイテムが販売されており、来年は約5万2千個の見通しとしている。しかし三輪氏は、このようなDX推進の中でも、ものづくりの現場では、自ら職人のもとに足を運び、材料や製品について直接じっくりと対話する必要があると説明している。製品を社会に発信する段階になって、デジタルが必要になる。販売の面では、コロナの影響の中で全出荷の9割がデジタル販売となり(コロナ前は5割)、百貨店などではなくECの売上が増加している。

3,DXとは? 
ここでは、DXとITの違いについて説明がなされた。三輪氏は「DX=革新+IT」と定義している。DXとは、ITを活用して新たな事業へ変革を図ることであり、現在の事業を分析し、新たな領域にIT化を伴って進出していくことだと述べている。ということはつまり、自分の会社にとってDXの領域とは何なのかイメージする必要がある。
経産省の地域未来牽引企業約4700社を対象にしたアンケートの結果より、中小企業の多くの経営者は、「新たなプロダクト開発、生産性向上=変革・イノベーション」という考えであることがわかる。これはOECD「オスロ・マニュアル」に示されるイノベーション4類型のうち、①「プロダクト・イノベーション」②「プロセス・イノベーション」を意識していることになる。
しかし実際は、4類型の残りの③「マーケット・イノベーション」④「組織イノベーション」を行っている会社が急成長しているという事実がある。つまり、生産工程の変革や新商品の開発をせずとも、どの市場に売り込むか、どのような組織体制で行うかで売上を伸ばすことができるということである。
社会の変化は、大きく分けて①顧客接点の変化、②情報量の増加、③選択肢の増加の3点がある。①に関して、現在ではネットでの新しい接点が増加し、多様化している。②に関しては、SNSの種類も増加し、情報量が急増している。そして③として、お客様も様々な情報を選べるようになった。そのため現在では、お客様は口コミを見てから企業のHPにいくことが普通となっている。そのため、会社のHPには一番信頼できる情報をのせておかなければいけない。今世の中の人々は、信用できる会社のHPだったら会員登録をしていい、と思っている。口コミなどで選ばれ、会社のHPまで来て初めて信用され、ファン獲得に繋がると三輪氏は説明する。
接点の変化という点でいうと、今や接点中心の時代から、顧客中心の時代に変化しているという。この変化に合わせ、4P戦略(Product、Price、Place、Promotion)→4C戦略(Customer Value:顧客価値、Cost:顧客が⽀払うコスト、Convenience:顧客利便性、Communication:顧客とのつながり)に移行しなければならない。4C戦略ができて初めて売上を伸ばすことができる。Wired Beansでは、顧客価値として、長く使い続けられる普遍的なデザインや生涯補償を挙げている。コストでは、この商品にいくら払いたいと思うかというお客様目線で決めるべきであり、顧客利便性では、Webで探したいときに必要な情報が検索されるようなサービスの充実が必要だとしている。顧客とのつながりでは、職人と顧客がともに身近に感じられる存在になることが大切である。売れている商品と売れていない商品では、もちろん製品デザイン自体も大切だが、ブランド理解に繋げるための発信力が必要となる。このように、顧客を正しく理解し、適切な提案をするためにデジタル化が必須だとしている。

4,デジタル活用の事例
Wired Beansは、「職人手作りの製品を販売したい」という目的のもと、2つの取り組みを行った。
①流通で、インターネットの直販を実現した。具体的には、知名度向上のため百貨店での販売や、楽天などのデジタルモールから本店の通販ストアに進むよう、ECサイトに重要な情報をのせるなどの施策によって、90%のデジタル出荷を実現した。
②インターネットがもたらした製品価格、マーケットの決定を行った。4P戦略に基づくと百貨店での販売が主になるため価格が高くなってしまうが、4C戦略に基づきリアルと直販のバランスを変更することで成功に繋がった。このような取り組みの結果、4C戦略に沿った顧客化を達成し、生涯補償やビジネスデザインの構築へと繋がった。
空調・ポンプ製造会社の事例として、顧客のデータ化と組織変更により、営業の方法を変革した例がある。具体的には、営業マンを廃止し、顧客との過去のやりとりの履歴情報を全て集約したコンタクトセンターをつくることで、全員のオペレーターが顧客に最適な見積もり等の情報を提供できるようになった。その結果全国から注文を頂けるようになった。DX化の成功事例である。
また地域ブランド(酒造など)の事例では、メーカーがEC直販に乗り出すとき、絶えず仲卸とのコンフリクトが生じがちであるが、顧客データをCRM基盤に蓄積・分析し、相互で活用することで、メーカーと卸売業者が対立することなく、製品の売れ行きの卸先への共有や、新製品の開発、試作販売、店頭キャンペーンの開催を行うことができるようになった。
このように、イノベーティブな商品開発などを行わずとも、DX化を行うことで新しいファンを獲得できるようになる。デジタル化はデジタルの中だけでなく、リアルも一緒に改革することにつながるのである。

当日司会 高浦 康有 氏(東北大学大学院経済学研究科 准教授)

(文:東北大学大学院経済学研究科准教授 高浦康有、経済学部 伴田友香)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?