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はじめまして、かとうたかしです。京都市伏見区出身で、東京・八王子市の多摩ニュータウン在住の土木技術者です。

ぶらり町中を歩きながら土木構造物を探索することを趣味にしている私がおすすめする"土木遺産に認定されている橋"を5か所紹介したいと思います。

紹介する橋は、多摩ニュータウンの近場から2橋。そして、私の出身地である、京都・伏見区やその周辺にある橋を3つご紹介します。


土木遺産の探し方

まず、土木遺産を探すには土木学会が選定している「選奨土木遺産」を手掛かりに探すと良いと思います。

もちろん有名な構造物も多くありますが、土木の専門家でさえ聞いたことのない構造物や、すでにその役目を終えて廃墟のようになっているもの、気づかないとその重要性を全く認識できないものなども含まれており

それらのリストを眺めているだけで、先人たちの構造物を作り上げる努力のことが思い出されるような気になります。では、ここから私のおすすめ橋梁(5橋)の紹介です。


【おすすめ①】相模川に架かる新旧ツインブリッジの競演 ~小倉橋・新小倉橋〜

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多摩ニュータウン内は平成に入ってから開発が進んだ地域なので、あまり歴史的な橋梁には恵まれていない場所です。しかし、周辺には実はとても個性的で魅力的な橋があり、まずご紹介するのは、小倉橋です。

小倉橋は、神奈川県相模原市緑区の相模川に架かるアーチ橋です。

この周辺の相模川は、台地をその川の浸食力で大きく削り取り、50m程度の大きな高低差と急峻な断層崖が発達した河岸段丘を形成していて、対岸の段丘に架橋されたのが「小倉橋」です。

小倉橋は、昭和13年(1938年)に建造された橋長176.6m、幅4.5mの4連アーチ橋で、神奈川県が直轄施工した橋梁です。2008年に土木学会選奨土木遺産に認定され、2015年には登録有形文化財にも登録されています。

また、この小倉橋の景観は「新小倉橋」が架橋されたことによってさらに華やかになります。

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新小倉橋は、急峻な河岸段丘を昇降し、橋も1車線しかなく、離合も困難な旧橋に変わり、相模川を一跨ぎする新橋です。津久井地域の大動脈となる道路として建設されました。

新小倉橋は小倉橋よりもはるかに高い位置に1径間のアーチ橋として建設され、平成16年(2004年)に供用開始されたもので、新橋供用後も引き続き現役の小倉橋とともに「ツインブリッジ」を形成しています。

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段丘面の上部は左岸側を中心に市街化が進んでおり、右岸側に完成した圏央道の相模原ICや、津久井地域と市街地を結ぶ幹線道路として活躍しています。

私の偏愛ポイント!
現地を訪れると、小倉橋はもちろん、相模川の段丘崖を往来する道路や、釣り船を出すお店など、舟運が栄えた時代を想像させる施設、すぐ上流にある城山ダムや横浜水道関係の施設等々、土木構造物を満喫できる要素が存分にある非常に楽しいスポットです。その中心にある新旧のツインブリッジ!ずっと見ていても飽きないんです。


【おすすめ②】新快速が走り抜ける鉄道橋~JR東海道本線 七反田橋梁〜

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2か所目は、京都府長岡京市に架かる鉄道橋「七反田橋梁」(JR東海道本線)を紹介します。

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「しちたんだ」と読むこの橋梁のうち、下り(大阪方面)の複線部分については、明治10年に開業した「大阪京都間鉄道」の開業当初からのレンガアーチ橋梁6連が現役で今でも使用され続けています。(上りは1960年代に複々線化により増設されたコンクリート橋)

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2017年度に土木学会選奨土木遺産に認定されたこの橋梁をおすすめする理由は、個人的な理由です(笑)。

私の生家(京都市伏見区の西の外れ)から最寄りのJR長岡京駅まで自転車で往来するときに必ずくぐる橋で、何となくレンガ造りの古い橋とは認識していたものの、そんなに文化遺産的な価値があるものとは知らなかったためです。

私の偏愛ポイント!
幹線鉄道の明治開業当初からの鉄道遺産として現在も活躍する橋です。約150年前に構築されたこの橋の上を1時間に何本も新快速電車が颯爽と走り抜けていく姿を見ると、それだけでも感動するものがあります!

この橋は、もともと近くを流れる小畑川の「避溢橋」※1として作られ、その部分に車道が通じるようになり、その後市街化が進んだようです。

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さりげなく活躍を続ける、実は重要文化財等に指定されてもおかしくない土木遺産、もっと地元でも価値を見直して大事に使い続けてほしいものです。

避溢橋:鉄道の盛土構造物が河川の氾濫時に水を堰き止めないように、この部分は盛土構造とせず、下流側水を流すために作られた橋のこと。読み:ひいつきょう


【おすすめ③】歴史を物語る橋~鴨川運河(琵琶湖疎水)〜

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3か所目は、京都市伏見区に流れる、鴨川運河(琵琶湖疎水)の橋梁です。

