書評「ザ・モデル」:とあるWebエンジニアたる私の読み方

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前回、エンジニアの俺が営業向けの本を読んだが用語がまったくわからん(から用語集を作った|果物リン|note という記事を書きました。果物リンです。

この記事でも述べている通り、受託企業から自社プロダクト系の会社に転職した私。そんな私に入社初日に課題図書として渡されたのはプログラミングに関わる本や組織に関わる本ではなくビジネス系書籍でした。

感想文を書くためにたった今通算3度目となる本書を読んでいます。(3度目ともなるとだいぶトリッキーな読み方をした気がしますが……)

この本、序文を書いたのはアレン・マイナーという人で著者の福田康隆さんとは違う人なのですね。3度目にしてようやく気づきました。まったく読み方がなってない(私は章題を読み飛ばす悪癖があります)。そして、「これからどんな人によってこの本が綴られるのか」書かれていると気づけばワクワクする序文だと気づきました。よき。

また、著者本人による「はじめに」は『営業に再現性があり、自分にはそれができる』と書かれています。なるほど、再現性は大事ですね。エンジニアである私からしても再現性が重要なのはわかります。それにしても、営業の分野で再現とは?

本書のダイジェスト(?)

以下は本書のダイジェストです。300ページある本を読むための攻略本のように読むもよし、ネタバレ禁止を課して読み飛ばすもよし。感想は下にあります。

第一部「アメリカで見た新しい営業スタイル」の第1章から第3章では著者がセールスフォースの日本法人に入って自分のアイデアを実践し、磨いていき、マーケティングオートメーション(MA)のサービスを提供するマルケトから、「日本法人を作るので代表者にならないか」と声をかけられて転職するまでの略歴が語られます。これはSaaSビジネスに挑戦する上での経験が得られるだけでなく、単純に読み物として面白かったです。
特に、営業を分業するという考え方とそれは日本でも通用するのか?という下りはとても面白いと思います。

第二部「分業から協業へ」の第4章では、ビジネスモデルがここ10年で変わってきたことを解説します。そのために企業の営業がどういった対応をすればいいかについて書かれています。第5章では組織の話。グループに分けるとなにが起こるかについて。「分業の副作用」という掲題通りです。第6章では現代に通用するビジネスモデルの在り方を概説します。

第三部「プロセス」の第7章〜第10章は、それぞれ「マーケティング(広告・認知)」「インサイドセールス(電話セールス)」「フィールドセールス(外回り営業)」「カスタマーサクセス(顧客と成功する)」について解説します。他がおろそかになっているとは思いませんが、特にフィールドセールスについてはマーケティングとインサイドセールスを足して3倍くらいの文章量を割いているので少々面食らうかもしれません。

第四部「3つの基本戦略」の第11章〜第13章は、「市場戦略」「リソースマネジメント」「パフォーマンス・マネジメント」で「どこに対して、どれぐらい、いつ注力するか」、「誰が注力するか」、「注力させるマネージャーはどこを見るべきか」について解説しているように見て取れました。

第五部「人材・組織・リーダーシップ」の第14章、第15章「人材と組織」は組織におけるミッション・バリュー・ビジョンが果たす意味、A級プレイヤーを集めることの意味、誰を採用し昇進させるかを考える上で重要なことについてなど。「リーダーシップ」はリーダーには増幅型リーダーと消耗型リーダーがいること、ストレッチゴール(できるかどうかわからないけどできそうな気がする目標)を設定する重要性、偉大なリーダーがいかにチームメイトのパフォーマンスを引き上げるかの例示してくれています。

読後の感想

まず読み物として面白くて、ワクワクする一冊でした。最初読んだとき、エンジニアの私でもSaaSの営業とはどういうものか?それが理詰めで語られているのはスーパーマンによる武勇伝なんかとは異なる爽快感があって面白かったのを覚えています。なるほど、再現性のある営業とはこういうことか、と。

