見出し画像

フリーランスにもメリットがたくさん!チームで作る「労働者協同組合」

フリーランスの皆さんが、社会的信用を高めたいなどの理由で法人を設立しようと考えた時、頭に浮かぶ法人形態はどのようなものでしょうか。

営利目的の法人であれば株式会社や合同会社、非営利法人であれば一般社団法人やNPO法人といった形態を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

株式会社は出資を募りやすいものの株主への説明責任が必須になったり、NPO法人は一般的に会費や寄付から資金調達しなければならなかったりといった制約があります。

このように「いざ!法人化」と意気込んだとしても、「設立目的に合った法人形態が探せない」という人も少なくないのではないでしょうか。

「柔軟な働き方」が可能な新しい法人格が誕生

そうしたなか、「柔軟な働き方」を後押ししようと、2022年10月に誕生した新しい法人形態があります。「労働者協同組合」とういう法人格です。

簡単に言うと、働き手がお金を出し合い、みんなで話し合いながら運営するという法人形態のこと。事業の目的が「持続可能で活力ある地域社会の実現のための事業」という制約がありますが、設立手続きが簡易で済むというメリットがあります。

この法人格は、2020年2月に成立された「労働者協同組合法」という法律をもとに、2022年10月に施行されました。法人格としては、まだ試行から1年しか経っていませんが、現在68法人が誕生しているそうです(2024年1月16日時点)。

提供:厚生労働省 勤労者生活課 労働者協同組合業務室(以下同)

上下関係がない、フラットな組織形態

「労働者協同組合」の特徴は以下の3つです。
①   組合員でお金を出し合う
②   運営をみんなで議論する
③   一緒に働く

たとえば、株式会社なら、資本金を出資する株主、運営を担う経営者、事業を担う従業員(労働者)と役割が分かれます。一方、労働者協同組合にはそうした役割分担は皆無。
働き手が自ら出資し、運営も皆で話し合いで決める。つまり、雇ったり雇われたりといった上下関係がない、フラットな組織形態であることが特徴です。

では、この労働者協同組合という新しい法人格をフリーランスはどのように活用できるのでしょうか。
フリーランス社労士である協会事務局メンバーの山口あす香が、厚生労働省「労働者協同組合業務」の室長を務める水野嘉郎さんに詳しく聞きました!


────「労働者協同組合法」が施行されて、面白い事例が立ち上がっていると聞きました。さっそくですが、フリーランスの参考になりそうな具体例を教えてもらえますか?

水野 兵庫県神戸市の「こども編集部」の事例が面白いと思います。ライターや編集者、カメラマンなど、各々のプロフェッショナルスキルを持ち寄り集まったフリーランスのメンバーで構成されており、ユニークなのは編集部という名前なのに、主目的が情報誌を作ることではないこと。「子どもたちの居場所作り」が第一目的なんです。

「こども編集部」は、もともと兵庫県神戸市で活動していた任意団体なのですが、労働者協同組合の「メンバー一人ひとりが協力して働く」という理念に惹かれて、法人化を決めたそうです。

──── 「こども編集部」のような地域課題を解決するための事業は、まさに労働者協同組合の形態がピッタリですね。他にはどのような事例がありますか?

水野 労働者協同組合の取得第1号となったキャンプ場経営も面白いです。
「テント設営可のキャンプ場が市内にない!」という共通の思いを持っていた地元経営者の方々が、放置された荒廃山林を整備してキャンプ場経営に踏み出した事例です。

三重県四日市の「Camping Specialist労働者協同組合」という事業者の事例なのですが、かなり地域振興で一役買ったこともあって、近隣の自治体から相談が相次いでいると聞きました。
空き家同様、放置された荒廃山林の問題は全国各地域共通の悩みになっていますからね。

──── 地域の方々自らの手で、地域課題を解決するビジネスを生み出しているのですね。組合員の皆さんは経営者ということで、お忙しいと思うのですが、運営も自分たちで担っているのでしょうか。

水野 この法人は地元の経営者の皆さんが副業・兼業の形で自ら運営されています。特徴的なのは、もともと持っていたNPO法人とハイブリッド型の経営をしていること。労働者協同組合に出資した組合員は雇用契約を結ぶことになりますが、ボランティアの方々や兼業副業が難しい企業にお勤めの方については、雇用契約まで結ぶことは難しい場合があります。

そこで、キャンプ場運営に興味を持ち参加してくれるボランティアの方々や兼業副業が難しい企業にお勤めの方については、NPO法人がその受け入れ窓口になって、運営を手伝ってもらっているそうです。

この事例は、労働者協同組合を既存のNPO法人格とうまく組み合わせながら、兼業副業の形で地域の課題に取り組んでいく好事例と言えるでしょう。

労働者協同組合を設立するメリットとは?

──── そもそもの話なのですが、個人事業主として活動していたフリーランスが、労働者協同組合を設立するメリットはどのような点にあるのでしょうか?
 
