医師向け睡眠薬本を素人が読んだら驚きの発見がたくさんありました

「医師向けの睡眠薬の本」を、素人の僕が読んだら、驚きの発見がたくさんありました。
ほとんどの医師が患者に言わない重要な事実がたくさん書かれていたのです。

河合真 『睡眠専門医がまじめに考える睡眠薬の本』

以下、素人による内容紹介ですので、間違いなどありましたら、コメントで指摘いただければ、その都度修正します。

この本のタイトルは
『睡眠専門医が まじめに考える 睡眠薬の本』
で、表紙には、

世界の睡眠医学をけん引する 
スタンフォード大学睡眠医学センターの睡眠専門医が贈る 
睡眠薬処方を・考えるときに・まず読む本!

と書いてあります。

この本を患者が読むと、具体的な睡眠薬やサプリに関する驚きの情報が得られたりします。

たとえば、睡眠に効くサプリの一つにメラトニンがあります。
アメリカで大人気で、日本でも愛用者がけっこういます。

この本には、以下のような記述があります。

ラメルテオンもメラトニンも少量ですと概日リズムだけへの作用ですが,高用量になると,逆に概日リズムへの効果が減弱します.
(太字は引用者)

P.64

「概日リズム(サーカディアンリズム)」というのは、ようは、体内時計のことです。
体内時計が正常に動いていれば、眠る時間が来たら眠くなり、起きる時間が来たら覚醒するわけです。
「体内時計が狂っているせいで眠れない」というタイプの不眠症を、このサプリで直そうというわけです。

しかし、「高用量」って、具体的には何mgのことでしょうか?
「iherb」というサイトで「メラトニン」で検索すると、3~10mgのものが多いです。
3mgを選べばいいのでしょうか?

しかし、この本には、以下のような記述があります。

メラトニンの場合にも同様のことが指摘されており,概日リズムへの介入の場合は0.3~0.5mg程度が勧められています.これは生理的に分泌される場合と同じ程度の血中濃度になるためといわれています。1mg以上の用量では普通の睡眠薬とほぼ同じように作用するといわれていますが,概日リズムの効果が消えてしまうのかどうかはよくわかりません.
(太字引用者)

P.64

0.3~0.5mg !?
そんな用量のメラトニンあったっけ?
と思ってiherbの検索結果を下の方までスクロールしていくと、たしかに、500mcg(=0.5mg)というものもありました。
しかし、この検索結果から、500mcgを選ぶ人って、どれだけいるんでしょうか?

ちなみに、お値段的には、1mgのメラトニンを買って、それを半分に割って飲むのがお得のようです。

また、この本のいいところは、睡眠薬や睡眠サプリの作用機序が深く分かるということです。
たとえば、以下のような記述があります。

コウモリのような夜行性の動物ではメラトニンが分泌されると覚醒します. ですから,メラトニンとはあくまでも「夜だ!」という情報を与えるものだと認識してほしいのです.

なんと、動物によっては、メラトニンで、逆に覚醒するのです。
つまり、メラトニンは脳を眠らせるホルモンではなく、あくまで体内時計を「夜」に時刻合わせするホルモンなのです。

人間:メラトニン出る → 夜が来た! → 眠ろう
コウモリ:メラトニン出る → 夜が来た! → 起きよう

となるというわけです。

念のため付け加えますが、厚生労働省の「メラトニン」の解説ページには以下のように書かれています。

概日リズム睡眠障害(睡眠・覚醒リズム障害)に対してはメラトニンが有効ですが、メラトニンのリズム調整作用を十分に引き出すには特殊な時間帯での服用が必要です(寝る前ではありません。時間帯を決めるには睡眠検査が必要です)。

