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【映画感想】マイ・エレメント

おすすめ度 ★★★☆☆

設定のためのストーリー?
ストーリーのための設定じゃない?

火・水・土・風。4種族のエレメントたちが暮らすエレメント・シティ。そんな街で火と水の本来相容れない若者たちが恋に落ちる。

いかにもディズニー・ピクサーらしい設定。これは良くも、悪くもだ。ちょっとだけ悪くもが優勢かもしれない。

エレメント・シティの設定は“ピクサーらしさ”を形作るいくつかのラインの複合体と見ることができる。
まずは『インサイド・ヘッド』(2015)あたりから始めた「抽象的なものをキャラクター化して紐解く」というライン。『インサイド・ヘッド』の頭の中に始まり、魂を擬人化した『ソウルフル・ワールド』(2020)、そして今回は四大元素を擬人化したというわけだ。

もう一つは「空想上の生き物たちが暮らす世界をなるだけ現代的なメガシティとして描く」というラインもある。近代都市の見た目をしながら、そのテーマに沿ったユニークな仕掛けが街中に散りばめられているというディズニーのお家芸を存分に発揮することができる。
そんなラインの中でも近年特にエポックメイキングだったのはやはり『ズートピア』(2016)だろうが、それ以降も黄泉の国を描いた『リメンバー・ミー』(2017)、『2分の1の魔法』(2020)もエルフやマンティコアというファンタジー生物たちの暮らす街を描いた作品だったりした。

『マイ・エレメント』はそんな2つのラインの両方を取り合わせた企画なので、ディズニーらしさ、ピクサーらしさには充分な作品とはいえるだろう。だが、それは同時に「この映画は企画先行で話を考えたんだろうな」という匂いもプンプンと放っているということでもある。
率直にいってしまえば、このストーリーを語る上で四大元素の世界である必然性はほとんどない。

この作品のストーリーは誰の目にも明らかなほど作家の個人的な話だ。
語られるのは、移民2世の女の子と裕福な家庭に生まれた青年の身分違いの恋愛であり、設定をブルックリンのチャイナタウンで暮らすアジア系の女の子とマンハッタンの高層マンションで暮らす白人青年の恋愛にしてしまっても成立するはずだ。

そして監督であるピーター・ソーンが描きたかったのは、そんな移民2世の抱える親への愛と葛藤であり、そこから自由に羽ばたく決心をするまでというところにあるのは間違いないだろう。
現に両親の期待と自分のやりたい事の狭間で揺れ動くエンバーの感情の揺れ動きは、彼女自身の炎の揺れ動きとして表現されて胸を打つ。そして彼女を真っ直ぐと朗らかに肯定するウェイドの言動がスッとその揺れる感情に入り込んでいくのも納得だった。

ただ、改めて彼らがエレメントである必要があったのか。もちろん火と水という絶対に相容れない元素であることが、エンバーとウェイドの育ちも身分も人種も違うという側面を際立ててはいる。それは確かだ。ただそれ以上の何かには残念ながらなっていない。しかも火と水ならまだしも、残り2つの土、風に関しては序盤早々からあくまで背景でしかなくなってしまっている。それなら火と水だけでよかったんじゃない?と思ってしまうほどだ。

そんなわけでピーター・ソーンの個人的な想いを託した大人なラブストーリーは繊細な感情を描いていて、もっとしっかりと見たかったのだが、エレメンメント・シティという設定に足を引っ張られたのは否めない。
“ピクサーらしさ”の担保も大事かもしれないが、あくまで語るべきストーリーありきの作品設定であるということを思い出してほしい。
それこそがピクサーらしさじゃなかった?
(文責: 1世)


マイ・エレメント
Elemental
監督: ピーター・ソーン
出演: リア・ルイス、マムドゥ・アチー
吹替: 川口春奈、玉森裕太

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