水野 たとえば、企業と契約したり、行政から事業を受託したりする際、法人格が必要なる場合は少なくありません。そういったとき、労働者協同組合であれば、かなり簡便に法人格が取得できるため、そこは大きなメリットだと思います。

具体的には、労働者協同組合は、NPO法人などとは異なり、行政庁による許認可が必要ではなく、法律上の要件を満たし、法務局で登記をすれば法人格が付与されるため、かなり簡便に法人格が取得できます。

また、一人では受注が難しそうな大きな案件を法人として受注するということも考えられます。フリーランスになられたばかりの場合は特にメンバーで集まって受注力を高めるというのは安心感につながるのではないでしょうか。

その他、副業を行うために設立される方もいらっしゃいます。

──── 副業推進にもつながっているのですね!

水野 そうなんです。兵庫県豊岡市で地域おこし協力隊として活動されている3人が設立したのが「アソビバ」という法人です。

「遊ぶように働きたい」というメンバーの思いがあり、マルシェの開催、地場産品の販売、Web制作などの事業を行っています。

──── 楽しそうですね。ところで、大きな案件を受注する際は業務委託でチームを組むという手もあると思います。どういう違いがあるのでしょうか?

水野 業務委託契約の場合は、発注者が「こういったことをして欲しい」とお願いをして、それを受けることが基本になると思います。一方、労働者協同組合は目的があって、お金を自分たちで出し合って立ち上げるので、自分たちが目指す目的のために主体的に取り組めるというのは大きな違いになると思います。

──── なるほど。法人としての社会的信用を得ながら、「地域の課題に取り組む」という共通の目的に向かって仲間と働けるというのがメリットなんですね。

水野 そうですね。また、フリーランスはそれぞれの専門分野を持っている方が多いと思います。ご自身とは違う能力や個性を持った方たちと一緒に活動をすると、幅広く事業が行えるのでそこもメリットになるのではないでしょうか。

また、あるフリーランスの方とお話をしていたところ、個人でやっているとやっぱり寂しい時があるとお聞きしました。労働者協同組合では、共通の目的を持つ仲間と一緒に何かをしていくというのが面白いと、フリーランスメンバーで労働者協同組合を立ち上げた方が言っていたのが印象的でした。

──── 個人でやっていると寂しい時があるのはよくわかります。やはり仲間がいるっていうのは心強いですね。

水野 チームで仕事をすることで、 たとえばご自身が病気になったり、お子さんが急に熱を出してしまったときに、 チームの中で話し合いながら、「この日は誰々さんお願いね」というふうにお互い助け合って仕事を続けられます。これも柔軟に働ける、一つの形だと思います。

──── 確かに、組合員同士で助け合えるのはフラットな組織ならではですね。他のメリットはありますか?

水野 働き方によって社会保険へ加入できるというのもメリットの一つです。組合員は労働契約を締結するので最低賃金も保証されます。

──── 社会保険に加入できるのは心強いですね。

労働者協同組合の可能性

──── 今後、この法人格の可能性をどのように感じていますか?個人的には、町内会やPTA活動の運営を持続可能な形にするために使えるのではないかと思ったのですが……。

水野 そういった活用の仕方も十分考えられますね。
ある自治会さんで、自治会内で回覧版を回すのが大変になってきたため、その作業を民間企業に委託したという話を聞いたことがあります。
自治会のメンバーでできる人が担当すると、誰かの善意に頼ることになる。それだと、持続可能ではないですよね。そこで、業務として民間の企業に委託したそうなのです。

たとえば、この業務を、自治会内で話し合って、組合員となって、自治会発の労働者協同組合が請け負うというのも面白いと思います。そうすると、誰かの善意に頼ってボランティアで運営するのではなく、ビジネスとして成り立たせる形になるので持続可能性が高まると思います。

また、高齢者の買い物代行なども、地元の住民がボランティアで行うのではなく、法人化して業務として自治体から仕事を請け負っていく。そんなビジネスにも、労働者協同組合の形態はピッタリだと思います。

──── 地域の困りごとを、ボランティアではなく、お金をきちんといただける仕事に変えていく。その手段となるのが、労働者協同組合なのですね。

水野 まさにおっしゃる通りです。これまでの人生の中で培った経験やスキルを使って、地域の中で仕事を生み出したシニアの方々の事例を思い出しました。

──── シニア世代のセカンドキャリアの手段として使えるんですね!

水野 長野県上田市にある、高齢者の方々が集まってできた労働者協同組合の事例です。エアコンの取り付けだとか、仲間それぞれの能力や経験を活かして、地域住民の「お困りごと」を解決する事業を行っている団体です。

立ち上げられたのは、元々団体職員や会社員として活躍されてきた方で、今はシルバー人材センターで健康施設施設の受付のお仕事をされている方。設立した理由をお尋ねしたところ、誰かが決めた与えられた仕事を行うことで生活の糧を得るも大切だが、それだけではなく、これまでの経験を活かしつつ、自分たちの仲間と自分達で考えて主体的な行動するということをやってみたいと思われたそうです。

実際、自分達の経験を活かして、仕事を生み出していくというのは楽しいとのこと。「主体的に行動できる」というのは、自分が働く際の大きな魅力になるんだとお話しを伺って感じました。 