実はこれもおすすめ理由が個人的でして、私の出身高校と駅までを結ぶ最短経路で何気なく渡っていた橋が、令和元年(2019年)に土木学会選奨土木遺産に選定されたというものです(笑)。

鴨川運河は、琵琶湖疎水の一部として琵琶湖から京都の鴨川まで通水した水路を、さらに伏見まで運河として通水したものです。

運河ができたのは明治27年(1894年)。当時は舟運が栄え、伏見・墨染にはインクラインや発電所も整備されました。

紹介する橋は、その運河に架かる「北新橋」です。

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私の偏愛ポイント!
この橋は、いかにも過去に船が通っていたことを想像させる、階段付きの太鼓橋のような橋にグッときます。
伏見の歴史を感じる街並みに、近代の土木技術を駆使した運河を築造し、京阪電車が街道沿いを走っている姿は、古い伝統を守りながら新しい技術を取り入れた近代以降の伏見の街の発展の歴史を物語っているようです。

運河沿いをぶらり歩きながら、伏見の味わい深い街並みに溶け込んだ近代土木遺産を歩くのはいかがでしょうか。


【おすすめ④】ダイナミックな現役土木遺産~近鉄京都線 澱川橋梁~

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4か所目は、私が子供時代に、ダイナミックな橋といえば!とイメージした同じく伏見区の宇治川に架かる近鉄京都線の「澱川(よどがわ)橋梁」です。

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この橋は、昭和3年(1928年)の完成で、近鉄京都線の前身、奈良電気鉄道が鉄道を建設する際、陸軍の演習に支障のないように、宇治川の中に一切橋脚を立てない構造形式で建設され、2000年に国の「登録有形文化財」に指定されました。

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私の偏愛ポイント!
ペンシルバニアトラス橋の支間長約165mという、単純トラス橋としては長らく日本一を誇った橋です。この大鉄橋が宇治川にダイナミックに架かり、その橋のすぐ脇や真下にアクセスすることができ、列車の通過を間近に眺めることができる、そのスケール感が実体験できる橋として推します!



【おすすめ⑤】移築保存された優雅な歴史的アーチ橋 ~長池見附橋~

最後の5か所目は、私の居住している多摩ニュータウンにある「長池見附橋」を紹介します。この橋は、大正2年(1913年)に築造された「四谷見附橋」を移設したものです。

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四谷見附橋は、東京・四谷の甲州街道が、皇居の外堀の中を走るJR中央本線を跨いでいました。

東京駅や皇居前広場から四谷にある迎賓館までの海外の国賓等が通るルート上にあり、高欄等には迎賓館を意識した優雅な装飾が施されており、線路を跨ぐ鋼製のアーチ橋や、橋台部分のレンガや石での装飾などが施された、非常に美しい橋でした。

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平成3年(1991年)に道路拡幅工事のために架け替えられ多彩に、多摩ニュータウンの長池公園の一角に移築され、道路橋として現在も供用されています。

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私の偏愛ポイント!
架橋されていた当時の意匠などを忠実に再現している点は必見です。また、再利用されなかった部材等も公園に展示されていて、美しい橋を眺めながら、きれいな公園の中の散策を楽しむことができるのは、私も含めて、散策に訪れる人々の心を和ませてくれる存在です。

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この橋は、平成5年(1993年)に橋梁・鋼構造工学での優れた業績に対して、土木学会賞のひとつとして設けられている土木学会田中賞を受賞しています。


【終わりに】

私の紹介した5つの橋、いかがでしょうか?

みんなが知っている有名な橋というよりは、私が今住むところや生まれ育った場所から近い印象的な土木遺産をおすすめしました。

どの橋も、その地域に溶け込み、長年使われていく間に地域の皆さんに愛される存在になっていると考えます。

皆さんの身の回りにも、暮らしを支える土木構造物が必ずあり、その中には地域のシンボルになっている街のランドマーク的存在のものや、人知れずひっそりと機能を維持し続けているものもあると思います。

そのような地域の土木遺産を再発見し、選奨土木遺産として再評価する取り組みが進んでいます。それらの良さが認識され、新たにインフラツーリズムなどの楽しみ方が定着していけるようになれば良いと思います。

【筆者紹介】かとうたかし
東京・八王子市の多摩ニュータウン(南大沢)在住の建設会社勤務の土木技術者。出身は、京都・伏見区。趣味は旅行や街歩きで、地元・南大沢周辺で少しマニアックな(地図・鉄道などが特に好き)土木屋目線での散歩をした記録を個人のnoteにて公開中。
https://note.com/chatareau 


選奨土木遺産とは?
土木遺産の顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的として、土木学会が選奨した認定制度を平成12年に設立。
(1)社会へのアピール(土木遺産の文化的価値の評価、社会への理解等)
(2)土木技術者へのアピール(先輩技術者の仕事への敬意、将来の文化財創出への認識と責任の自覚等の喚起)
(3)まちづくりへの活用(土木遺産は、地域の自然や歴史・文化を中心とした地域資産の核となるものであるとの認識の喚起)
(4)失われるおそれのある土木遺産の救済(貴重な土木遺産の保護)

選奨土木遺産は、全国に令和2年度までに448件の登録があります。