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フリーランスと労働者の違いとは?〜裁判例から読み解く法律のお話〜

「もっと法律を身近に感じてもらいたい」と、過去の判例をもとに、痛快な口調で法律を解説する弁護士の林孝匡先生

今回は「3年契約を結んでいる芸能事務所の仕事を断ったとして、賠償金を請求されたアイドル」の判例から、「フリーランスと労働者の違い」について学びます。


さて、フリパラ読者の皆さんは、フリーランスと労働者かの違いを自覚していますか?

たとえば、こんな働き方を強いられていないでしょうか?
・働く時間と場所が拘束されている
・発注者の指示を拒否することが難しい
・1社に専属して働いている
・契約や予定になかった業務も頼まれることがある
・始業と終業の時刻が決められていて、遅れると報酬が減らされる
・報酬は「時間あたりいくら」で決まっている
・受けた仕事をするのに精一杯。他の発注者の仕事を受ける余裕がない

このような方は、契約の名前が業務委託であろうが【労働者】にあたる可能性があります。
そして、覚えておいて欲しいことは、もし【労働者】と認定されたら、いろんなメリットがある、ということです。
仮に【労働者】と認定された時のメリットは以下になります。

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▼ 報酬が想定よりも少なすぎる
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👍 最低賃金相当の報酬を請求できます。
👍 未払い報酬、残業代も請求できます。

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▼ 仕事中にケガをした。
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👍 労災認定を受けられる可能性があります。

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▼「今月で打ち切りね!」と言われた。
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👍 解雇無効を勝ちとれる可能性があります。
👍 判決確定までの間の給料を受け取れる可能性があります(いわゆる「バックペイ」と呼ばれます)。

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▼ 年縛りの契約を締結させられている。
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👍 基本、1年たてば解除できます。

以上のように、もし【労働者性がある】と認定されたら、アナタは労働関係法令によって、守られることになります。

偽装請負など、事実上発注者の指揮・命令下に置かれるなど、実態は労働者のような働き方を強いられているフリーランスも少なくありません。
自分を守るためにも、法律を味方につけることは大事です。


では、ここから過去の判例から解説していきましょう。

取り上げるのは、小学生アイドル vs 芸能プロダクションの事件です。

結論から言うと、この裁判では、アイドルの完全勝訴。労働者だと認定されたことで、3年契約の呪縛から解き放たれました。
アイドルという珍しい職業の事件ですが、「フリーランスと労働者の線引き」の判断とも共通するため、判断要素についても解説していきます。

突然203万円の賠償金を請求される

この事件は、会社が「おい、203万円、賠償しろよ」とアイドルに請求したことから始まりました。理由は「イベント欠席したよね、20回以上も」というもの。

アイドル側の弁護士は、「イベントを欠席する前に、事務所との契約を解除したじゃないですか」と反論。加えて「この方は、実質【労働者】です。ですから、契約から1年たったら解除できるんです」と主張しました。

ちなみに、上記の主張は、以下の法律に基づく主張です。

労働基準法 137条
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第14条第1項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律附則第3条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。

会社はゴネました。
「3年契約だし!っていうか、この子、労働者じゃないよ。個人事業主!」と反論したのです。
ここでの論点は「労働者にあたるかどうか」です。仮に労働者にあたれば、アイドルは勝ちます。

では、 審理した結果 、どうなったでしょうか?
裁判官は
「この子、労働者だね。なのでイベント欠席前の解除は有効」
「会社の損害賠償請求は認めません!」と判断しました。

なぜ、3年契約のアイドルは【労働者】認定されたのか?

では、なぜ裁判官は【労働者】と認定したのか? アイドルの働き方をもとに、見ていきましょう。

彼女は、会社のオーディションを受けた時、11歳(小学5年生)でした。まずは見習いからスタートし、その後、会社と契約を結びました。
契約の内容は、
・専属タレントとなる所属契約
・期間は、3年間

でした。

彼女が所属していたのは、歌ったりダンスしたりする10人くらいのアイドルグループ。そのほかの活動としては、ファンと交流、ファンと散歩、コスプレを着ての撮影会、ファンと2ショットプリクラなどもしていました。
アイドルとしての活動が、かなりキツかったんでしょうか。

そのアイドルは所属から約2年後に会社に対して「グループを辞めたい」とメールを送りました。
「辞めたい」と意思表示をした彼女ですが、会社は「ダメ」と拒否をします。
それを受け、彼女は「もうイベントには出られません…」と伝え、会社と彼女・ご両親との間で話し合いの場が持たれました。

しかし、…決裂。
その後、彼女はイベントを欠席する決断。合計で19回欠席しました。
それに対する会社の主張は以下です。
「君が欠演したからウチに損害が出た!」というもの。

・混乱に対応したスタッフの人件費
・出演していれば儲けられたはずの利益
・ホームページの修正
・写真の撮り直し費用
上記の理由から「203万円の損害が出た!」と主張しました。
ですが、前述の通り、アイドルが勝訴しました。

勝てた理由は、以下の3つです。

・【労働者】と認定されたから
・【労働者】は1年たてば契約を解除できるから
・イベントの前に契約を解除しているから

【労働者】だと認定されたことが最大の勝因でした。

最後の理由となった「イベントの前に契約を解除しているから」ですが、裁判では、「辞めたい」と送ったメールが解除の意思表示と認定されています。口頭ではなくメールなどの証拠を残すことがいかに重要かが分かります。

「労働者じゃない」と反論する会社の主張とは?

