桁違いに読書の質が上がる超簡単な読書法

本を読んでて、気になるところがあったら、
その要点をテキストファイルに箇条書きにして、整理しながら読書する。

これだけ。
これだけで、読書の質が桁違いに上がります。

これをやると、「普通に本を読むだけだと、理解した気になってるだけで、実はろくに理解してなかった」と分かって驚きます。

話はこれで終わりですが、
以下の点が気になる方もいらっしゃるでしょう。

どんな人がどんな本を読む場合にもそうなるわけじゃないだろ。具体的に、どんな人がどんな本を読む場合にそうなるんだ?
●そんなの面倒くさくてやってらんない。手間をかけずにやる方法はないの?
●具体的にどうやるとうまくいくのか、もっとちゃんと説明しろ。

そういう方のために、以下、これらについて補足します。





まず、読書を以下の9種類に分類します。


(1)リアルタイム活用読書

読んだ知識を今やっている仕事/生活/趣味にリアルタイムに活用しながら読む方法です。

例:
●マーケティングの本を読みながらマーケティング計画を作る。
●マネジメントの本を読みながらマネジメント作業のToDoリストを作る。
●プログラムの書き方の本を読みながらプログラムを書く。
●小説の会話シーンを読みながら、会話シーンの書き方を分析して、自分の書いている小説の会話シーンを改良する。

直接成果物を編集しながら読む場合もありますし、具体的にどう活用するかをテキストファイルに書き出して整理しながら読む場合もあります。


(2)バッチ活用読書

先程の(1)がいきなり知識を活用するのに対し、これは「理解」と「活用」の2つのフェーズに分けて、読書中は「理解」フェーズに集中する読み方です。

普通に読んで頭に入りやすい本や、自分にとってはそこまで切実に重要でない本の場合、普通に読みます。
一方、ただ読むだけでは頭に入りにくい本で、かつ、自分にとって切実に重要な本の場合、一周目は普通に読みますが、二周目以降は、ポイントをテキストファイルに箇条書きにして整理しながら読みます。
とくに因果関係・時系列・包含関係・重要性・その他の関係性などを整理します。
活用方法を思い付いたら、それもメモしますが、活用方法を積極的に考えるのは後回しにして、まずは、課題解決に使えそうな知識を拾い出して整理することを優先します。


(3)有用でも息抜きでもない読書

「役に立つ読書」と「息抜きの読書」しかしないのは、貧しいです。
なので、仕事/生活/趣味には役に立たないし、読むのは大変だけど、読んで良かったと思う本を読みます。
この読書が多いと、人生が豊かになります。
読み方は自由です。


(4)ザッピング読書

図書館/書店で本を立ち読みしながら、読む価値があるかどうかを、しっかり時間をかけて吟味します。
あるいは、図書館で借りて、読む価値があるかどうかを、しっかり時間をかけて吟味します。
なぜこれをやるかというと、Amazonレビューが当てにならないことが多いからです。
自分にとって価値がある本かどうかは、実際に自分で読んでみないとなかなか分かりません。

これは、お金にあまり余裕のない人ほど重要な読書法、というか、本の探し方です。
お金に余裕がある人は、気になる本はどんどん買ってしまえばいいからです。


(5)付き合い読書

同僚・上司・部下・顧客・友人・恋人と話を合わせるための読書です。
読み方は自由です。


(6)人生活用読書

今やっている仕事/生活/趣味の活動には直接関係ないが、自分の人生を豊かにしてくれる本を読みます。
読み方は自由です。
「(3)有用でも息抜きでもない読書」との違いは、この読書は広い意味で人生の役に立てることを目的にした読書だということです。
(3)は、何かの役に立つことを目的としていません。


(7)息抜き読書

読み方は自由です。


(8)多読

たくさん読みます。
インフルエンサー/YouTuber/ブロガー/書評家/知識人/評論家になりたいとか、多読が趣味だとかでないかぎり、あまりおすすめできません。
普通の人がこれに時間を使うと、その分だけ(1)~(7)の時間が痩せ細り、人生が貧しくなります。


(9)教養読書

教養を身につけるための読書です。
普通の人は、なるべくやらない方がいいです。
教養を身につけるための読書をやれば、その分だけ(1)~(7)が痩せ細って、人生が貧しくなるからです。
そもそも、教養の適性のある人は、(1)~(7)をやっているうちに自然に教養が身につくので、必要ありません。
意識的に教養を身につけるための読書をしなければ教養が身につかないような人は、教養に向いてないので、教養を身につけるのは潔くあきらめた方がいいです。

