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2014年精神科病棟入院日記13

1004土
入院生活87日目。4:00過ぎまで眠れず。寝ぼけながら朝食を食べ、昼食時に起床。エスタロンモカ1錠。ボサノヴァのラジオを聴きながらぼんやりとする。15:00、Hさん見舞いに来る。車椅子で移動できるようになったので、地下一階に行き、買い出しついでに喫茶店に寄る。コーヒーゼリー、アイスカフェオレ。マンタ・レイ・バレエのメンバーの近況や、Hさんの近況について雑談する。Hさん、平日は忙しいが土日は暇しているらしい。病室に戻って、見舞い品のカフェゴトーのケーキを二人で食べる。Hさんはチーズケーキ、自分はあんずのケーキとラム酒の風味がするチョコケーキを食べる。久々のアルコール摂取。中原昌也の作業日誌、最近出たXのToshiの洗脳暴露本が面白いらしい。Hさん、17:00頃に帰る。

Hさんが帰った途端に尿意を催し、片足で頑張ってトイレに行く。ついでに吐き気も催し、食べたばかりのケーキをすっかり胃から放出してしまう。ケーキに含まれる程度のアルコールが効いたのだろうか。

孔子が背丈2m以上もあり、かつ怪力だったという伝説を知る。仮にその話が本当だとして、そんな化け物みたいなやつに言われたことを否定できるだろうか。21:00消灯。突如不安に襲われ動悸がする。どうしようもない。それにしても、自分の短い人生の経験上、こちらから好意を抱いた人にはことごとく嫌われてしまうのはどうしてだろうか。

1005日
入院生活88日目。いつも通り寝ぼけながら朝食を食べ、二度寝。昼に起きる。午後、シャワーを浴びる。車椅子に乗って、売店へ。割り箸、使い捨てスプーン、箱ティッシュ、暮しの手帳10-11月号を買う。エスタロンモカ2錠。片足で頑張って体重計に乗る。62.8kg。入院時より8kg痩せた。

夕食。里芋そぼろ煮と青菜ごま和えとお茶で充分食べたという感じがする。胃が小さくなったのか。漠然とした不安感は相変わらずあり。『列子(下)』読み終わる。訳注者である小林勝人のあとがきで、道家における「道」と、カントの言うところの「物自体」との比較、類似性についての文章を読んで頭が疲れた。大学に復帰することを考えると、こういった学術的文章にも慣れておかないといけないなと思って憂鬱になる。消灯後、眠れないのでKindleで石川啄木「一握の砂」読み始める。

1006月
入院生活89日目。昼、リハビリ。今日から筋力トレーニングと称して、よく分からない機械に乗って、ハンドルをつかみ、腕を真っ直ぐ伸ばしたり、曲げたりを10分やる。目の前にテレビが置いてあるが、台風のせいか時々映像が乱れる。松葉杖、一向上達の気配なし。いつになったら退院できるのか。

昼食、カレー。福神漬けが美味い。16:00頃までうとうと。起きて車椅子で売店に行き菓子を買う。胡桃かこい、という胡桃がのった饅頭が美味しい。井村屋の羊羹を食べる。これまた美味い。はじめて病棟で松葉杖を使って歩いてみる病棟の廊下を往復しただけで100メートルを本気で走った後のような疲労感。松葉杖でどこかに遊びに行く、というのはあきらめた方がよさそうだ。

読み進めている、『オノマトピア』から面白いと思った考察を抜粋。

スキャットは、無意味語であると同時に、本来は早口言葉であることが身上だから、子音の組み合わせがミソ。アタックの出せる舌音と唇音の交替による「ダバダバダ=舌唇舌唇舌」はそのひとつの典型。これに歯音でアクセントを加えれば「シャバダバダ=歯唇舌唇舌」となる。

桜井順『オノマトピア 擬音語大国にっぽん考』(岩波現代文庫)

Kindleで石川啄木「一握の砂」読み終わる。歌集というものを初めて読んだ。パンキッシュな短歌が目についてしまったが、基本的には抒情的、生活的な歌集であった。実感がそのまま歌になっているものが多く、親しみやすい。書いてから思ったが、実感を五七五七七に託すのがそもそも短歌か。

◯メモ
撥音「ん」、促音「っ」、拗音「きゃ、しゅ、ちょ、など」

1007火
入院生活90日目。寝ぼけながら8:00の朝食を食べ、二度寝するのは習慣と化している。昼、リハビリ。昨日と同じことをする。十分な睡眠時間はとれているはずだが、眠いとも無気力とも虚無感とも判別できない気分。昼食後、別棟地下にある理髪店に行き、16:30に予約し、一旦戻る。久々に院内カフェドクリエでアイスカフェラテ。

長谷さんからメールあり、フレネシさん出演NGとのこと。それほど期待はしていなかったが残念。代わりに声優のFさんが個人的にやっているという宅録ユニットを紹介してもらう。音源を聴いて、あまり好みではなかったので申し訳ないが断った。せっかく自主企画でやるイベントなのだから、自分が納得できる出演者で固めたい。

16:30より散髪。丸顔に丸髮であまりよろしくない感じになる。もう3、4kg痩せるべし。隣の病室の老女がなぜか知らないが啜り泣いている。いつまでも泣いているので気が滅入ってくる。イヤホンで耳を塞ぎ、ボサノヴァのラジオを聴く。NGがNo Goodの略だと今更知る。

1008水
入院生活91日目。昼リハビリ。松葉杖、一向に上達せず。こんな棒さえ上手く扱えない自分が哀れである。昨日と同じく、眠気、無気力、虚無感に苛まれる。昼食後、売店に行って菓子を買う。ミニ羊羹二つ、胡桃かこい、板チョコ、ブラックコーヒーとともに食べる。羊羹は意外とカロリーがあるので気をつけるべし。

15:00、左足のレントゲン撮影。MさんからLINEで得た情報によると、ゴールデン街の名物ママ、しのさんも、この国際医療研究センターに検査入院しているらしい。二足歩行できるようになったらまた飲みに行きたいと思っていたので、元気になって退院して欲しい。

頼まれている怪獣映画の劇伴を、とりあえずメロディだけでも書き留めておこうと、五線譜にオタマジャクシを書く。おそらく1分ほどの曲完成。やってみればできるものだ。この調子で譜面に慣れていきたい。今夜は皆既月食らしいが、ベッド際の小さな窓からは見えなかった。

桜井順『オノマトピア』読了。万事ふざけた調子で書いてあるかと思いきや、割合と学問的な部分があって、勉強になることが多い。音声学の入門書としてよいのかは知らないが、なんとなくその辺の知識もつくような気がする。

晩年の種田山頭火くらい困窮してますので、サポートしていただけたら米や味噌の購入費に充てたいと思います。