自分まかない#04フランスパンと茶わん蒸し
フリーランスは、自分で働き方を決められる割に忙しない。目の前の仕事を言い訳に、ついついおろそかにしてしまうのが食事だ。けれども食べるは“生きる”の源。簡単でも自分でまかなうことは、己をいたわる行為でもある。フリパラ編集メンバーでライターのジャスミンと、5分でめぐる食の冒険。
………あっつい。ひたすらに暑い。
ここ数年の東京の夏(というか日本の夏)は、なんなのだ。
ヒトの体温に迫る気温に、湿度の高さよ。じっとしているだけで、肌に熱気がまとわりつく。世間は夏休みで仕事をする気も失せているというのに、ご飯をつくる気力など、なおのこと失せてしまう。
だからといって、食べないのは悪手だ。今はよくても、夏の終わりに“バテ”が来る。食欲のあるうちは、滋養のあるものを程よく食べておく。これが酷暑を乗り越える秘訣だと思う。
つくるのに火を使わずに済んで、そこそこ栄養のありそうなものものって何だ…? 考えを巡らせて行きついたのが、コンビニやスーパーで見かける「茶わん蒸し」だ。
茶わん蒸し。小さい頃はよく、母親がハレの日の食卓に並べてくれた。大人になってからは、会席料理のイメージ。だしがきいてトゥルン(注:“つるん”ではない)とした喉ごしに、ホッとさせられる。匙で掬って銀杏やエビを見つけるのが、また宝探しのようで楽しい。
個人的にはどうも手づくりの印象が強くて、市販のものにはなかなか食指が動かなかった。だけど冷蔵庫から出して冷たいまま、フィルムを剥がしてすぐあの“トゥルン”に会えるのなら、こんな便利な代物はないではないか…!
ということで、今日はこのコの力を借りることとする。軽食のノリで食べられる、ブルスケッタ風の一皿に仕立てよう。
ブルスケッタはイタリアの料理で、カリっと焼いたパンにニンニクをすり込んで、好きな具材を載せるオープンサンドだ。よく見かけるのは、トマトにアンチョビやバジルを和えたものが載っているイメージ。
まずはフランスパンを3cmほどの厚さに切って、オーブントースターで焼き目をつける。具材を載せても転がらないように、端は切り落としておく(この端っこは、つまみ食いしてよし)。
続いてバジルの代役を担う、大葉を千切りに。大葉は意外とアクが強くて、色がくすみやすい。切った後に水にさっとさらして、キッチンペーパーなどで水気を拭っておくと美しい色味を保てる(アク抜きした水は、体によさそうな気もしなくもないが捨ててよし)。
そしてトマト。今回は贅沢にもフルーツトマトを使ってみた。ひと口に切って、種は水気が多いので適当に取り除く(取り除いた種は、食べても捨ててもよし。わたしは食べる派)。
柚子こしょうはニンニクに代わってのアクセント。オリーブオイルでといて、トーストしたフランスパンに塗りたくる。
そうしたら盛り付けだ。茶わん蒸しをスプーンですくってパンに載せる。崩すほどだし汁が溢れ出るので、細かくし過ぎないようにするのがコツ。大きな具材は表に出すようにすると、見栄えもよくなる。さらにトマトを載せ、大葉をあしらったら完成! 余った具材はテーブルに並べ、追い載せすればいい。家で食べるのだ。そのくらいの気楽さでいいのである。
実を言うと、盛り付けている間は少し焦っていた。なぜなら汁気の多い具材で、パンがぐっじゅぐじゅになるのを恐れていたからだ。でもひと口食べて気が変わった。この“ぐっじゅぐじゅ”が、何ともうまいのである。
パンの端っこは香ばしさを残し、内側は茶わん蒸しのだし汁を吸ってじゅわ~っととろける。そこにトマトのフレッシュな甘酸っぱさと、柚子こしょうの辛さが追ってくる。そこにときどき、エビやら肉団子やらきのこやらと茶わん蒸しの具材が「やあ」と現れて、口の中が雑多になるのに妙に心地いい。
思っていた以上に美味。これが日暮れどきで、脇にスパークリングワインかビールがあればもっと最高なんだけど。
束の間バカンスを妄想して、仕事に戻るとしよう。
〈材料〉
――茶わんむしのブルスケッタ(1~2人前)
・フランスパン(バタール):15cm程度
・茶わん蒸し(市販のもの):1つ
・トマト(あればフルーツトマト):小1~2個
・大葉:2~3枚
・オリーブオイル:大さじ1
・柚子こしょう:小さじ1/4程度
※茶わん蒸しはバラ売りのものを使用。4パック入りなど小ぶりのものは量を加減する。
〈ひとこと栄養メモ〉
茶わん蒸しの主な材料は卵。ここに鶏肉やエビなどが加わります。肉や魚のおかずには劣りますが、食欲がないときのタンパク質補給におすすめです。またしそ(大葉)は、隠れた緑黄色野菜。βカロテンのほか、カルシウム、ビタミンB群を多く含み、不足しがちな栄養素を補ってくれます。(管理栄養士・たなべやすこ)
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