「ビジネスパーソンに役立つ教養」みたいなのも同様です。
教養を身につけることが割が合うのは、特別優秀なビジネスパーソンだけです。
特別優秀な人が教養を身につけることで、さらなる飛躍をする、というのはありえます。
しかし、普通のビジネスパーソンは、「ビジネスパーソンに役立つ教養」の本に時間を使うと、その分だけ(1)と(2)の時間が減るので、トータルではビジネス能力は下がります。



上記の内、読書のやり方次第で桁違いに質が変わるのが(1)と(2)です。
なので、この記事では、これについて、以下に説明します。


■(1)と(2)の具体的なやり方

普通に読むだけで頭に入る本や、深く理解することがそこまで切実に重要ではない本の場合、普通に読みます。
しかし、普通に読むだけでは、頭の中が整理できなかったり、理解しにくかったり、もやっとする本で、かつ、それを深く理解することが切実に重要な本については、一周目は普通に読みますが、二周目以降は、気になったポイントをテキストファイルに書き出して整理しながら読みます。

具体的には、以下のようにします。

●気になる部分は、因果関係・時系列・包含関係・重要性・緊急度・その他の関係性などを整理する。
●箇条書きは、インデントをつけて、ツリー状にする。
●分からない単語や地名や関連データなどを、必要に応じてググって、それで得られた知見のうち、後で使えそうなものをメモる。(こんな感じに)
●浮かんだ疑問をメモる。
●書きながら自問自答する。
●思い付いたアイデアをメモる。
●一般的な表現で書かれていることは、そのままでは頭に入りにくいので、自分が現在抱えている課題や状況に引き寄せて、自分の言葉で表現する。
●「この作者はこう主張しているけど、実際はこうだよな」「この論理は、こういう風に間違ってるな」「この作者はこういう勘違いをしてるな」「この作者がこう主張しているのは、この作者がこう思いたいという願望の表れだよな」「作者は、この点を見落としているな/思い至ってないな」など、文章からメタ的に読み取った情報のうち、重要そうなものや使えそうなものをメモる。
●その知識を使って、現在直面している課題をどう解決するかをメモる。
●必要に応じてAIと会話しながら自分の考えを整理して、その結果得た知見の要点をメモる。

「書きながら自問自答」については、拙著『最新研究からわかる 学習効率の高め方』の第5巻(上)で詳しく解説しました。以下、その本から、自問自答のサンプル画像を引用します。

ふろむだ著『最新研究からわかる 学習効率の高め方』第五巻(上)より引用

これは、私がカエサルの『ガリア戦記』を読んだときの読書メモの一部です。

こんなメモを書きながら読んで、楽しいか?
と言う方がいますが、
普通に楽しいですし、これ以外の方法ではなかなか到達できない、とても豊かな世界へ入っていくことができます。


■なぜ質が桁違いに上がるのか?

暗算するよりも筆算する方が計算能力が桁違いに上がるのと同じメカニズムです。
筆算では、紙を脳の拡張記憶領域として使うため、暗算よりも思考能力が桁違いに上がります。
読書というのは、「書かれている文章の解釈を創造する作業」です。
これには膨大な計算が必要であり、暗算だけでやるのは無理があります。
だから、テキストファイルを脳の拡張記憶領域として使って、この計算作業をやるのです。

逆に言うと、「暗算」で読めるような本は、いちいちメモなど書かずに、普通に読めば事足ります。


■タイパが悪いのでは?

質は桁違いに上がるけど、時間も桁違いにかかるので、タイパが悪いのでは?
と思うかもしれませんが、
実際には、読書時間が長くなった分以上に得られるものが深く多く強力になるので、トータルではタイパはいいです。


■とくにどんな本でこの読み方が効果的か?

今の自分のニーズにピッタリの分かりやすい良書があれば、それを普通に読めばいいだけです。
しかし、現実には、そんな都合の良い本がない場合の方が多いわけです。
何かしら問題のある本を読まなきゃならないことの方が多い。

たとえば「読みづらい良書」とか。
他の本では得られないような素晴らしい情報が書いてあるけど、いかんせん読みづらい。
そういう本を読むときに、この読み方が効きます。

それから「難解な本」。
あるテーマについて知りたいのだけど、そのテーマについての良質な入門書がなく、良書はあるのだけど、それが難解な場合です。
AIに本を読ませてAIに質問しまくればわかるようになる時代がいずれ来るのでしょうけど、現状のAIはそのユースケースだと使い物にならず、使いものになるのが1年後になるのか30年後になるのか不確定なので、待ってらんない。

