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「古民家への憧れ」なんてなかった私が築100年近い家を買うことになるなんて ~連載「母子移住のススメ」第3回~

子どもが小学校に上がるタイミングで東京から長野県の佐久穂町へ「教育移住」をした私は、推定で築100年ほどの古民家に住んでいます。「古民家に住みたい」願望など特になかった私がなぜこの家にたどり着いたのか、今回は移住先での家探しを振り返ります。

前回までの流れ

「とにかく物件が少ない」と聞いて……

私が移住先の住まい探しについてうっすらと意識し始めたのは、移住する1年半前、後に子どもが入学することになる「大日向小学校」の体験プログラムに参加したときでした。

その場に佐久穂町役場の方や地域おこし協力隊の方がいらしていて、住まいや地域のことをいろいろ教えてくれたのです。

地域には空き家がたくさんあるので「空き家バンク」への登録を呼びかけているがまだまだ登録件数は少ない、町営住宅もあるが空きは少ない、民間の不動産屋が扱っている物件もかなり少ない……といったことお話をしてくださいました。

「とにかく物件が少なそうだから、移住するなら早めに探したほうが良さそうだ」という認識を持ったのがこのときでした。

同時に、スクールバスの運行経路、病院やスーパーの場所、佐久穂町に隣接する佐久市との距離感や交通事情なども伺い、「この学校に通うなら、佐久穂町内か佐久市に住むのが良さそうだな」というイメージが持てました(小さいお子さんがいる方は、保育園の場所などもポイントになりますね。また、大日向小学校に通う場合、佐久市の向こうの軽井沢の方に住む方もいらっしゃいますし、佐久穂町の隣の小海町なども選択肢に入ると思います)。

2日で10件の家を見学。可能性のある家は全部見た!

早めに動いた方が良いとはいっても「まずは学校への入学が決まらないことには…」ということで、実際に動き出したのは移住の半年ほど前の2019年9月です。

この頃に学校の募集要項が発表され、11月上旬に願書の受付が始まり、中旬にオンラインで面談、下旬に結果が通知、というスケジュールが分かりました(2020年4月入学の場合のスケジュールです)。

今は感染予防のため実施されていないのですが、当時は出願前に平日の学校見学をすることが推奨されていました。なので10月中に学校見学に行き、そのタイミングで物件を見て回って目星を付け、11月に入学が決まったらすぐ住む場所を押さえようともくろみました。

せっかくなら学校のある佐久穂町に住んで地域との関わりも深めていきたいと考えていたので、まずは佐久穂町で探し、どうしても見つからなかったら佐久市も見てみるつもりでした。

そこで、町役場に空き家バンクの利用申し込み書(物件を見学させてもらうために必要でした)を送ったり、不動産屋さんに「10月◯日に東京から行くので、この物件とこの物件を見たい」という連絡をしたりの調整をし、10月後半の土日に子どもを連れて佐久穂町に行きました。

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(見学中のお家にて。子どもも色々な家が見られて面白かったみたいです。)

学校見学もあったので、初日の午後と2日目の午後の正味5時間くらいの間に、10件の家を見て回りました。

内訳は、予め町役場にお願いしておいた空き家バンクの物件5件、2つの不動産屋さんにお願いしておいた物件3件と、その場で不動産屋さんが「他にもあるけど、見てみる?」と言ってくれた2件です。

都会では、インターネットでちょっと検索すればたくさんの候補が出てきます。でも佐久穂町の場合、事前に洗い出した8件が「ここなら住めるかもしれない」と考えられる全部でした。8件のうち賃貸物件はひとつだけ。「賃貸」と限定していたら、佐久穂町に住むのは早々にあきらめなることになったかもしれません

「空き家バンク」ってどんな感じ?

「空き家バンク」とは、自治体が、住民から募集した空き家の情報を住まいを探している人に提供するマッチングの仕組みのことです。

細かいシステムは自治体によって異なり、佐久穂町の場合は以下のような仕組みで住まい探しができるようになっていました。

1.町が運営するウェブサイト上で物件情報を確認(住所、価格、間取り、築年数、補修の要不要、外観や内部の写真など、わりと詳しく掲載されています)

2.見学をしたい家があれば町役場に申し込む(原則として見学希望日の一週間前までに)

3.町役場の方と該当する物件を扱う不動産業者の立ち会いのもとで見学

4.契約を希望する場合は不動産業者と交渉や契約を行う

佐久穂町の場合、間に不動産業者さんが入るので仲介手数料が発生します。自治体によっては空き家の所有者から直接購入したり借りたりするところもあり、その場合は手数料はないのが一般的です。

お隣の佐久市の場合はどちらの形式もあり、業者が間に入らない場合、市役所に見学の希望などを伝えると所有者の連絡先が伝えられ、直接連絡をとって話を進めることになるようです(知人はその方法で家を借り、毎月現金手渡しで賃貸料を支払っているとのこと)。