一方、会社側の主張は、「この子は労働者じゃない」でした。
その事例として持ち出したのは、「芸能タレント通達(昭和63年7月30日基収355号)」という過去の通達でした。この通達は「芸能人の労働者性」の判断基準を示したもの。

当時、人気のあった年少アイドルが夜間・深夜に労働するのは、労働基準法に抵触するのではないかという議論があったものの、報酬面、税法上の取り扱いなどを鑑みて、「労働者じゃない」とされ、夜間・深夜の業務を事実上解禁した通達と言われています。
この通達を引き合いに出し、会社は「この子は上記4つの要件を見たす」と主張しました。

  1. 当人の提供する歌唱、演技等が基本的に他人によって代替できないこと(芸術性、人気等)。

  2. 上記個性が重要な要素となっている当人に対する報酬は、稼働時間に応じて定められるものではないこと。

  3. リハーサル、出演時間等スケジュールの関係から時間が制約されることはあっても、プロダクション等との関係では時間的に拘束されることはないこと。

  4. 契約形態が雇用契約でないこと

しかし、裁判官は一蹴しました。裁判官と会社との攻防は、ざっくり以下のとおりです。

・ 会社は、「この子は代わりになるような子がいない特別な子なんですよ!」と主張。一方、裁判所は「いや、他人によって代替できないほどの芸術性を有しているとはいえないよ」と押し返す。

・ 会社は、「スケジュールは彼女の要望を受け入れていますよ!時間的拘束性ナシです!」と主張。一方、裁判所は「メールで仕事内容などを指示している。夜間の仕事も多い」「約1年間で、午後8時以降が50回以上もある」「時間的拘束性がない、とは言えない」と受け入れず。

・ 会社は「配慮して、仕事は土日祝に入れていますよ!」という主張。一方、裁判所は、「小学生なんだから当然でしょ!」と反論。

労働者だと、最終的に裁判所が判断した3つの理由

会社側の「芸能タレント通達」を基にした主張を一蹴した裁判所ですが、最終的に「彼女は【労働者】だ」と認定した理由は以下の3つでした。

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1. 指揮監督の下、時間的/場所的拘束を受けていた。
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→ 会社は彼女に対し、メールで仕事内容・場所を送信していた。

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2. 仕事を断ることができない。
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→難しい言葉でいえば、業務内容について諾否の自由がない。

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3. 労務に対する対償として報酬をもらっている。
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→ 判決そのまま。
歩合給を前提とする給与体系がとられており、イベント等におけるメンバーに係る売上げの30%が給与として加算され、その他関連するグッズ等の売上げについても一定の割合で算定・加算され、1ヶ月ごとに給与明細に算定された給与額が記載され、その際、源泉徴収も行われていた。

裁判所は、上記3つの要素をミックスして検討した結果、「彼女は【労働者だ】」と結論づけました。
では、ここで、裁判官はどんな素材をミックスして判断したのかを、法律の文章を基に解説します。

 1. 指揮監督下の労働
  a.仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
  b.業務遂行上の指揮監督の有無
  c.拘束性の有無
  d.代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
 2. 報酬の労務対償性
  支払われる報酬の性格が、発注者等の指揮監督の下で一定時間労務を提供していることに対する対価と認められるか

これらの素材を複合して検討し、「労働者か?」を判断します。(上記1・2を合わせて「使用従属性」と呼びます)

また、「仕事に必要な機械、器具等を、発注者等と受注者のどちらが負担しているか」などの事業性の有無がも判断の際に考慮されることもあります。
各要素を詳説したいのですが膨大な量になるので、詳しくはフリーランスガイドラインをご覧ください(P.17〜P.24。判断要素が整理されている、現時点での集大成です)。

フリーランスか労働者か?」過去にもこんなにある裁判例

過去には、下記の職業の方たちが「労働者か?」を争点に戦いました。400件以上の裁判例がありますが、その一部の職業を紹介します。

・運転手
・美容師
・あんま師、はり灸師、整体師、セラピスト
・ホスト、ホステス
・英会話講師
・保険勧誘員
・保安点検者
・パソコン教室の店長
・県民共済の普及員
・芸能関係者
・フリーカメラマン
・モデル
・管弦楽団、合唱団、劇団の団員
・1人親方
・バイクライダーなどなど

アイドル事件のように解説したいのですが、スペースの都合上できず……・。気になる方は「労働者性 裁判例」で検索すれば出てきますので、参考にしてくださいね。

ちなみに、同じ職業でも、勝った方もいれば負けた方もいます。職業うんぬんではなく、働き方がどうだったのかなどが審理されます。
とはいえ、ご自身で判断するのは難しいと思います。

ですので、この記事を読んで、「この働き方って、もしかしたら労働者かも…」と思った方は、フリーランス・トラブル110番に相談してみましょう(相談無料・和解あっせん手続きも無料です)。

繰り返しになりますが、こんな方が【労働者】にあたる可能性があります。
・働く時間と場所が拘束されている
・発注者の指示を拒否することが難しい
・1社に専属して働いている
・契約や予定になかった業務も頼まれたりする
・始業と終業の時刻が決められていて、遅れると報酬が減らされる
・報酬は「時間あたりいくら」で決まっている
・受けた仕事をするのに精一杯。他の発注者の仕事を受ける余裕がない

今回は以上です。これからもフリーランスの方に役立つ法律のお話をお届けしていきます。またお会いしましょう!

弁護士の林先生

弁護士 林 孝匡
〈プロフィール〉
情報発信が専門の弁護士。働く方に向けて法律を分かりやすくお届けしています。「こんなこと知りたい」などポストしていただければ嬉しいです。これからも有益な情報を届けまくります。
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