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涙のわけ

「記事から曲」応募作品(ジユンペイさん企画)
  あたたかい再出発の物語を、童話風に書いてみました。
  主役はぼく(真珠)と見せかけて涙であったり。
  真珠のようなうれし涙を流せたら・・・
  わたしの果たせなかった夢です。

 

ぽつり ぽつり

水滴が落ちてくる 涙のようだ

そっと目を開けると ぼくは手の上に乗せられている
おじいさんが泣いている

おばあさんも・・・


ぼくは海の底で
大きくなるのじっと待っていた
硬い殻のなか ゼリーのような
とろとろ ぷとぷと のベッドで

かすかな潮の香り・・・
つんつん つんつん
小さな音は 魚が僕の殻をつついているのだろう


長~~い時間がたった

ある日 急にぼくの身体が浮いた
殻の隙間から
光が すーっと 差し込んでいる

がらがら がら~~ん
仲間とぶつかりながら どこかに入れられたようだ

眩しい光で目がさめた 誰かがぼくを磨いている
背中が むずむず
おや 銀色のわっかが付けられている・・・

ここはやけに明るい
ガラス張りのショーウインドウのなかだ
ぼくの新しいベッドは紫のビロード ちょっと狭い

近づいてきた青年がぼくをじっとみつめ
眼をそらし
また じっとみつめ
ついに 意を決したように言った

「これください!」

さわさわ  ぼくの入っている箱に
リボンが結ばれている音だ

次に目覚めると そこは緑一杯の公園だった
さっきの青年が 大事そうにぼくの入っている箱を開け・・・
おやおや ひざまずいたりして

「結婚してください」

「まあ、わたしの誕生石、真珠ね!」

若い女性の声だ 少し震えている
ぼくは彼女の柔らかい指に するん と 大切にはめられた

それからぼくたちはいろんなところに出かけた

三角形をたか~~く伸ばしたような 塔のある街や
お腹に響くような音を立てる時計を見上げたり
三日月が上向いたような船に乗ったり

レストランではブイヤベース
懐かしい海の匂いがした

でも

だんだんぼくの出番が減って行った

そしてある日

「ひどい人ね!」
「誤解だよ!」 そんな声が聞こえた

ぼくはまたあの箱に入れられたままになった



そしてどれくらいたったのだろう?


今日
久しぶりにぼくの箱が開けられた
部屋のなかだ レースのカーテンがふわり揺れている

「ごめん、また二人で生きていこう」
おじいさんはあの日の青年で、あの日のようにひざまずいている

「ええ」

若かった彼女はすっかり年を取って
指にはめられるとき ぼくは関節にひっかかり

がくん

身体が揺れた

涙がまた 落ちてきた

二人の涙だ


              おわり







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