私が5軒の空き家を見て感じたのは、とにかく「生活感があるな〜」ということでした。

都会で不動産屋さんが仲介する物件は、中身は空っぽできれいにクリーニングしてあるのが普通です。ですが空き家バンクの物件は、前の住人の方の持ち物がたくさん置きっぱなしになっているのが常で、ある程度掃除はしてあるものの「すごくキレイ!」とは言えない状態でした。

また、「ここに住むなら屋根を直さないと雨漏りが心配だね」とか、「トイレがくみ取り式のままなので、入居前に浄化槽の設置が必要です」とか、今あるものをどかして掃除すればすぐに住めるわけではない、というところもありました。

とにかく「前の住人の持ち物がたくさんある! これで住めるの?」というのが気になって、どの家でも「これ、撤去してもらえるんですか?」と聞きましたが、大体の場合は「入居されるまでには撤去すると聞いてますよ」というのが役場の方の答えでした。契約することになったら所有者の方と相談し、そのまま使わせてもらいたいものは譲ってもらうとか、「残置物の撤去もこちらでするので、家の価格をその分安くしてくれないか」とか、そういう交渉もありのようです。障子の破れや水回りの修繕などの負担を売主と買主とどちらがするかなども、交渉事項になります。

築100年近い古民家に決めた理由

ここまで空き家バンクのことを詳しく書いておいてなんですが、最終的には不動産屋さんが扱っていた築100年近い古民家を購入することになりました

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(引っ越しの荷物を入れる前の状態。畳は新しくしました。)

他の家と比較検討したポイントは、子どもの学校へのアクセス、自然災害のリスクなどいくつかあったのですが、私にとって大きかったのは「すぐに住めるか」「好きになれるか」でした。

前述の通り、空き家バンクの家は「屋根を直す」「浄化槽を設置」などの工事をしないと住み始められない家が多くありました。もともと候補に挙げていたのは古い家ばかりだったので、「せっかくだからDIYでリフォームなんかも楽しみたいなぁ」なんて考えてはいたのです。でもそれは「住みながらゆっくり」というイメージで、住む前に色々手をいれなければいけないということはあまり考えていませんでした。年末に契約して4月に学校が始まるまで、東京と長野を行ったり来たりして家の修繕などをするのはなかなかタイトだし体力も使うなぁと考えると、なんだかゲッソリ……。

また、これらの家は築40年前後のものが多く、昭和らしさが満載。DIYで素敵にしようにもなかなかハードルが高いなぁとも感じました。どうせ修繕にお金をかけるなら愛着を持てる家にしたい。そう考えると、なかなか「これ!」と思える家はありませんでした。

その点、今住んでいる古民家はものすごく古いけれど、数年前まで人が住んでいたのでトイレは水洗だしお風呂も現代風のユニットバスで、とりあえずすぐに住める状態ではありました。そして、おそらく大正時代に建てられた家ということで、すごく雰囲気がある。頑張れば古民家カフェ風の素敵なインテリアにもできちゃうかも! なんて妄想が膨らみました。

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(古民家なのにお風呂はごく普通のユニットバスで、なんだか安心しました(笑))

まずは仮住まいを始めてからじっくり探すのもおすすめ

特に「古民家に住みたい」という願望があったわけでもなかったのに、古民家に住むことを決めた私。「移住します」と言ったときと同じように、これまた周りの人から「勇気があるね」「すごいね」と言われがちです。確かに、現代的な家に住むのと比べて不便も多そうだし、何よりも昔の家は寒いですからね……。

実際のところ暖房を付けていない部屋はすごく寒いし、例えばトイレの換気扇や台所や寝室の火災警報器など、「普通の家には当然ついている設備がここにはなかった」みたいなことに住み始めてから気づいて自分で取り付ける……といった手間もあります。それでも、この家を選んでよかったな、と思います。

これから少しずつ手を入れて愛着のわく家にしていく楽しみもありますし、何よりも「人を呼べる家」であることが大きいです。

住み始めて気づいたのですが、広い家なのでちょっとした集まりができたり、「あの家に住んでるの? 中を見てみたい!」と言われて「どうぞどうぞ」とお招きしたり、家がまわりの人と仲良くなるきっかけを作ってくれるのです。これは、社交ベタな私にとってはものすごく価値のあることでした。

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(玄関を入ってすぐの広い空間。母子2人では正直あまり使わない場所ですが、お客様をお迎えするにはとても良いです。)

そんなわけで、私にとって移住先での家選びはかなり成り行き任せではありましたが、今のところ結果オーライです。

この家に巡り会えたという運も大きいと思います。ですので、私のやり方を誰にでもオススメできるわけではありません。

余所から来るときは空き家バンクと不動産屋の情報ぐらいしかないのですが、住み始めて地域とのつながりができれば、口コミで家や土地の情報が入ってくることもあります。早めに「ここかな」と思える家に出会えればそこに決めるもよし、そうでなければ、とりあえず仮の住まいを見つけ、じっくりと気にいる家を探したり、あるいは新築したりというのも良い方法ではないかと思います。

やつづかえり
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年に組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018.3)。Yahoo!ニュース(個人)オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、ICT、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。

やつづかさんPH

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