基本的に、概日リズムがバグっているタイプの不眠症にはメラトニンは有効ですが、概日リズム以外の部分が原因の不眠症には、たいして効きません

以下の不眠症は、全て、対処法が異なるのです。

  • 痛みが原因で眠れない人

  • うつ病が原因で眠れない人

  • 睡眠時無呼吸症が原因で眠りの質が悪い人

  • 心不全で横になると苦しいので眠れない人

  • 運動不足で眠れない人

  • 不規則な生活で眠れない人

また、概日リズムがバグっているタイプの不眠症であっても、摂取するタイミングは、睡眠検査をして調べてから決めた方が良さそうです。

ちなみに、この概日リズムは、英語ではCircadian rhythmと呼ばれる睡眠覚醒システムで、頭文字を取って「Process C」とも呼びます。




Process Sのデバッグ

「Process C」の話ばかりしすぎてしまったので、そろそろ「Process S」と呼ばれる睡眠覚醒システムの話をします。
これは、Sleep driveの「S」をとって「Process S」と呼ばれています。
つまり、人体には、複数の睡眠覚醒システムがあって、それらの複合的な影響によって、睡眠覚醒が決まっているのです。

バグの原因が「Process C」ではなく「Process S」の場合は、「Process C」をいくらいじってもダメで、「Process S」をデバッグしないと不眠症は治りません

Process Sの仕組みは単純で、以下のようなものです。

アデノシンが増える → 覚醒を抑制 → 眠くなる → 眠る → アデノシンが減る → 起きる

ようは、アデノシンを増やせば、眠くなるのです。

じゃあ、具体的に、どうすれば、アデノシンは増えるのでしょうか?
この本では下図を用いて仕組みを説明しているのですが、

本書P.30より引用

ここでは、アデノシンの増やし方についてだけ説明します。

我々が食事から得た糖質や脂質は、細胞の中のクエン酸回路などによって、化学エネルギーが取り出されてATP(アデノシン三リン酸)が合成されます。
このATPの中に蓄えられている化学エネルギーを使って、身体の中で、タンパク質を合成したり、筋肉を動かしたり、脳が活動したりしてるわけです。
ATPに蓄えられている化学エネルギーを使ってしまうと、それはADP(アデノシン二リン酸)になります。さらにエネルギーを取り出すとAMP(アデノシン1リン酸)になります。最終的には、一番エネルギーの低いアデノシンになります。

つまり、とことんエネルギーを使い切ってしまえば、アデノシンが増えてProcess Sのサイクルが回って、眠くなるというわけです。

Process Sをハックして眠りの質を高めるには、具体的には、何をすればいいのでしょうか?

イメージしやすいように、ここにアデノシンを入れる容器、アデノシンタンクがあると考えます。
夜までにアデノシンタンクを満杯にできれば勝ち、できなければ負け。
このアデノシンゲームに勝てばいいのです。

このゲームに勝つ戦術・戦略はいろいろあるので、そのバリエーションをいくつか紹介します。



(1)一日の終わりに激しい運動を一定時間以上やる

この本では「睡眠覚醒日誌(Sleep-wake log)」を患者に書かせろ、とあるのですが、その日誌例に、以下のようなものがあります。

水泳教室に行った16日の火曜日の睡眠効率はよいことが見て取れます.

P.125

これ、ぼくも経験があって、激しい運動を長時間やると、よく眠れることが多いんです。
エネルギーを使い切ってアデノシンが増えるからかもしれません。

逆に言うと、朝っぱらから激しい運動をやりすぎると、アデノシンが増えすぎて、日中眠くなってしまいそうです。
実際、僕もその症状が出てからは、朝食前の激しい運動は、短時間にするようにしました。
Meta Quest 3で"The Thrill of the Fight"のハードモードで世界チャンピオンを一回TKOするぐらいでやめておきます。

僕は朝型なので、朝の4時半とか5時から仕事したりするのですが、午後3~5時ぐらいになったら、30分間、全力で泳いで、エネルギーを使い切るようにしています。
30分間、呼吸がかなり苦しいレベルのスピードで泳ぎ続けると、その日の睡眠の質が上がることが多いです。僕の場合は。

ただし、寝る直前は激しい運動はダメです。刺激で覚醒レベルが上がってしまうので。



(2)よく眠れなかった日でも、長時間、脳と肉体を酷使する

よく眠れなかった日は、つらいので、だらだら仕事をしたり、短時間で仕事を切り上げたりしがちですが、これが不眠を招きます。
なぜなら、脳と肉体を酷使しないと、アデノシンの増えるペースが上がらないからです。

