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【文フリ感想②】『千鳥千夜奇譚』『人間椅子-快楽追求編-』『Airmys 非実在探偵小説研究会 15号』

第三十二回文学フリマ東京で購入した作品の感想を書いていきます。


※前回↓


今回は以下の三作。

・『千鳥千夜奇譚』(千鳥千夜行さん
・カードゲーム『人間椅子-快楽追求編-』(ヤマヤタケシさん
・『Airmys 非実在探偵小説研究会 15号』(エアミス研


■『千鳥千夜奇譚』(千鳥千夜行さん

怪奇風実体験エッセイ。
日常生活の中で、「何か」の気配を感じた話などが、実話という体で進んでいきます。

僕はエッセイが好きで、特に「何てことない日常」が好きなので楽しめました。

日常の中の怪奇(フィクションかどうかはぼかしている)という意味で、乙一先生の『小生日記』のような内容かな、と想像していたのですが、
この本にはコメディ的はなく、あくまで怪奇に対して真摯な話になっています。


・特に一つ目の話『龍』が好きです。
自分には目もくれない巨大な存在という点で、地獄堂霊界通信の『神隠しの山』を思い出しました。
僕も、神的な存在が居るとしたら、人間の存在など気にもかけないと思います。

 千夜さんが書いている経験自体は、実は珍しいものではなく、おそらく僕らは誰でも『龍』を感じる機会は与えられているのだと思います。
 しかし、ほとんどの人はそれに気付かない。ただの強い風としか思わない。それを察知できること、一本のエッセイに出来る(その価値を見いだせる)ことが、千夜行さんの何よりの強味なのだと思います。

・『心霊写真』は、怪奇現象とは関係のないコンビニバイトのちょっとやましい行動があまりにも生々しくて、面白かったです。

というか全体的に、「東京で暮らす若者」のリアルな日常(アパートの様子、飲食店バイトで帰りが遅い、野良猫に餌をあげるのが日課など)が赤裸々に描かれている点が面白かったですね。多分、そこを読んでほしい訳ではないのでしょうが。

・本の全体を通して言えば、「幽霊」(の気配)の話が多いのですが、作者は後書きにて「幽霊は信じていない。そう見えるものは残留思念である」という持論を展開しています。「小説家の気質として、こういう現象を曖昧にしておけない」とも。

 この点については、僕は理工学部出身なこともあって、やはり超常現象(幽霊も残留思念も含む)を信じていません。現象の理由を科学に求めてしまうんですね。
 なので、この本のように、実体験として怪奇現象を書くことは出来ないでしょう。残念です。

・装丁について、A4横置きという珍しいタイプの本でした。何だか巻物を広げているみたいで楽しかったです。

・挿絵が可愛らしいです。イラストについてあまり詳しくないのですが、『南国少年パプワくん』の柴田亜美先生っぽさを感じました。
 ※「誰々に似てる」っていう感想、失礼でしょうか。だとしたら、ごめんなさい。


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■カードゲーム『人間椅子-快楽追求編-』(ヤマヤタケシさん

本ではなくカードゲームです。
文芸作品を基にしたカードゲームがたくさん売られていました。
カードゲーム(+ボドゲ)には疎いのですが、江戸川乱歩が好きで、人間椅子は思い出深い作品なので、購入しました。


※ルールなどは公式サイトを参照↓


ざっくり言うと「手札を元に『椅子』を作り、可愛い女の子が座るのを待つ」ゲームです。
可愛い女の子(高得点)をゲットするには、その子の好みを椅子(例えば、黒色・革製の椅子)を作るべきなのですが、
なんと不細工な男(点数マイナス)も同じ好みなので、黒色の革製の椅子はハイリスクハイリターン。
では、どういう椅子を作る? という対戦カードゲーム。

実際遊んでみたのですが、一番の肝は、重要な「人間が椅子に座りに来るタイミング」をプレイヤーが制御できないところです。
そのおかげで、タイミングひとつで絶妙に計画が破綻したりして、悔しがりながら遊ぶことになります。


ただ、友達とワイワイ楽しんで遊ぶには、高得点を狙うというよりも、
「点数は低いけど『蛇の様に妖艶な女』が可愛い! だから絶対ゲットするぜ!」という主観的評価で遊んだ方が面白いかもしれません。
人によっては、マイナス評価の男性キャラが魅力的だということもあるでしょう。

そういう楽しみ方の幅があるので、人間キャラのデザインを全員分けてあるのは大正解だと思います。ゲームデザインって奥深いですね。


■『Airmys 非実在探偵小説研究会 15号』(エアミス研


twitterを拠点をするミステリ創作グループ『エアミス研』の会誌。※2018年発行の既刊
ミステリのショートショート集ということで、面白そうなので購入しました。

・一作目のそして麻里邑圭人さん『そして誰もいなくなった後で』が良かったです。ショートショートなのにミステリ感(謎解きの楽しさ)があり、「そうそうこれこれ!」という感じでした。

・他の作品は、下ネタが多かったのが印象的でしたね。
上と同じ方ですが、麻里邑圭人さん『エロゲ的後期クイーン問題』のオチが想定外で面白かったです。

ただ、男性同性愛者向けの風俗店で働いていた知人(当然男性)いわく、「訓練すれば、気持ちが伴わなくても出せる」そうですよ。だから何という訳ではありませんが……。


・他の作品も、過去の名著のタイトルが沢山出てきて、読んでいて楽しかったです。
 特に嘉祐一さん『栄光ある図書委員の活動』は、ディクスン・カー『三つの棺』の旧訳と新訳をめぐる物語なのですが、僕は『三つの棺』旧訳を中古で手に入れた日に新訳発売のニュースを聞いた思い出があるので、ニヤニヤしてしまいました。
 ただ、やっぱり僕は旧訳版(↓)の表紙が好きですね。



・(失礼ですが)文フリ当日まで『エアミス研』のことを存じ上げなかったのですが、twitterを拠点とするミステリ創作グループなんですね。素敵です。
 しかも、ミステリ書評サイト『黄金の羊毛亭』の管理人さんが関わっていると訊いて、感激してしまいました。
※『黄金の羊毛亭』さんは、いつも参考にさせて頂いている書評サイトなのです。特に『最後のトリック』(深水黎一郎先生)の書評に分かりやすい図を使っていたのと、と『暗黒館の殺人』(綾辻行人先生)の書評が好きです。


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以上です。
「面白かったことを忘れたくない」という気持ちで感想を書いているのですが、作者の皆さんにご迷惑でなければ幸いです……。
まだ何冊か買ったので、また来週読みます。

お読みいただきありがとうございました。


※上記の紹介文のうち、「作者としては、この部分は消してほしい」といった要望がございましたら、ご連絡ください。対応させて頂きます。



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