結局「あの人」は誰だったんだろう? ~オンラインだけで完結してしまった仕事と恋~
はじめまして。作家の島田佳奈と申します。長らくシステムエンジニアと執筆業という、いわゆる「二足の草鞋」を履いております。エンジニアはWeb系、執筆の得意ジャンルは恋愛です(AllAboutの恋愛ガイドもやっています)。
複数の業種・業界など制約なく、自身のキャリアおよび得意分野、ただ「好き」という情熱だけで仕事を獲得したり生みだしたりできるのは、フリーランスの強みですね。
そんなフリーランス人生において、私自身が経験した、あるいは目撃したり仕事仲間から見聞した「フリーランスならではの恋愛事情」を、できるだけ個人が特定されない(フィクション)レベルに脚色してお届けします。
コロナ禍の婚活(と仕事)は、デジタルリテラシーが左右する
15年以上やってきた執筆業においては、対面で打ち合わせをすることが年々減ってきました。
そもそも執筆の仕事は、依頼から原稿提出までメールだけで完結させることが可能です。連載企画、取材、書籍の打ち合わせなど、担当さんやインタビュー対象者とはリアルで会うこともありますが、コロナ禍以降、それすらもZoomへと移行しつつあります。
そんな折、婚活中のライター・A美(仮名)から面白い話を聞きました。
オンラインだけで出会いから進展(?)したのは、フリーライターという職業柄ならでは……かもしれません。
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「Zoomに慣れてくると、なんか会わなくても『会った』気になっちゃうよね」
緊急事態宣言が出ていたこともあり、当時は婚活市場も混乱していました。いくらアプリでマッチングしようと、なかなかデートにこぎつけることができないのです。
A美は困難に燃えるタイプ。過去6年にも渡る愛人生活で「女としての一番いい時期」を逃し(本人談)、現在は仕事の合間にマッチングアプリで婚活しています。不倫相手が離婚するのを根気よく待つよりもずっと、建設的な生き方です。
いくらマッチングしても「緊急事態宣言が明けるまでは……」とリアルのデートが実現せずやきもきしていたA美。
女の賞味期限(!)を考えたらコロナなんか恐れていられないA美に対し、マッチングした男性からは「こんな時期に婚活デートが原因でコロナにかかったら、会社で何言われるか」「初対面の相手からうつされるのは勘弁(だからデートは延期)」という本音が透けていたそうです。
「だったら『オンラインデート』すれば?」
私からのイージーな提案に「それだ!」とひらめいたA美は、その後マッチングした男性とオンラインデートを楽しむようになりました。
最近はLINEやSkypeなど無料アプリでオンライン通話ができます。「オンライン通話(ビデオチャット)」機能を備えているマッチングアプリもあります。デジタルリテラシーと「オンラインでもいいから会ってみたい」情熱さえあれば、動くナマの相手と会話を楽しむことは容易に叶えられるのです。
すでに仕事でZoomやGoogleMeetを使いこなしていたA美。画面越しの対面に抵抗感はありません。ネットの向こう側にいる男性も、女性からの誘い、しかもオンラインとなれば気軽に承諾してくれました。A美の提案を却下した男性は「ガラケーしか持っていない」アラフィフの男性だけだったそうです。
オンラインデートは会うよりも簡単。だけど……
A美によると、見知らぬ相手とのオンラインデートは「顔が見えるぶん、電話より沈黙しても困らない」とのこと。
いくら事前に写真やメールで相手を知っていても、会ったこともない人といきなりの会話は誰だって緊張するもの。挨拶のタイミングで相手の笑顔が見えれば、それだけで多少はリラックスして話せそうです。
「しかもオンラインなら『顔』と『髪型』さえ整えておけばいいので楽」
マッチングした相手との初デート(リアル)ともなれば、外見にはとても気を遣います。第一印象が悪くならない、かつ個性を殺さない程度のコーディネートを用意しなければならないし、メイクからヘアからネイルまで「ベストな私」を造るにはそれなりのお金がかかります。私も6年前にマッチングアプリで婚活をしていたので、その苦労はよくわかります(現在はそこで出会った運命の人と再婚)。
「ビデオチャットなら、上半身しか見えないしね」
A美いわく、アプリによってはLIVE状態の顔さえもアプリ(SnapChatなど)で加工できるため、メイクが面倒なときはZoomのカメラにスナチャを設定して済ませていたとのこと。なかなかのツワモノです。
「ところでオンラインデートって、向こう(男性)はどんな感じなの?」
「それがさぁ……」
待ってました、とばかりにA美は愚痴をこぼし始めました。
オンラインデートならではの「隙」に惚れることもあれば、萎えることもある
「ぶっちゃけ、会わないうちに自宅を見ちゃうのは微妙だね」
A美がこれまでオンラインデートにこぎつけた男性のうち、7割はその会場を「自宅」にしていました。ビデオで通話となれば声も出すため、屋外や出先で行うのは簡単ではありません。電話同様、やはり自宅でリラックスした状態がベストなのでしょう。
画面越しとはいえ、初めてのデートです。まだ相手をよく知らないうちに目に入るのは、彼の顔だけではありません。
「背後に干した洗濯物が見えた瞬間(Zoomから)落ちようかと思った」
「あー、それは萎えるわ」
ビデオチャットをやったことのある人ならわかると思いますが、相手の画面に映る背景って、意外と目につくものです。
とはいえ(オンライン上の)壁紙をセットすれば、簡単に背景は隠せます。それすらせず、洗濯物が見えても気にしないような人。
そんな彼は……
ポジティブに解釈すれば、何を見られても気にしないおおらかなタイプ。
ネガティブに捉えれば、周囲を気にしたり配慮することができないタイプ。
ではないかと。
洗濯物を干していない部屋で話すことだって、できたはず。
それとも、他の部屋がないほど狭いワンルーム暮らしなのか。
悪い想像ばかり膨らんでしまったら、会話なんか頭に入りません。
「もちろん、そんな人ばかりじゃなかったんでしょ?」
「うん、パーフェクトな人もいたよ。でも……」
ストロングな缶チューハイを飲み干して、A美は溜息をつきました。
オンラインで意気投合! だったらリアルは……?