──── 非常に具体的なお話をありがとうございました!
それぞれのスキルを持ち寄って大きな仕事を請け負ったり、副業的に新しい仕事にチャレンジしたり、セカンドキャリアを自ら作る機会に繋げていたり……。
お話を聞いて、たくさんの可能性があることを実感しました。また、柔軟に働く手段として、労働者協同組合とフリーランスは親和性があると感じました。

Q&A  もっと知りたい!労働者協同組合

ここからは、社労士の山口が気になった点をQ&A方式で深堀りした内容をお届けします。設立を具体的に考えている際の参考にしてください。

Q. 設立手続きの「認証主義」と「準則主義」違いは何ですか?

A.  「認証主義」は設立するときに、行政に相談をして許認可をもらう必要があるということ。一方、「準則主義」は法律上の要件を満たし、法務局で登記をすれば法人を設立できます。

Q. 労働者協同組合を立ち上げる際の人数に決まりはありますか?

A.  NPO法人の場合には、10人メンバーが集まらないと法人を立ち上げられませんが、労働者協同組合は3人集まれば法人が立ち上げられます。その意味でも法人設立は非常に簡単といえます。

Q. 労働者協同組合の「働きに応じた配当」とはどのようなものですか?

A. まず、営利法人と非営利法人の違いを説明します。
上の表を見ていただくと、株式会社は営利法人、労働者協同組合、NPO法人、一般社団法人は非営利法人です。「非営利法人」というと、利益を出してはいけないのかなと思われる方も多いかもしれませんが、営利法人、非営利法人の違いは出資したお金に応じてお金が返ってくるかどうかなんです。つまり、出資額に応じて配当が得られるかが大きな違いになります。

Q. 労働者協同組合にも配当があるから営利法人ではないのですか?

A. 出資額に応じた配当ではなく、「働きに応じた配当」なので非営利法人です。

Q. 議決権は出資した比率ではなく、一人一個なのはなぜですか?

A. フラットな組織運営を目指しているため、意見が平等に反映されるようになっています。

Q. なぜ労働契約が必要なのでしょう?
 
A. そこが「労働者協同組合法」を作るにあたって一番議論になりました。労働者協同組合は、みんなの意見を反映しながら働くという点が大きな特徴ですが、組合員が労働者なのか経営者なのかが曖昧になってしまいます。組合員が労働者なのに経営者として扱ってしまうと、労働関係法令が適用されずに、たとえば、長時間労働を強いられてしまうおちう懸念があります。
そういった危惧をなくすために、労働者協同組合で働く組合員はちゃんと労働契約を結びましょうということを法律上で明確化しました。それにより、当事者意識をもって議論に参加しつつも、安心感を持って働くことができるのではないかと思います。

Q. 同じ志を持った仲間が頑張っているからサービス残業ぐらい仕方ないと思ってしまいそうです。上手に運営するコツはありますか?
 
A. ほぼフリーランスで各々本業がある方が集まって設立した組合では、そのメンバーをあえて友達ではない方を選んだそうです。労働者協同組合になると組合員に最低賃金以上はお支払いしなくてはいけないので、労働時間の設定を含め、どうやって法人を運営していくのかを丁寧に話し合ったとおっしゃっていました。
その他、株式会社のようにこの人がトップという形ではないため意思決定に時間がかかってしまう点を補うために、代表者を当番制にするというケースも聞きました。このように、既存の組織に捉われず、皆で自由に運営を決めていけるのも特徴です。

Q. 労働者協同組合に興味を持ったけれど何から始めて良いかわからない、という場合はどうすればよいですか?

A. 特設サイトにはこれまで説明した事例のほか、設立等に関してよくある質問集なども載せてありますので、ご興味を持たれたらぜひご覧ください。

●労働者協同組合特設サイト

イベント開催のお知らせ

2024年1月28日(日):労働者協同組合周知フォーラム〜東日本ブロック〜(オンライン同時開催)

日時:令和6年1月28日(日) 13:00~16:00(予定)
会場:一般財団法人埼玉県勤労者福祉センター ときわ会館 5階大ホール (埼玉県さいたま市浦和区常盤6-4-21)

オンライン:Zoomウェビナー使用
(オンライン参加の方には開催前日までに参加方法をご案内します。)

お申し込みページはこちら!

https://www.roukyouhou.mhlw.go.jp/forum/forum_higashinihon


(取材・執筆)山口 あす香
プレインスタイル代表/社会保険労務士/国家資格キャリアコンサルタント
/健康経営エキスパートアドバイザー/フリーランス&パラレルキャリア支援アドバイザー
大学卒業後、金融機関に入社。その後、ライフスタイルの変化に応じて正社員や派遣社員、パートタイム社員など様々な形態での働き方を経験する。ユーザー系IT企業では、管理、総務部門に8年間所属。現在は社会保険労務士、キャリアコンサルタントとして活動しながら一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会のジョブ創出プロジェクトに従事。「健やかに自分らしく働く」人を増やしたいとの想いで活動中。


※山口は、現在フリパラにて、フリーランスの「労務・総務の素朴なギモン」に答える記事を連載中。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?