よく眠れなかった日というのは、アデノシンを増やすゲームで、十馬身ぐらいリードした位置からのスタートです。
よく眠れなかったということは、アデノシンが十分に減っていないということだからです。
最初からアデノシンがある程度ある状態からのスタートなのです。
せっかく有利な位置からスタートしても、のろのろ走っていたのでは、夜が来る前に、完走できません。
アデノシンがある程度ある状態に甘えず、最初から最後まで全力で走りきって、アデノシンを増やしまくった方が、睡眠の質は上がります。



(3)よく眠れた日は、なおさら長時間、脳と肉体を酷使する

ダラダラ仕事していると、アデノシンが増えるペースが遅く、睡眠の質が下がりやすくなります。
仕事時間が短いのもやばいです。
家に帰ってゴロゴロしている時間が長いのもやばいです。
ダラダラ仕事をして家ではゴロゴロしておいて「よく眠れない」のは、Process Sの仕組みからすると、そりゃそうだろとしか。
仕事も家事も勉強も運動も、長時間、猛烈にやりましょう。



(3)睡眠時間を一時的に短くする

この本では、睡眠時間を一時的に短くする方法が紹介されています。
これも、アデノシンを増やすテクニックの一つです。
睡眠時間が短ければ、睡眠によって十分にアデノシンが減りません。
はじめからある程度アデノシンがある状態=下駄を履かせられた状態から、ゲームをスタートできるわけです。
すると、一日の終わりにアデノシンが多く溜まりやすく、睡眠の質が上がるわけです。
睡眠の質が十分に上がったら、そこから、少しずつ、睡眠時間を増やしていきます。


(4)昼寝を短くする

これはよく言われることですが、これもProcess Sのハックの一種です。
せっかく増えたアデノシンも、昼寝が長いと、アデノシンは減りすぎてしまいます。
そのため、この本は昼寝を30分以内にしろと書いています。


(5)カフェインは午前中

これもよく言われることですが、これはProcess Sのハックと言うより、カフェインによってProcess Sをハックするときの注意点みたいなものです。
カフェインは、アデノシン受容体にくっついて、アデノシンがアデノシン受容体を作動させることを阻害するんです。
そうすると、アデノシンが増えても眠くならないわけです。
これだとProcess Sが機能不全になってしまうので、カフェインが血中に残っていると、睡眠の質が下がってしまうというわけです。
なので、カフェインは午前中だけに、というわけです。




血中濃度半減期と最高血中濃度到達時間

睡眠薬を飲むと、しだいに血中の睡眠薬の濃度が上がっていき、やがて最高に濃度が高くなり、その後、だんだん血中濃度が下がっていきます。

(本書P.77より引用)

この最高濃度(Cmax)に到達するまでの時間を最高血中濃度到達時間(Tmax)と呼びます。
また、Tmaxに到達した後、血中濃度がTmaxの半分になるまでの時間を血中濃度半減期(T1/2)と呼びます。

医師は、TmaxとT1/2を考慮して処方する睡眠薬を決めるわけですが、以下の記述には仰天しました。

最高血中濃度の半分が果たして眠気を催す濃度かどうかはわからないのですが,もしもT1/2を参考にするならば「最高血中濃度の半分以下ならば眠気がないはず」という条件で考えるしかありません
(太字引用者)

本書P.77より引用

なんと「最高血中濃度の半分が果たして眠気を催す濃度かどうかはわからない」のです。
めちゃくちゃ睡眠のことを勉強しまくった「世界の睡眠医学をけん引する スタンフォード大学睡眠医学センターの睡眠専門医」がそう言ってるのですから、単にその人には分からないということではなく、人類の誰にも分からないということです。

睡眠薬を処方された人の多くが薄々気づいていたことだとは思いますが、睡眠医学の権威にはっきり言われてしまうのは、やはり衝撃です。

たとえばデエビゴ(レンボレキサント)という睡眠薬はTmaxが1.5時間、T1/2が50時間です。
ということは、デエビゴを服用してから1.5+50=51.5時間後に、血中濃度が最高血中濃度の半分になるはずです。
なのに、僕がデエビゴを服用してから、6~8時間後には、気分爽快で目覚め、仕事がバリバリ片づくということがよくあるのです。

ここから分かることは、TmaxもT1/2も、あくまで「目安」でしかないということです。
たとえばルネスタはTmaxが1時間でT1/2が5-6時間ですが、そのことから、「ルネスタを飲んでから6-7時間はぐっすり眠れるだろう」とは言えませんし、「ルネスタを飲んでから7時間後には気分良く目覚め、眠気もないだろう」とも言えないのです。