通称「パーフェクト」氏(以下P氏)は編集者(自称)。新規のWeb媒体を立ち上げる準備中とかで、コロナ関係なく忙しすぎてリアルの対面はおあずけのまま、A美とオンラインデートを重ねました。
「デートもしたいけど、仕事も一緒にできたらいいね」
ライターのA美にとっては願ってもない話。どちらに転んでも得しかないと、ひそかに喜んでいました。
リアルデートが実現しないまま、P氏から依頼を受けて原稿を2本書いたA美。
カフェ紹介記事のほうはコロナ禍で一時休業中のところを無理言って開けてもらって取材したり、書評のほうは指定された書籍3冊を読み比べてレビューするなど、決して簡単なものではなかったそうです。
すべては、まだ会っていないP氏に褒められたいという下心。A美は言われるがまま原稿を提出し、契約書をオンラインで完結しました。
「その原稿料、びっくりするくらい安かったのよ」
「事前に確認しておかなかったの?」
「ついうっかり、ね……」
Web媒体の原稿料はピンキリ。P氏が担当する媒体は、限りなく「キリ」に近いものでした(確かめなかったのはA美の不手際なので、今回は飲むことに)。
「で、つい先日そのサイトがローンチしたのよ」
「じゃあ、いよいよリアルで初デート?」
とっくに緊急事態宣言も終わり、GOTOキャンペーンのスタートで景気回復と、にわかに日本中が明るいムードに変わりつつあった頃、A美だけが沈んだ顔をしていました。
「約束はしてたの。でも……」
当日ドタキャン。正確には、いわゆる「バックレ」で会えなかったそう。
「原稿提出するまでは、頻繁にチャットしてたんだけど……」
ローンチ直前「今夜も徹夜だ」とLINEが来たあたりから、P氏からの連絡は少しずつ減ってきていたそうです。オンラインデートもなくなり、LINEの返事も遅くなり、リアルデートの待ち合わせにいたっては「既読無視」だったそう。
「それでも既読はついたから、来てくれると思ってたのに……」
すっぽかされたその日の夜、出会いのきっかけとなったマッチングアプリはアカウント削除。LINEもブロックされていました。P氏はあっけなくA美との連絡手段を断ち、唯一残されたのは原稿提出時に教わったメアドだけになりました。
「原稿目的だったのかな……?」
「……どうだろうね」
マッチングした時点ではA美のことが好みだったのでしょう。しかし先に仕事(取引)のやりとりをしたことで、もしかするとP氏はA美を恋愛対象として見れなくなってしまったのかもしれません。
このお話には後日談があります。
P氏と仕事するにあたり、A美はP氏の名前(と肩書)を聞いていました。P氏は媒体を運営する企業の社員ではなく、そこから委託されたフリーの編集者だったそうです。
「なんと、後で運営会社から『P氏の連絡先を知らないか?』とメールが来たのよ」
運営会社の担当者も、P氏とはオンラインのやりとりだけで、リアルで会ったことはなかったとのこと。メールを送っても返事が来ない、電話しても着信拒否となれば、連絡する術がありません。
「今となっては、名前や肩書も怪しいよね」
だけどA美は、P氏の顔も声も知っています。運営会社の人たちよりは、プライベートも多少は詳しいはず。
「何度も『早く会いたい』って言われてたんだけどね……」
パソコンの画面越しに苦笑いするA美。「まー飲もうか」と缶ビールを差し出しても、オンライン上では「エア乾杯」しかできません。
オンラインとリアルの差はやっぱり大きいな、と私は思いました。
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