今の自分にとって必要なことだけがまとまって書かれている本がなく、分厚い本の中から、あるいは、何冊もの本の中から自分の知りたいことを拾い集めて整理しなきゃならないときも同様です。

英語のドキュメントにも有効です。
雑に浅く理解するだけならDeepLで翻訳したものを読んだり、AIに要約してもらったものを読むだけでもそれなりに助けになったりすることはあるのですが、今の自分にとって必要な情報をちゃんと取り出そうとすると、あれこれプロンプトを工夫しても、抽出されたものは、肝心な点の取りこぼしが多いし、普通に間違ってるところがたくさんあったりするので、いまいち信用ならない。
そこで原文を読むんだけど、自分は英語が母語じゃないので、理解が浅くなりがち。
そういう場合に、自分にとって重要なポイントを、自分の言葉で箇条書きで整理しながら読むと、見えていなかったいくつもの重要ポイントに気づき、理解の質が格段に上がることがよくあります。

昔の人が書いた本を読むのも有効です。
昔の人は、現代人と違う常識で生きているので、昔の常識を前提に書かれた本は総じて読みづらいですから。

ただし、普通に読みやすい本でも、この読み方が効果的な場合があります
それは、メタ情報を読む場合です。
たとえば、文章の書き方を学ぶためにメタ情報を読み取る方法については、以前、この記事に書きました。
メタ情報には他にもいくつか切り口があります。
たとえば、小説のキャラを作る場合、これとは別の種類のメタ情報を取り出します。
これ、説明が少し長くなるので、興味ない人は、以下の説明をスキップして、次の章へ行ってください
たとえば、僕は今、紀元前1世紀にタイムトラベルした二十一世紀人が、ガリアを侵略してくるローマ軍と戦うバトルアクション小説を書いています。(ガリア:現在のフランス・ベルギー・スイス・オランダ・ドイツの一部などにわたる地域)
バトルアクションものって、物理的な戦闘だけでは飽きるので、戦術・戦略・兵站・外交・政治などの知略バトルと物理的な戦闘が密結合したバトル----すなわち、敵兵の死体の山を築くために政治で戦い、政治で勝利するために敵兵の死体の山を築く、みたいなことをよくやるじゃないですか。
なので、その小説の中で、「ローマがガリアを侵略し、数十万人の女子供を強姦・虐殺・奴隷化したこと」をローマ最強の弁護士キケロが正当化するシーンが出てくるわけですが、はたして、二十一世紀からやってきた主人公は、そのロジックをつき崩せるか? 知の巨人と言われるキケロの思考能力は、二十一世紀人の思考能力でも突き崩せないほど高いのか? そもそも、二十一世紀の倫理で紀元前1世紀の戦争犯罪を告発することは可能なのか? 敵の女子供を強姦・虐殺・奴隷化することは時代を超えた普遍的悪と言えるのか? が問題となります。
それについて知るために資料を探すわけですが、塩野七生さんの『ローマ人の物語』は史実と異なる記述が多すぎて、とても信用する気にならない。AIはもっと信用ならず、明らかに間違ったことを言いまくる。いろんな研究者が書いた本も読みましたが、隔靴掻痒、僕が知りたいことが書いてない。
こりゃ、一次資料、すなわちキケロ本人が書いた本や手紙を読むしかないな、と思ったのですが、ぼくはラテン語が読めないので、その日本語訳を読み始めたわけです。
すると、キケロは「『ピタゴラスがそう言ったから』ってのは根拠にならない。権威主義ではなく、理性によって論証すべき」とか「プラトンの『ティーマイオス』に描かれてる宇宙の構造は、理性を働かせず、夢ばかり見ている哲学者が語ってるだけのものだ。プラトンは、いったい、それをどうやって知覚したんだ?(理性的思考をいくら積み重ねたって、宇宙がそういう構造だという結論にはならんやろ(ただの妄想やろ))(意訳)」みたいな趣旨のことを書いていて、めちゃくちゃ理性主義者なこととかがわかったりします。
これなら二十一世紀人と歯車の噛み合ったディベートができます。ローマを心から愛し、誇りに思っていて、自分はかつて弁論によって国家を救ったヒーローだという自負のあるキケロが、国家の命運と名誉というリアルで生臭いものを賭けて、負けられない弁論の戦いを二十一世紀人と繰り広げるシーンが描けます。
つまり、「本に書いてある内容」はもちろん、言葉の端々からにじみ出るキケロの偏見・コンプレックス・事実認識の誤り・独りよがり・論理の飛躍・認知バイアス・引け目・ごまかし・詭弁・欲望・思考のレベル・思考の癖・思い上がり・嫉妬・虚栄心・論理展開パターンなどのメタ情報を読み取って、分析・吟味して、キケロのキャラに命を吹き込むのに、キケロ本人の書いた文章を、この読み方で読むのが、有効なわけです。