結局の所、TmaxとT1/2がどうあれ、翌日に眠気が残っていたら、「Tmax+T1/2」がより短いものを試してみる価値がある可能性があり、短時間で目が覚めてしまって、それ以上眠れなくなるなら、より長いものを試してみる価値がある可能性がある、ということぐらいじゃないでしょうか、言えそうなのは。
ただし、この本は、処方するとしても短時間作用型で、中時間作用型と長時間作用型に分類されている睡眠薬を処方することは、ほぼあり得ないというスタンスです。




なんで治らない不眠症があるのか?

なぜ、治らない不眠症があるのでしょうか?

それを理解するには、まず「そもそもなぜ不眠症が存在するのか?」を先に理解する必要があります。

それは、「Process C/Sを抑え込んで、無理に覚醒させるシステム」があるからです。

なんでこんなシステムがあるのかというと、「どんな遺伝子が増えやすいか?」を考えれば、あるのが当たり前だとわかります。
「猛獣が襲ってきていても、Process C/Sが眠れと言ってるので眠る」という遺伝子を持った人間が子孫を残せる確率は高いでしょうか?
「若く健康な異性と仲良くなるチャンスがあっても、Process C/Sが眠れと言ってるので眠る」という遺伝子を持った人間が子孫を残せる確率は高いでしょうか?
「良い住処、良い食べ物、金、出世の機会を得られるチャンスがあっても、Process C/Sが眠れと言ってるので眠る」という遺伝子を持った人間が子孫を残せる確率は高いでしょうか?

高いわけないですよね。
だから、我々の多くは、そういう遺伝子を持った個体の子孫ではないわけです。

その部分の解説を、この本から引用します。

せっかくの概日リズムと恒常性の睡眠ドライブなのですが,「時間が来たら眠くなる」「ず一っと覚醒して起きていると眠くなる」というシステムが人間の活動において最優先され,ナニゴトにもまして睡眠と覚醒が入れ替わってしまうと困ることが起きるのです.
例えば、「何かが襲ってくるかもしれない」とか,「明日までに絶対に仕上げないといけない仕事や課題がある」とか,「どうしても大切なデートがある」というときにも「時間が来たら眠る」「ず一っと起きていたので眠る」ことが優先されてしまうと,生命,社会的生命,再生産の機会を失うことになってしまいます.
ですから,上記の概日リズムと恒常性の眠気よりも緊急時の覚醒は優先的に強くできているということを知っておいてほしいのです.ストレスが高い状態になると必要に応じて,
「無理にでも覚醒できる」
ようになっているのです.これが覚醒の中で前述したドパミンやノルエピネフリンなどの強い覚醒作用を持つ神経伝達物質の役割でもあります.この必要に応じて覚醒している機能が概日リズムや恒常性の睡眠ドライブよりも生理的に強くつくられているので,不眠症というものが存在するともいえます.

本書P.37より引用

この「無理矢理覚醒システム」が、起動されやすい個体と、そうでない個体がいるわけです。
どっちの個体の方が遺伝子を残しやすいかは、状況によって異なります。
世の中には多様な状況があり、状況も変化していくので、どちらの遺伝子を持つ個体もいるわけです。
この本では、「もともとちょっと不安神経症があったり,そこまででなくても心配性であったりするなど」を「素因」という言葉で呼んでいます。
そして、「素因はなかなかアプローチが難しいことが多い」と書いています。

それも、考えてみれば当たり前の話で、不安神経症や心配性の傾向の遺伝子を持って生まれてきた人は、遺伝子を変えられないので、どうにもならんわけです。

要するに、Process C/Sを抑え込む無理矢理覚醒システムがすぐに起動しちゃうような性質を生まれつき持ってる人は、Process C/Sのデバッグをいくら完璧にやっていても、「無理矢理覚醒システム」が暴走して眠れなくなってしまいがちだというわけです。

まー、そういうタイプの人の多くは、寛解と増悪をくり返しながら、なんだかんだで、一生、睡眠薬とお付き合いしていく覚悟を決めた方が良さそうだと、この本を読んで、思いました。




