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オーシャンズ4

CHOT FRESINO

 2018年9月26日水曜日、コロラド州コロラド・スプリングスで4人の10代とみられる少年がマリファナを販売する小売店に強盗に入るという事件が起きた。
警察によると、侵入した少年たちは、Tシャツと紙にタバコ状に巻かれたジョイントを盗んでいったという。
しかし、そのジョイントの中身は
マリファナではなく、オレガノ(ハーブの一種)
だったというなんともマヌケというか、
ドジな犯罪者たちだ。
 このニュースを見たとき、なぜかそのマヌケぶりに、ドジぶりに、親近感が湧くと同時に既視感を覚えた。

 …そうだ。僕の地元にも愛すべき万引き集団
「オーシャンズ4」がいたじゃないか…!

 僕の地元は南大阪だ。どの県でもそうだと思うが、北にいくほどハイブローな人が多く、
南にいくほど治安が悪くなり、知性や品性が感じられない、まともなエデュケイションを受けていないような人が増えてくる。
簡単に言うと、ヤンキーが多いのだ。
この南北問題は深刻だ。

 重複するが、僕の地元は南大阪だ。
南大阪のゲットー(貧困地区)で大学に進学するまで育った。
地元の男子なら誰もが通った、一人前として認められるために必要なイニシエーションがある。「万引き」だ。
早ければ小学生、遅くても中学の間には儀礼を済ませ、仲間からのプロップスを得て一人前の男(漢)になる。

 通過儀礼後は、味を占める輩も多く、常習的に万引きを行い、収穫したシャーペンや消しゴムを学校で売ったり、欲しい漫画を全巻揃えたりしている人も多かった。
 僕たちはせいぜい文房具やお菓子、漫画
止まりで可愛いものだった。彼らに比べれば…。

 「オーシャンズ4」は僕の3学年上にいた。
クルー(仲間)は奇遇にも先述した、コロラド州の事件と同じ、4人で構成されていた。
彼らは5日間で30万円分の商品を
万引きする凄腕集団だった。

 当時は万引き界のフロンティアであり、
ロールモデルでもあった。
彼らが、高いプロップスを得ていたワケ(理由)は、やはり、万引きの手法にある。

 「万引き」というと、普通は監視カメラの
死角や人がいないことを確認して、コソッと
商品をポケットや、カバンに入れるというのが
最もポピュラーなやり方だ。

 映画「万引き家族」でも、リュックを下に
置き、サッと入れたり、治(リリー・フランキー)が店員の前に立ち、死角を作ってその間に祥太がリュックに入れるという抜群のコンビネーションで犯行に及んでいた。

 オーシャンズ4も、4人組だし、オーシャンズというくらいだから、本家ばりに抜群のコンビネーションでもって、クールかつクレバーにやってのけるとお思いかもしれない。
ところがどっこい。んなこたぁない!!

 彼らは非常に大胆かつスピーディーな
ライフハックで行為に及ぶ。

 まず、A君とB君が商品棚が並ぶ通路の右端と
左端につき、店員や人が来ないか見張る。
そして、C君がカバン(結構デカ目)を開き、
棚の少し下でスタンバる。
最後にD君が棚の端から両手を突っ込み横に
滑らせながら、C君が開くカバン目掛けて
商品を根こそぎガッサァー入れるのである。
これを上の棚から、下の棚まで繰り返す。
それだけだ。
 一見完璧なフォーメションに思える
この犯行にも、一つだけ、たった一つだけ、
大きな、あまりにも大き過ぎる欠点があった…
それは、D君がガッサァー入れる時に、

「ウォォォォオオオオオ〜〜〜!!!!」

と叫びながら入れることだった。
なんやろね。少年漫画とかで、よく戦闘の場面で、「ウォー!!」とか「ドリャァア!!」とか、言いながら殴ったり、蹴ったりしますけど、たぶんあの感じ
 D君は闘っているのだ。ナニ(誰)とかは聞かないでくれ。

 …もう、見張り関係ないですやん!
マッチポンプですやん!というツッコミを他所に、D君は棚にある全ての商品を気持ちいいくらい、カバンに入れていくし、C君はきちんと受け止めるし、A、B君は真面目にちゃんと見張るのだ。
彼らが去った後には、塵一つ残らない。
文字通り“根こそぎ”だ。

 やはり、ワック(偽物)じゃない。
気持ちがレイムじゃモノホンプレイヤーに
なれねえ
(©️Buddha brand「人間発電所」)のだ。

イル(ぶっ飛んだの意)でドープ(カッコイイ、
奥深いの意)な彼らのスキルには脱帽せざるを得ない。

 そんな彼らも、やはりいつまでも順風満帆にはいかなかった。
隆盛を極めた彼らにも、平家と同じように
祇園精舎の鐘の音は等しく鳴り響くのである。
 人生は山あり谷ありモハメド・アリ
(©️おやすみプンプン)だ。
完璧に思えた彼らの万引きもついに、バレてしまったのだ。

 呆気なくその日はきた。
その頃になると、粗方欲しいものは手に入れたオーシャンズ4は惰性で、ある種習慣化され、その日は万引きすべくホームセンターに足を運んだ。

 いつものように、A、B君が見張り、C君が
カバンを開き、D君が手当たり次第にカバンに
商品を入れていく…もちろん雄叫びをあげながら。
そして、カバンがいっぱいになると、4人はそそくさと退散するべく、正面玄関に向かい、店を出た。
…あとは、逃げるだけだったのだがしかし、
すでに万引きGメンは正面玄関で待ち伏せしており、店を出た瞬間オーシャンズ4は取り押さえられ、そのままホームセンターの事務所に連&行(連行)と相成ったわけである。

 すぐさま警察とそれぞれの親に連絡され、4人はそれはもう、親にドチャクソ怒られたらしい。
そして、警官に調書を取られ、残るは最後の
お決まりの質疑応答だけだった。

 お決まりの質疑応答とは、警官が一人一人に

「今回が初めてやんね?
これ以外はなにも取ってないね?」

と、質問し、それに対して

「はい、初めてです。」

と答えれば、はい、解散!お疲れ様でした!
と相成るわけだが、そこで、またもや
D君がやらかしたのだ…。

 A、B、C君は先述の質問に対し、
モチのロンで「はい、初めてです。」と答えた。
最後にD君が、警官から質問された。

「今回が初めてやんね?
他になにも取ってないね?」

 すると、D君は前の3人の返答を聞いて
いなかったとしか思えない、驚くべき返答をした。

「…え〜〜〜?!」

後日、D君の家にだけ警察が家宅捜査に入った。

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