有機無農薬について ~2014社長「食」日記より~

以前、あるお客様から「無農薬や有機栽培の野菜はないの?」という趣旨のご質問メールを頂きました。

それに対して私の返信メールは「もう15年程前から、私どもは「無農薬」や「有機栽培」をことさら前面に押し出してお客様にアピールするのはやめようと決めた事を申し上げました。

その理由は、有機無農薬で作られた野菜や果物は全体の約2%しか流通していない現実から、もしも需要が有機無農薬での作物しか受け入れないとしたら、農事生産者はことごとく全滅してしまう事になり、日本の農業は滅びてしまいます。農業が滅びると言う事は国が滅びてしまう事です。

何事において当たり前ですが、ものにはコストが掛かります。農業も同じ。土に種をまき、水さえやっておけば勝手に作物が得られる・・・なんてお気軽なものでは決してありません。種や苗を購入し、トラクターで耕耘し、ポンプで水を引き揚げ、雑草を摘み取り、ハウスに蜂を放って受粉させ、ハウスの温度を管理し・・・。お金がとても掛かるのが現代農業です。

それでも何時想定外の病虫害が起る事があり、天変地異で作物が全滅する事も有ります。規格外や傷ついたものは出荷できません。農業や漁業の本質は「バクチ」なのです。それでも農家に「農薬は絶対に使うな!」と言えますか?

農薬は薬品です。ピュアな薬品だから管理出来ます。だから農薬は必要な時期に必要とされる最小限を散布する事を管理すればいいのです。

日本では元々農薬の毒性や残留性など大変厳しく管理指導され研究されています。では、農薬を使った作物は完全に安全か?と問われれば否定しか出来ません。誰もそんな保障は出来ません。それはリスク(危険可能性)とベネフィット(利益)で考えていくしかないのではと思います。

食品の世界では絶えずリスクとベネフィットの問題を抱えています。
例えば防腐剤。腐敗による食中毒というリスクか、防腐剤という薬品による毒性のリスクか。いずれにしても悩ましい問題です。

それでは「有機栽培」はどうなんでしょう。「植物は有機物を吸えない!」というのは、多分中学の生物の授業で誰もが習ったはずです。それじゃ「有機栽培」って何?という疑問が当然沸いて来ますよね。

土の中の有機物はミミズや昆虫によって細かく砕かれ、それを微生物が更に分解して無機物に変えて行きます。植物はその無機物を吸って成長します。
従って有機物を土に入れ、最終的に植物の成長を促進しようとするのは理にかなったことです。
 
人は米の一粒たりとも作れません。太陽の光と水と空気(二酸化炭素)によって植物はブドウ糖を作ります。これは無機物から初めて出来る有機物で植物しか出来ないことです。(まあ、光合成細菌などの例外もありますが・・・)

人が出来るのは、植物が健全にすくすく育つ「環境」を整えるだけです。
つまり土作りをするということです。有機物と細かく風化した石の粒は電子的にくっついて土の最小の単位を作り、さらにそれらが集まって団粒化して、水持ちが良く水はけの良い土になって行きます。それは嫌気性の微生物も好気性の微生物も混在する、植物にとって好ましい環境です。そういう意味での有機栽培は素晴らしい。

しかしながら今「有機栽培」と言うとき、人は化成肥料を排した農法と認識する事が多いのです。その人達の脳の中では化成肥料=悪と言う図式が完成されているのでしょう。まさに農薬と同じ構図です。本当に化成肥料を使っては駄目なのでしょうか?

先ほど光合成の話をしましたが、光合成にはリンが必要です。光合成の明反応で2価のリンが3価の形で太陽エネルギーを蓄え、明反応では逆に3価から2価になる事でエネルギーを排出してブドウ糖を作ります。

しかしながらリンというのは親和性が強く、特に火山性の国土である日本では鉄等と結びついて植物が吸える状態のリンは少ない事が多いのです。

ですから植物を育てるのは必ずリンが必要です。リン不足の圃場にリンを補うのはピュアなリンを入れるしか有りません。どのような有機物を入れても必要なだけのリンを得られる訳では有りません。まあリンは化成肥料では有りませんが、私が言いたいのはことほど左様に化成肥料も不足しているものを必要なだけ与える事に何の不都合があるのかと言う事です。

土壌分析をきちっと定期的におこない、足らないものを足りない分だけ入れてやるのは植物の喜ぶ環境にとって良い事だと思います。
面積×耕土の高さで土の重量が分かります。不足している物質の原子量をもとに計算すればその量が分かります。

そうゆう場合の「有機栽培」や○○農法、××農法等、世の中には無限に有りますが、いずれをとっても手段でしか有りません。目的はあくまで「おいしくて栄養のある野菜果物を得る。」ことなのですから。

そこで、「無農薬」や「有機栽培」をことさら前面に押し出してお客様にアピールするのはやめようということにしたわけです。

土付きの大根を販売する等のよけいなパフォーマンスはしません。
土1gには約10億個の微生物が含まれます。それを台所に持ち込むのですか?
曲がったキュウリの方が自然だ! 重力は無視ですか?ただのホルモン異常ではないのですか?虫の付いた白菜は安全だ! 植物の世界も弱肉強食、弱いものから食べられてしまいます。

長年の経験から「有機栽培」=おいしいでもなく、「有機栽培」=安全でもありません。土壌はゴミ捨て場ではなく、きちんと管理されるべきかけがえの無い日本の財産なのです。

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