■テキストファイルに書くのが面倒くさい問題の解決法

「本を読みながらパソコンでテキストファイルに書くのが面倒くさい」
と言う方がいますが、
その原因の一つは、紙で本を読むからです。
紙の本だと、本から手を放すと、読んでいたページが閉じてしまったりするので、テキストファイルにメモをとるコストが大きくなります。

この問題は、パソコンのKindleアプリで本を読むことで解決できます。
テキストファイルのウィンドウの隣にKindleアプリのウィンドウを並べて読めばいいのです。

Kindleで売っていない本は、裁断してドキュメントスキャナにかけてPDFにして読めばいいです。

PDFだと読みづらいという人は、iPad ProのGoodNotesというアプリを使えば、かなり読みやすくなります。
私の場合、iPad Proをパソコンの左のモニタの下に専用のスタンドに立てて、GoodNotesで読んでいます。
ApplePencilを使ってマーカーで線を引くとかもやってます。


■ググるのが面倒くさい問題の解決法

ググるのが面倒くさいのは、いちいちブラウザのウィンドウを開いたり、並べたりするからです。
テキストファイル、Kindleアプリ、Webブラウザの3つのウィンドウを並べて読書すれば、この問題は解決されます。

3つのウィンドウを並べられないほど画面が狭いのだとすれば、大きな画面にすればいいです。
私の場合、31インチ4Kモニタを二枚差したPCで読んでいます。
左側のモニタは横長、右側のモニタは縦長にしています。

ググるのが面倒くさいもう一つの理由は、いちいち検索キーワードを入力しなきゃならないからです。
パソコンのKindleだと、分からない言葉をマウスで選択すればポップアップメニューが出るので、そこから「Webで検索」を選択すれば、すぐに検索結果がWebブラウザに表示されます。

読書というのは極めて高度な情報処理作業であり、情報処理の効率を上げるためのハードウェアへの投資しだいで生産性が劇的に変わるのです。


■パソコンをいちいち立ち上げるのが面倒くさい問題

パソコンを常時起動しておきます。


■パソコンやiPadだとページの行き来がやりにくい問題の解決法

たとえば、紙の本だと、数ページ前の図を見ながら、文章を読み進めることができますが、パソコンやiPadだとこれがやりにくいです。

この問題は、図のスクリーンショットをとって、その画像をデスクトップの上に貼り付けて読むと解決できます。

また、PDFの場合、複数種類のPDFリーダーアプリを起動して、そのウィンドウを並べながら読むという手もあります。
あるいは、パソコンとiPadの画面を並べて読むのもいいと思います。
いちいちiPadをパソコンのモニタの下に設置するのが面倒な人は、古い方のタブレット端末をパソコンのところに置きっぱなしにして使うといいと思います。私はそうしてます。


■パソコンで読むと疲れる問題

(1)と(2)の目的は、読書自体ではなく、仕事/生活/趣味の質を上げることなので、パソコンで読まないと、読書の質が下がるので、本末転倒です。

あとは、意識付けの問題です。
(1)(2)の場合、テキストファイルを書かずに読むと読書の質が劇下がりするので、「今、質の悪い読書をしてるな……時間を無駄にしてるな……人生を無駄にしてるな……」と感じながら読むことになります。なので、読んでいて、不快です。
パソコンでテキストファイルを書きながら読むと、「今、質のいい読書をしているな……時間を有効に使ってるな……」と感じながら読むので、読んでいて、気分がいいです。
この意識付けができてくると、(1)と(2)はパソコンで読むのが当たり前になってしまって、疲れるからイヤだとかは思わなくなります。

それから、椅子に座って本を読むと疲れるという人は、良い椅子にするか、スタンディングデスクにするといいと思います。
私はスタンディングデスクにして、腰を回したり、身体を揺すったり、くねらせたり、手足をいろいろ動かしたりしながら読んでいます。
同じ姿勢でいるから疲れるのであって、しょっちゅう姿勢やポーズを変えたり、身体を動かしながらだと、意外と疲れないです。
二枚の大画面の前で奇妙なダンスを踊っている人がいたら、それは私かもしれません。


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※この記事は、文章力クラブのみなさんにレビューしていただき、ご指摘・改良案・アイデア等を取り込んで書かれたものです。

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