サイエンス読み物としても面白い

この本、純粋にサイエンス読み物として読んでも、かなり面白いです。
ブルーバックスみたいなものです。
逆に言うと、この章は、サイエンス(生物学、分子生物学)が趣味の人以外にとっては、サイエンスの用語がたくさん出てきて読んでらんないので、読み飛ばしてください

以下、僕が面白いと思ったポイントをいくつかピックアップします。


▼覚醒の種類

まず、「いろんな種類の覚醒がある」というのが面白かったです。


本書P.17より引用

覚醒には最低でも7つもの神経伝達物質が含まれています.
<略>
例えば,「命がけで逃げたり,戦ったりしなければならない覚醒」と「バケーションでホテルのプールサイドでのんびりする覚醒」は違うのです. まず,ヒスタミンはとりあえず覚醒のすべてにかかわる基本の神経伝達物質なのですが,前者の「命がけの覚醒」にはそれに加え,「フレーバー」としてノルエピネフリンがかかわっていますし,後者の「リラックスした覚醒」には「フレーバー」としてセロトニンがかかわっています.

本書P.17より引用

世間では、セロトニンは、「リラックスさせる」「心を落ち着ける」とよく言われていて、よく眠れそうなイメージがあるじゃないですか。
でも、覚醒度を上げるんですね。

ちなみに、この図の「グルタミン」は、「グルタミン酸」の誤記だと思います。


▼「REM睡眠 ← 覚醒 ← NREM睡眠」の抑制三層構造

本書P.22より引用

脳のデフォルト状態はREM睡眠です。
そのREM睡眠を、オレキシン・ハイポレクチンやノルエピネフリンやセロトニンなどの覚醒系神経伝達物質がかかわるシステムが抑え込むことで、「覚醒」という状態に遷移します。
その「覚醒」をGABAがかかわるシステムが抑え込むことで、「NREM睡眠」という状態になります。

デエビゴやベルソムラは、オレキシン・ハイポレクチンを抑制する睡眠薬ですが、上図を見るかぎり、その薬を飲むと、REM睡眠が多くなりそうです。
REM睡眠を抑制しているものを抑制するのですから、必然的に、REM睡眠の状態になりやすくなるわけです。
一般に、ノンレム睡眠よりもレム睡眠の方が夢を見やすい、もしくは、見た夢を覚えていやすいと言われているので、それらの睡眠薬では、夢をよく見そうです。

一方で、ルネスタやレンドルミンなどのような、GABA系をブーストする睡眠薬の場合、ノンレム睡眠が増える、もしくは、深くなりそうです。
こっちは、夢は減りそうですね。



▼GABAA受容体とGABA受容体の関係

より厳密に言うと、「覚醒」を抑え込んで「NREM睡眠」の状態にするのは、GABAA受容体を中心としたシステムです。

下図に示されているように、GABA受容体は、GABAA受容体の一部なんです。

本書P.56より引用

これ、ネーミングが分かりづらいので、GABAA受容体は、「GABAA受容体複合体」とでも呼んで欲しいところです。

で、この図のとおり、GABAA受容体の構成部品として、GABA受容体とベンゾジアゼピン受容体があります

GABAA受容体はどこにあるのかというと、中枢神経の細胞の細胞膜に埋め込まれています。
具体的には、「大脳皮質」「海馬」「錐体外路」「小脳」「脳幹」「脊髄」とかです。

GABAA受容体は塩素チャネルを持っています。
塩素チャネルというのは、塩化物イオン(Cl-)を通したり通さなかったりする通路みたいなものです。
GABA受容体とベンゾジアゼピン受容体のどちらが作動しても、結果としてGABAA受容体は塩素チャネルを開き、細胞内に塩化物イオンを流入させます。それによって、細胞の興奮が抑制されます。
この塩化物イオンは、あなたが今朝飲んだお味噌汁(食塩=塩化ナトリウムNaClが含まれる)とかの一部だったりします。

この本に掲載されている睡眠薬の一覧表を見ると、ベンゾジアゼピン受容体に作用するものはあっても、GABA受容体に作用するものは見当たりません。

では、GABAを直接摂取したらどうなるでしょうか?
GABAのサプリもGABA入りチョコレートも売ってますから。
しかし、GABAは血液脳関門を通過できないので、食べたGABAがそのまま神経伝達物質として使われることはありません。
血液脳関門というのは、要は、脳の毛細血管です。脳の毛細血管は、血液中のGABAを脳に入れないのです