都合3度読むことになったわけですが、エンジニアの私がなぜ営業の本を読んでワクワクするだなんて感じるんだろう?と疑問に思っていたのですが、どうやら理詰めで語られていること以上に、私はこの本を身近なエンジニアリングの出来事に置き換えて読んでいるようなのです。

フィールドセールス(外回り営業)は「現場のエンジニアに置き換えてもある程度話が成立しそうな気がする!」と気づいたときの衝撃といったら!契約の締結をデプロイに置き換えると、本書フィールドセールスのフェーズ2「ビジネス課題の認識」は仕様策定MTGに似てそうですし、着手は実装とすると着手予定日がずれ込んでいたら仕様に不備がありそうな気がします。フェーズ3「評価と選定」は実装がそれっぽいですかね?これについてはちょっとこじつけくさいかもしれませんが。
なんせ文章量が多いものですから、長時間この辺りに触れているわけでして、読み進めるにつれて「なんか似てるな……?」と。まぁ3度も読むぐらいなので変な読み方してるよなぁとは思うのですが。

そうするとですよ、マーケティングはCSやお問い合わせになりそう、インサイドセールスはPrdMやクライアントになりそうという具合で私の中でパズルのピースがハマっていくわけですよ。マーケティングオートメーション(MA)はプロダクトバックログっぽい感じがする、カスタマーサクセスはスプリントとかその辺?ここはちゃんと落とせてないのですが。そんな感じで営業のロールがエンジニアリングのロールにいい感じにハマってくるのは読んでいて気持ちよかったです。

市場戦略のエンタープライズ向けはメジャーリリース・リプレイスや新サービス展開、SMBはフューチャーリリースとかに置き換えられそう。どっちを選択するか、あるいは両方を選択するのか。
パフォーマンス・マネジメントはそのままエンジニアでも通用しそう。SaaS商材を売る営業もハイパフォーマンスな人とローパフォーマンスな人で3倍くらい成績に差が出るからこそ、退職者と入社した人数が釣り合っていても組織としてのパフォーマンスは下がっているというのはエンジニアにも通用する分かりやすい話です。
ストレッチゴールを目指す目標設定を個人別に設定すること、特にグローバルな目標が高すぎる場合には個人目標を適正と思える水準にあえて下げることで個人目標を達成者の数が増えてパフォーマンスも向上したというのは興味深い例を示唆していると思いました。
パフォーマンスマネジメントはPrjMやスクラムマスター?がエンジニアの実際のパフォーマンスを発揮できているのか、異常値はどこにあるかを察知する指標の読み方に読み替えられそうな気がします(数字の置き換え方はかなり検討したほうがよさそう)

そして最後に、組織やリーダーシップの話はロールが変わっても普遍的な話ですね。ここだけでも普通に読み物として私は感銘を受けたと思います。
そんな感じで、読後感よく満足の一冊でした。

一つ不満を上げるとすれば、校正?のフェーズがあんまり本気出してないんじゃないでしょうか。営業業界特有のカタカナ言葉や3文字英語が多数登場して読み辛く、この辺りは脚注を隅に乗せておいてほしかったです。かと思えば先に出た章では頭文字をとっただけの略語になっていたものが、後の章で開かれていた(MA→マーケティングオートメーション といったように漢字をひらがなに、英語をカタカナなどに置き換えること)といった具合がところどころ見受けられたように思います。推測なのですが、あとで文章を入れ替えたときに言葉の開く閉じるあたりの校正が徹底されていなかったのではないかと思いました。

まあそんなわけで、3度目の私ですらエンジニアの俺が営業向けの本を読んだが用語がまったくわからん(から用語集を作った|果物リン|noteをたまに振り返りながら読んだ程度には初見殺しな箇所もあるのですが、とても面白くて良い本でしたよ。

この記事を読んで私にエールを贈りたくなったなんて奇特な人がいたら、有料記事として購入していただけたらと思います。コーヒーでも飲みたいと思います。(有料記事を購入しても以降に文章はありません)

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