【偏愛土木写真0011】災害で消えゆく勇姿を記録する
このコーナーでは、土木写真部の部員が一押しの土木構造物やお気に入りの写真をご紹介します。第11回は、福岡県東峰村にあるJR日田彦山線の栗木野橋梁と宝珠山橋梁、第二大行司橋梁です。
カバー写真は、列車が走る栗木野橋梁です(2016年12月撮影)。
日田彦山線にかかる美しいコンクリート多連アーチ橋
ライトアップされた栗木野橋梁(2020年12月撮影)
JR日田彦山線は、大分県の日田駅と福岡県の小倉駅を結ぶ路線で、往時には、「急行はんだ」や「急行ひこさん」が走るなど旺盛を極めていました。
そして、筑前岩屋駅~大行司駅間には、近代土木遺産にも選ばれている「栗木野橋梁、宝珠山橋梁、第二大行司橋梁」の3つの美しいコンクリート多連アーチ橋が架かっています。
戦時中に建設された3つの橋梁
ライトアップされた宝珠山橋梁(2020年12月撮影)
これらの橋は戦時中の昭和13年(1938)に完成しました。
当時は、鉄筋の材料となる鋼材の入手も難しい時代なので、鉄筋を使わない無筋コンクリートの構造が選択されたのではないか?と勝手に想像しています。
同時期に建設された小国町にある幸野川橋梁(旧宮原線)や佐世保市にある福井川橋梁(松浦鉄道)などには、鉄筋の代わりに竹筋が使用されているとの話も有るので、この橋にも竹筋が使われているかも知れません… 建設時の資料がないので真相はわかりませんが歴史ロマンが広がりますね。
豪雨災害の犠牲になってしまった橋梁群
木星と土星が大接近した日の宝珠山橋梁(2020年12月21日撮影)
無筋コンクリートでありながらも状態はけっして悪くなかった3橋梁。
しかしながら、平成29年7月九州北部豪雨により上記3橋梁を含む添田駅~夜明駅間が被災。大変残念ながら当該区間の列車運行は難しく、バス高速輸送システム(BRT)に切り替えることが決定されました。現在、令和5年の運行を目指し復旧工事が進んでいます。
これらの橋を列車が走ることは無くなりましたが、今後もBRT専用道路として人々の往来を支えてくれることでしょう。
ちょっと蛇足ではありますが、上の写真は木星と土星が大接近した日(なんと397年ぶりだそうです)に撮影に行きました。少し見づらいですが、桁下にある星が木星と土星です。
星の部分を拡大したもの
現在は災害復旧工事中!
今年9月に訪れた時は、レールが撤去されBRT専用道化の工事が始まっていました。
JR日田彦山線 筑前岩屋駅付近(2021年9月撮影)
次の写真は災害復旧工事中の3橋梁です(2021年9月撮影)。
栗木野橋梁
橋長:71.20m
径間:14.00m
形式:無筋コンクリート充腹アーチ(5連アーチ)
架橋:1938年(昭和13年)
宝珠山橋梁
橋長:79.20m
径間:14.00m
形式:無筋コンクリート充腹アーチ(5連アーチ)
架橋:1938年(昭和13年)
第二大行司橋梁
橋長:54.90m
径間:14.00m
形式:無筋コンクリート充腹アーチ(4連アーチ)
土木愛好家だからこそできること
近年の頻発する豪雨災害で被災し、残念ながら土木構造物としての生来の役目を終えざるを得ない構造物が増えています。私たち土木愛好家は土木構造物の写真撮影を通じて、「現役時代の最高の姿を記録する役目を負っているのではないか?」と最近感じるようになりました。
土木写真を撮る時のひそかな楽しみ
土木写真撮影時のもう一つの楽しみは、その土地の美味しい食べ物や知らなかった固有の風景、心温まるお・も・て・な・しに出会えることでもあります。
東峰村では、年間を通じて様々なイベントが行われています。
(6月)ほたる祭
(6月)竹棚田の火祭り
(10月)小石原焼民陶むら祭(秋の陶の里めぐり)
(11月)竹棚田ライトアップ秋あかり(実施未定)
(12月)めがね橋(栗木野橋梁、宝珠山橋梁)ライトアップ
※感染症対策の関係で中止になる場合が有ります。訪れる際はHPで開催状況をご確認ください。
最後はライトアップされた東峰村竹地区の棚田の風景(2018年11月撮影)でこの投稿をしめくくりたいと思います。
東峰村は都会の喧騒を忘れて心やすらぐ時間を過ごすことが出来ます。ぜひ一度訪れてみて下さい。
今回の橋の位置
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写真・文:鵜木 和博
59歳。川と花と星をこよなく愛する土木技術者。「土木構造物は知恵とセンスが詰まったオーダーメード」がモットー。風景に溶け込む土木構造物の美しさや建設当時の土木技術者の工夫に魅了され、休日は気ままなドライブへ。Facebookで、水の風景を"九州の水紀行"として紹介中。