実は、GABAに血液脳関門を突破させる裏技があります。
それがGHBです。
GHBは、血液脳関門を通過してからGABAに変わる物質なのです。
僕も何度か飲んだことがありますが、めっちゃ急速に眠れます。即座に強烈に効きます
しかし、GHBをこっそりジュースやカクテルに入れて飲ませて強盗や強姦をする人が増えたため、法律で禁止されてしまいました。

ということで、今は、GABAAを作動させるには、ベンゾジアゼピン受容体を作動させる睡眠薬を飲むしかなさそうです。



▼「ベンゾジアゼピン系薬」と「非ベンゾジアゼピン系薬」はどう違うのか?

ルネスタやマイスリーは「非ベンゾジアゼピン系薬」です。
デパスやレンドルミンは「ベンゾジアゼピン系薬」です。

「ベンゾジアゼピン系薬」と「非ベンゾジアゼピン系薬」って、何が違うんでしょうか?

名前のイメージからすると、
ベンゾジアゼピン系薬は「ベンゾジアゼピン受容体」を作動させ、
非ベンゾジアゼピン系薬は「ベンゾジアゼピン受容体じゃない受容体」を作動させそうです。

しかし、違うんです。
どちらもベンゾジアゼピン受容体を作動させるんです。
誤解を招きやすいネーミングですよね。

じゃあ、この二つ、いったい、どこが違うんでしょうか?

実は、ベンゾジアゼピン受容体には、ω1タイプとω2タイプがあります。

「ベンゾジアゼピン系薬」はω1とω2の両方に作用します。
「非ベンゾジアゼピン系薬」主にω1に作用します。

しかし、「主にベンゾジアゼピン受容体ω1に作用する薬」に何故「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬」という名前がついたのでしょうか?

「ベンゾジアゼピン系薬」の分子は「ベンゾジアゼピン骨格」という分子構造を持っているのですが、「非ベンゾジアゼピン系薬」の分子は「ベンゾジアゼピン骨格」を持たないんですね。
「どの受容体に作用するか?」ではなく、「どんな分子構造をしているか?」から名前をつけたので、こういうネーミングになったというわけです。
なんでベンゾジアゼピン骨格という名前になったかというと、縮合したベンゼン環とジアゼピン環が中心となる分子構造だからです。
なんでベンゾジアゼピン受容体は、そういう名前になったかというと、ベンゾジアゼピン骨格を持つ分子が作用する受容体だからです。

まあ、名前の由来なんて、どうでもいいです。
そんなことより、覚えておかないとヤバいのは、ω1とω2の違いです。

ω1: 催眠、鎮静作用
ω2: 抗不安、筋肉弛緩、抗てんかん作用

とくに、病院が変わった時に、注意が必要です。

たとえば、「不眠症」と「てんかん」の両方がある人が、レンドルミンを処方されていたとします。
その人が引っ越したので、病院を変わりました。
すると、新しい病院の医者は、「レンドルミンは古いタイプの睡眠薬だから、ルネスタに切り替えました」とやるかもしれません。
そうなると、てんかんの症状が出てしまうリスクがあります

そんなうかつな処方変更をする医者がいるわけねーだろ。
と思うかも知れませんが、この本では、そういううかつな処方変更をしないように、医師に対して警告しています。
患者も、そういう、うかつな医師がいるという前提で、処方箋をチェックし、その処方箋にした理由を医師に問いたださないと危険だと思います。

あと、ベンゾジアゼピン系薬を処方された場合、ベンゾジアゼピンの長期的影響ベンゾジアゼピン依存症ぐらいは調べておいた方が良さげです。



おわりに

この記事で取り上げたのは、この本に書かれていることのほんの一部です。
まだまだ驚きの有益情報がたくさん書かれているので、睡眠についてお悩みの方は、是非、一読をお薦めします。

この記事の作者(ふろむだ)のツイッターはこちら








※この記事は、文章力クラブのみなさんにレビューしていただき、ご指摘・改良案・アイデア等を取り込んで書かれたものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?